2020年1月以降、新型コロナウイルスによって、世界は経済環境も含め大きな変化が訪れました。

人が集まること、直接接触することが可能な限り避けられるような状況となり、社員全員が集まって、まとまって仕事をしていた状況から多くの企業が、在宅勤務を取り入れるようになりました。

Zoomなどのオンライン会議システム等の新しい働き方ツールを導入したことにより、リモートワークは一般化しつつあり、ワークスタイルが大きく変化したといえるでしょう新しいツールやリモートワークでの生産性への向上など、急激な変化による新しい面ばかりが注目されてきましたが、ここ数ヶ月で、コロナ禍の習慣化に伴い、変化していない部分にも注目があてられるようになってきました。

その代表格が『オフィス』ではないでしょうか。ワークスタイルが決まる最も大きな要因となるオフィスという場が、このコロナ禍によって大きく見方を変えられるようになっています。

今回は、そんなコロナ禍による変革期を迎えているオフィスを中心に新しいワークスタイルをとりあげます。


1.ワークスタイルとは?

ワークスタイルは直訳すると、「働き方」となります。しかしながら、従来の働き方の意味にとどまらず、個人の目線では、「自分なりの働き方」を意味します。

「雇用形態にとどまらず、働く目的、ワークライフバランスの価値観や、勤務時間、就業場所の予防までを含んだ働き方」をワークスタイルといいます。

今回、コロナ禍の影響によって、既存の働き方から、雇用形態を含めた抜本的な見直しが盛んに行われようとしています。このコロナによる新しいワークスタイルの導入を、オフィスという観点から分析し、よりよい経営のための新しいワークスタイルを紹介します

2. コロナ禍によるワークスタイルの変化

コロナ禍になってから、一年以上が経過しました。

感染防止のため、在宅勤務が推奨され、Zoomなどのリモートワーク用のサービスの普及にともない、新しいワークスタイルを取り入れた企業も多いのではないでしょうか?

今までのワークスタイルでは、オフィスに集まり、社員全員がそろった状態でみんなで一緒に仕事をすることが、一般的であり、当たり前となっていました。

そもそも、このようなワークスタイルであった理由の一つに報酬形態があると考えられます

時間報酬型の報酬形態により、勤続年数や勤務態度によって給与が決まっていました。そのため、社員は働く際はオフィスに必ず出勤し、勤務態度や会社にいる時間を企業や上司に示す必要があったのです。

ここ数十年の間に、IT企業やベンチャー企業で、成果報酬型の労働形態が取られるようになってから、フリーアドレス等の新しいオフィスの形が広まり、様々なワークスタイルが広がってきていました。しかしながら、ベンチャー企業のような新しい企業であっても、完全なリモートワークやリモートワークを前提としたワークスタイルはまだ広く行われていませんでした。

そのような中で、コロナ禍が発生し、多くの企業で、突如としてリモートワークが取り入れられます。

もはや、オフィスに通うことが当たり前のワークスタイルは大きく変化し、リモートワークを前提とした新しい会社の形、新しいワークスタイルが広がりつつあります。このような変化の中で、富士通といった大手企業でも、在宅勤務を基本とし、オフィスの廃止を行うなど、今まで当たり前であった働き方やオフィスの意義が問われる自体となっています。


3. コロナ禍で急激に広がる新しいワークスタイル

奇しくも、コロナ禍によって、物理的に集まらずに仕事をすることが可能であることが多くの企業に認識されました。Zoomなどのオンライン会議システムや、discodeといった疑似オフィスをWeb上に再現可能なツールがあることが世間に広く浸透したことで、ワークスタイルは根本から変化しています。

このようなリモートワークの一般化に伴い、報酬形態も大きく変化すると言われています。今までの勤続年数や勤務態度で評価していた時間報酬型はリモートワークには全く向きません。リモートワークで生産効率を高めるには、成果報酬型の報酬形態を導入することが必要であるというのが一般的です。

元から、成果報酬型への切り替えが叫ばれていたこともあり、多くの企業で成果報酬型の報酬形態が取られることが予想されます。成果報酬では、個人がどれだけの成果を挙げられたかで判断するため、そこに至るまでの方法は問われることはありません。オフィスで上司の目の前で働いても、カフェや家にいながら仕事をしても、同じ成果を出せば、同じ報酬を得られるのが成果報酬のあり方です。

そのため、どこでも自分の好きな場所で、会社に求められる成果をあげられる人にとっては、会社に出勤すること自体が必要ではなくなります。

今まで、なかなか導入が進まなかった成果報酬型の労働形態がリモートワークの一般化に伴い、大きく進むことで、ワークスタイルは大きく変化していくこととなるでしょう。


4. 新しいワークスタイルによるオフィスの変化

【参照】https://www.rework.co.jp/column/1441/?r=trf

リモートワークに伴い、働く場所は家から近所のカフェ、オープンオフィスや駅の一角など、職場にできるスペースは、働く人にとって無限に広がりました。

また、リモートワークの導入に伴う報酬形態の変化により、勤務態度や勤務時間を企業や上司に示す必要もなくなるといえます。

このようなワークスタイルの変化によって、オフィスは大きく変化を迫られているといえるでしょう。いままでの最も一般的であった島型のオフィスは、時間報酬型で勤務態度や勤務時間を上司に示すためには、非常に効果的な形のオフィスでした。しかしながら、働き方を上司に見せる必要がなくなった状態では、この形のオフィスを利用するメリットはほぼないといえるでしょう。

社内の中で好きな場所で働けるようなオフィスは、多くの成果報酬型の企業で取り入れられてきました。また、一部の大手企業でも、このようなオフィスが取り入れられてきましたが、今回の大きな変革期において、このようなあたらしいオフィスはより多くの場所で取り入れられるでしょう。

また、オフィスはもういらないという選択をした会社もあります。富士通では、オフィスを廃止し、転勤や単身赴任を解消することを実現しました。

このように、オフィスに求められる機能や働く人が望むオフィスの形態は大きく変化しており、それに伴った新しいワークスタイルを取り入れられる環境ができているといえます。

その中で、コロナ禍によって新しいワークスタイルを取り入れた具体的事例を紹介します。


5. 新しいワークスタイルでは、もはやオフィスはいらない?

一つ目の事例は、コロナ禍を通して、ワークスタイルを見直し、オフィス自体を廃止した会社です。

富士通は、2020年7月6日にオフィスの50%を今後3年間で廃止することを発表しました。7月21日からはコアタイムのないフレックス勤務を原則として、通勤定期の廃止と在宅勤務用の環境整備補助費用の配布を開始しました。

このことにより、単身赴任者は、テレワーク可能な場合、順次自宅勤務となることとなっています。

オフィスを50%削減するだけでなく、富士通では、オフィスを三つの新しい形態に変えることを目指しています。一つは、今のオフィスを軸とした主要拠点に設置する「ハブオフィス」、会議などに使いやすい「サテライトオフィス」、駅付近に多数設置し止まり木として利用する「ホームアンドシェアードオフィス」を追加で3年の間に整備することも発表しています。

富士通では、2017年からテレワークを導入しており、コロナ禍が始まったことで、社員の9割が在宅勤務となっていました。その状況で、社員3万5千人から回答を得たアンケートで、元のようなオフィスに戻りたい意見が少数であったため、今回のような新しいワークスタイルに踏み切ったといえます。

参照:富士通がテレワークを「常態」に、オフィス面積を半減し在宅勤務補助月額5000円


6. ワークスタイルの変化で、オフィスは新しい住宅に

【参照】https://www.rework.co.jp/column/1441/?r=trf

二つ目の事例は、街単位での新しいワークスタイルの提案です。現状のオフィス街が変化することをみこして、不動産業界では新しい動きが出ています。

東京や大阪の大規模オフィス街が、今のような使われ方ではなくなることが予想されており、その変化後の世界を不動産デベロッパーや建築士が予想し、様々な意見や提案を行っています。

その一つが、オフィスの住宅化です。近年、IT企業など少ない人員で大きな売り上げを記録する会社が増えてきた影響で、一部の層では個人の所得が莫大になっています。

そこに目をつけ、今あるオフィスを会社の代表の家にするのが一つの変化後の形になるのではないかと言われています。代表の家として使うだけでなく、そこにオフィス機能も持たせることで、会社のコアとしてのオフィスの役割を残しながらも、社員はテレワークを軸に仕事に取り組める環境を整えようというモデルです。

また、オフィス内にキッチンブースなどの家具を設置したり、屋上でキャンプをしながら働くなど、今までなら考えられないような新しいワークスタイルが予想されています。

オフィス街が住宅地に変化することは、一つの予想にすぎませんが、大きな変化が訪れたことで、全く新しいワークスタイルの仕方が多く提案されているのです。

参照:NewNormal コロナ後のまちと住宅とオフィス(オフィス編)


7. 新しいワークスタイルで、家の中にオフィスができる

【参照】https://www.realtokyoestate.co.jp/column.php?n=1272

リモートワークの普及に伴い、新しく注目が集まっている場所が家です。

この一年間でも、ワークスタイルの変化によって最も活用が進んだ場所は家ではないでしょうか

そのような変化に伴い、家の中の使い方を変化させて、オフィス空間を作り出そうという動きが出てきています。

例えば、押し入れを机として、個人用のリモートワーク場所として利用するような突飛な案など、様々な案がありますが、現状でもっとも注目が集まっているのは、マンションの共用部の一部をリモートワークのシェアオフィスとする案ではないでしょうか。

高層マンションなどでは、これまでジムや共有ラウンジなどが、利用者にとってより魅力的に映り、そのような設備を設けたマンションが多く設計されていました。しかしながら、コロナ禍を経て、住宅に求められる役割は増加しました。そのことで、マンションなどにリモートワーク用のシェアオフィスがついていることが、利用者の需要を満たすという判断が行われれば、すぐにでも広まるのではないでしょうか。

現状でも、すでに、社宅の中にシェアオフィス空間を作り上げた事例もあります。

また、住宅地周辺の駅近くに企業が小さなシェアオフィスを持つことが、企業の価値をあげることにつながるかもしれません。家の中だけでは、限界があるため、シェアオフィスに出なければならない働く人にとって、自分に勤める会社が家の近くにシェアオフィスを持っていることは、ここからの時代では大きな魅力の一つとなるでしょう。

参照:NewNormal コロナ後のまちと住宅とオフィス(住宅編)


8. 新しいワークスタイルでオフィスは会社の顔に

リモートワーク等の新しいワークスタイルが一般的となると、事務作業用のオフィスはもはや必要なくなるといわれています。では、そのような変化の中で、オフィスに残された役割とは何でしょうか。その答えを株式会社Legaseedでは、会社の顔としての役割であると述べています。

株式会社Legaseedは採用代行を主な事業として行っている社員数60人の会社です。そして、驚くべきことに、創業6年にして、採用応募者1万7千人の企業に成長しました。

その成長の裏には、オフィスの役割をうまく使いこなしたことがあると述べています。

Legaseedが進めるオフィスの形のキーワードは3つあります。

それは、「1.社員が来たくなるオフィス」、「2.顧客が来たくなるオフィス」、最後は「3.学生が来たくなるオフィス」、この3つです

単純におしゃれなオフィスにすれば社員が来たくなるような場になるわけではありません。そこには、様々な戦略がねられています。

例えば、会社のミッション、ビジョン、バリューはもちろん、何を大切に経営をしているかが可視化されるようになっています。

また、それらは、オフィスを歩けば、全て分かるようになっているのです。

結果、社員が組織の一員としての誇りを持てるようにデザインが施されています。

個室空間やリラックスしたり、談話ができたりするスペース、カフェスペース、子どもを連れて来られるスペースなどをオフィスに取り入れています。このように、社員がありがたいと感じる機能を多岐に持たせることにより、会社で仕事をしたいという空間を作っていることも非常に注目できます。

お客さんに来てもらいたいと思ってもらえるために、施している工夫はシンプルな仕組みです。それは、オフィス自体をショールームとしてお客さんに見てもらうことです。Legaseedのオフィスを訪れたお客さんはオフィスに驚き、写真を撮ります。これが仕掛けの効果です。写真を撮ってもらえることで、会社の印象は強く残り、思い出すきっかけとなるのです。

新入社員の採用でも同じことがいえます。一風変わったオフィスであっても、印象に残ることで、SNSでの拡散などで採用に関して大きな強みとなります。

このように、社員が集まって働く場所という機能以外に、会社の顔といった機能を見出すことが、新たなワークスタイルの中において、オフィスの新しい利用方法のメインとなるかもしれません。

参照:アフターコロナ、本当にオフィスは不要か? それでも“大きなオフィス”に移転する理由 (1/3)


今回は、オフィスという視点から新しいワークスタイルを取り上げました。コロナ禍により大きな変化を迎えている中、今までのやり方にこだわらない柔軟な発想で、ワークスタイルそのものを変えていくことが必要になり、また、変えるよいきっかけとなっています。

報酬の形態の変化など、働く部分の根本的な部分が変わっていく中で、今回注目したオフィスといったハードの面までケアすることで、よりよい新しいワークスタイルが生まれてくることでしょう。

様々な変化があり、それに対する対応は何通りものワークスタイルとして出てきています。会社の経営に最もあった形態を選択することが最も重要です。


【ライター】
田中 大貴
株式会社 Urth 最高執行責任者

大学では、建築学を専門としながら、2018年4月からは早稲田大学で「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を受講。 その後、文科省edgeNextプログラムの一つである、早稲田大学GapFundProjectにおいて2019年度の最高評価および支援を受け、起業。 早稲田大学建築学科では、株式会社エコロジー計画とともに、コンサートホール、宿泊所の設計、建設に取り組んだ。現在は、「〇×建築」をテーマにwebサービスの開発、営業から、建築の設計及び建設物の運営に関するコンサルタントまで幅広い事業を行う。


【監修】
野田 拓志
株式会社 ビジネスバンクグループ
経営の12分野ガイド
早稲田大学非常勤講師

大学時代、開発経済・国際金融を専門とし、 その後「ビジネス×途上国支援」を行う力をつけるために一橋大学大学院商学研修科経営学修士コース(HMBA)へ進学。 大学院時代に、ライフネット生命の岩瀬氏や元LINEの森川氏に対して経営戦略の提言を行い、そのアイデアが実際に事業に採用される。 現在は、「社長の学校」プレジデントアカデミーの事業部長として、 各地域の経営者の支援やコンサルティングを行う。2017年4月からは早稲田大学で非常勤講師として「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を行う。


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