前回に引き続き、これまで延べ50,000人以上のリーダー育成に携わってきた一般社団法人日本リーダーズ学会代表理事の嶋津良智氏と株式会社ブレスカンパニー代表取締役の坂東孝浩氏に「これからのリーダーシップ」というテーマで対談をしていただきました。今回第3回で完結です。
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【前回の振り返り】
【第一回】今までのマネジメントが通用しない本当の理由。「上司を育てる」も「女性の活用」も、時代遅れ!?
【第二回】部下が上司にビビってしまう本当の理由。風通しが劇的に良くなる〇〇の手放し方。
PROFILE
嶋津 良智 氏
一般社団法人日本リーダーズ学会 代表理事
リーダーズアカデミー 学長
早稲田大学エクステンションセンター講師
日本唯一の『上司学』コンサルタント。育てる側がよくならないと、社会も、企業も、人も良くならないとの思いから「『あなたのもとで働けてよかった』をすべてのリーダーへ」を理念に、中小企業のための、人づくり、組織づくりに特化をした、スークール形式では日本一のビジネススクール『リーダーズアカデミー』を経営。もっと‘稼ぐ‘組織を作る「上司学」「組織づくりの12分野」メソッドの開発者であり、リーダー育成の第一人者。
主な著書としてシリーズ100万部を突破しベストセラーにもなった『 怒らない技術 』をはじめ『 あたりまえだけどなかなかできない 上司のルール 』、『 だから、部下がついてこない!』、『目標を「達成する人」と「達成しない人」の習慣』などがあり、累計150万部を超える。
坂東 孝浩氏
株式会社ブレスカンパニー代表取締役
手放す経営ラボラトリー所長
早稲田大学卒業。2011年株式会社ブレスカンパニー設立。これまで規模の大小を問わず多種多様な組織の課題解決に携わってきた。しかし、環境の変化が激しさを増してくるとともに、社員教育や人材採用などの各論では根本的な課題解決ができないと感じ始め、2018年手放す経営ラボラトリーを設立。「“人が集まる組織“への進化」をテーマに、最先端の組織や経営スタイルを研究。自社でも“手放す経営“を実践している。
【第三回】上司が変わらない本当の理由。リーダーを育てずに企業を“進化”させていく組織デザインとは?
人を増やさず、育てずに、事業を伸ばしていく方法を考えるのがこれからのリーダーの役割
那須:2030年に向けてのこれからの10年。5Gの実用化に始まり、自動運転の実装などが実現するとされており、さらに便利な世の中が実現していきます。一方日本では人口の1/3が高齢者という超高齢化社会。さらには人口減少も進み、これまでの10年以上に目まぐるしく生活において変化がでてきます。その中で組織のリーダー、また1人のビジネスパーソンとしてどのように向き合っていく必要があるでしょうか。
坂東:企業にとっては高齢化よりも少子化の方が深刻な課題です。これから若い人が国内から減り続けます。一方で企業のほとんどは、若い人材を採用して社員数を増やし、事業を伸ばしていきたいと考えている。
経営者は「うちの会社は、よそよりも若者を確保して業績を伸ばしてやる!」と思っているんですね。でも全ての企業が十分に採用できるだけの若者の数は、物理的にもう存在しないんですよ。だから、採用難が激化しているという訳です。
これからリーダーが本気で取り組む必要があるのは「いかに社員を増やさずに事業を伸ばしていくか」という組織の再構築。そして「いかに優秀な社員に自社を選び続けてもらうか」という社員に向けた魅力づくりです。
できる社員にとってみれば、今は個人でも仕事がしやすい環境ですし、転職の選択肢も多い。いつ会社を辞めても困らない社員たちに「それでも私はこの会社にいたいなあ」と、いかに思い続けてもらえるか、なのです。
どんな魅力を持った組織づくりをしていくのか?社員は自社に何を期待しているのか?というテーマに、経営トップは全力で向き合わないと、いつの間にか“赤字社員しか残っていない会社”になりかねませんよ。
嶋津:そうですよね。だけどなかなか実際は変えようとしないリーダーが多い。その理由としてあげられるものとして私はトップが「何か現状から変わらないといけない」「変えていこう」という部分を面倒くさくなってやっていない部分があると思います。
坂東:正直言って、経営者にとって組織変革を行うメリットがなかったりするんですよね。日本の経営者の平均年齢は59.7歳(2019)です。その年齢の方達は、自分の人生だけを考えるなら、言葉は悪いですが逃げ切れちゃいますから。サラリーマン社長の場合も同じです。任期が終われば“上がり”ですから、業績に寄与するかどうかわからない組織改革のような長期的なものに対しては、自然と優先順位が下がるでしょうね。
嶋津:結局「変化」を起こすというのは、動き出すことでいろいろな新しい問題もおきますし、会社内で軋轢も生みます。必ず反対勢力も生まれます。それに全て1つずつ向き合って進んでいかないといけない。
言ってしまえば、「変化」を起こすことってすごくめんどくさいことなんですよね。(笑)
坂東:私は多くの企業の組織づくりに関わっていますが、管理職の方からは敵視されることが多いです(笑)”なぜわざわざ変える必要があるのか” ”今のままで何が問題なんだ” とか、”せっかく勝ち取った役職を脅かされるんじゃないか”と思われるようです。社内のステイタスや権力って、一度手に入れると、手放したくないですもんね。気持ちはわかります。
嶋津:今いる人材にどう残ってもらうかということという話に戻ると、会社づくりをしていく中で「雇う・雇われる」形を変えていく必要があると思います。そのために私は経営者が従業員のことを「お客様」だと思って接することから意識していくことが必要だと思ってます。意識するだけで対応が変わります。
“お客さんに自社の商品をどう買ってもらうか”を考えるように、自分の会社の従業員に対しても、”どうやったら居心地の良い環境を提供できるのか”ということを考え始めたときに何か会社として新しく変えられる部分が出てくると思います。
坂東:私は ”いかに社員に会社のファンになってもらうか” という視点で組織づくりを考えることが多いです。これって、「社員に選ばれる基準を今までと変える」ということなんですよね。これまでの基準は出世や給料などの“損得”でした。「ファン化」というのは“好き嫌い”が基準です。アーティストのファンになる際に、ライブのチケットが他の人より安いからファンになる訳じゃないですよね。
ファンになってもらう要素は3つです。「仕事の意義・やりがい」「役に立てている実感」「つながり感」この3つの“心の満足”が満たせるからこの会社にいたい!となるような組織のデザインがポイントになります!
【最後に】リーダーシップをアップデートする、最初の一歩。
那須:これまで3回にわたり「リーダー」「組織」についてマネジメントがうまくいかない理由、そして今後の方向性をお二人にはお聞きしてきました。その中で「よし!自分も動き出していこう」と思っていただけた方もいらっしゃるのではないかと思います。しかし「何からやればいいのかわからない…」といった悩みも同時に生まれるのではないかとも感じています。
最後にお二方から読んでいる読者、経営者やリーダーが変わるための「きっかけ」となるメッセージをお願いします。
嶋津:そうですね。確かに何からすれば良いかわからないという人も多いと思います。私はそういうとき、まず10年後でも20年後社会や世の中がどうなっていくのかを考えます。つまり逆算ですね。未来がある程度得たところから「じゃあ自分はどうなっているのか」、「どうなっていたいのか」、それに対して「今の自分がどうなのか」
もし自分が望まない未来が描けるのであれば「どうしたらその未来を変えられるのか」と逆算をして設計をしていくことがまずは必要だと思います。そして自分の考えをチーム内で共有することが大事だと思いますね。やはり共有しないと意味が薄れてしまいます。
坂東::私は極端に考えるタイプなので(笑)、嶋津さんとは違う切り口で。先ほどもお話ししたように、経営者やリーダーが変わるのはかなり難易度が高いです。でももし、組織をよりよく進化させたいなら、もっとラクな方法があります。ひとつには「情報をオープンにすること」です。管理職は権力をいくつか持っているのですが、その1つに「情報へのアクセス権」があります。例えば、会計情報は部長以上じゃないと見れない、とか。何かしら会社の機密情報に触れる際は上司に聞くとか、決済をもらうなどの行動は、かなり生産性を下げてるんですよね。情報の透明化をすることによって、誰でも必要な情報を得ることができるようになれば、生産性は上がるし、社内の風通しが良くなります。また、自然と上司の持ってる権力が薄まっていくことにもつながります。
坂東:もう1つは、管理職の持つ「人事権」を分散することです。人事評価や、給与・賞与を決める権利、人事異動の権利などですね。前回お話した通り、社員が何を気にしているかというと「上からの評価」です。だからつい、評価者の顔色を見ながら仕事をすることになってしまいます。上司にだけ評価されるとしたら、上司に対して遠慮なく物言いはできませんよね。しかし人事権を上司以外にも分散できれば、部下は思い切って発言したり、チャレンジしやすくなります。
私は組織課題のほとんどは、組織や制度のデザインの仕方に問題があると考えています。そこを変えられれば、自然と経営者や上司、そして社員も良い方向に変わっていきますよ!
インタビュアー/ライター 那須昇太