
会社の成長を目指し日々奮闘する中で、「以前ほどうまくいかない」と感じる瞬間はありませんか?
- かつては有効だった指示が、なぜか社員に響かない
- 組織の成長にブレーキがかかっている気がする
- 社員の主体性がなかなか引き出せない
このような課題の根本的な原因は、経営者であるあなたの「経営スタイル」と、会社の「今」のステージが合なくなっていることにあるのかもしれません。
会社の成長段階が変われば、経営者に求められる役割や「経営者のあり方」も変化します。かつての成功体験が、知らず知らずのうちに組織の成長を妨げる足かせになっているケースは少なくないのです。
本記事では、様々な経営者の「タイプ」を解説し、ご自身のタイプを客観的に診断するフレームワークを提供します。自身の強みと課題を理解し、会社のステージに合わせた「経営」を発揮することで、社員の主体性を引き出し、組織を再び成長軌道に乗せるための具体的な方法を解説します。
1. 【経営者タイプ分け】6つのタイプと代表的な経営者
1-1. 発明家タイプ(起業家タイプ × プロダクト軸)
「まだこの世にない、世界を変える製品やサービス」を生み出すことに情熱を燃やすタイプです。技術やアイデアへの強いこだわりを持ち、その革新性で市場を創造します。
- 代表的な経営者: スティーブ・ジョブズ、本田宗一郎
- 思考の源泉: 「こんなものがあれば、人々の生活はもっと豊かになるはずだ」というプロダクトへの信念。
1-2. 仕組み化タイプ(起業家タイプ × システム軸)
新しい「儲けの仕組み」やビジネスモデルそのものを設計するのが得意なタイプ。個別の製品力だけでなく、商流全体をデザインし、持続的に利益を生む構造を作り上げます。
- 代表的な経営者: 柳井正(ユニクロ)、レイ・クロック(マクドナルド)
- 思考の源泉: 「どうすれば、この価値を最も効率的に、かつ大規模に届けられるか」という事業構造への探求心。
1-3. カリスマタイプ(起業家タイプ × ビジョン軸)
壮大なビジョンや夢を語り、その熱量で多くの人々を巻き込み、大きなムーブメントを創り出すタイプです。彼らの言葉は、社員、投資家、顧客を惹きつけ、不可能を可能にする力を生みます。
- 代表な経営者: イーロン・マスク、孫正義
- 思考の源泉: 「この事業を通じて、人類や社会を次のステージへ導きたい」という未来への使命感。
1-4. 改善追求タイプ(事業家タイプ × プロダクト軸)
既存の製品やサービスを、データ分析に基づいて徹底的に磨き上げ、急成長させる専門家。ABテストなどを繰り返し、ユーザーの行動を科学することで、非連続な成長を実現します。
- 代表な経営者: マーク・ザッカーバーグ(中期のFacebook)、藤田晋(サイバーエージェント)
- 思考の源泉: 「数字は嘘をつかない。データの中にこそ、成長のヒントが隠されている」という事実への信頼。
1-5. 安定経営タイプ(事業家タイプ × システム軸)
巨大企業の複雑な経営を、卓越した管理能力で改革し、安定と利益を最大化させるタイプです。無駄をなくし、現場の隅々まで規律を行き渡らせることで、組織の力を引き出します。
- 代表な経営者: 豊田章男、ティム・クック(Apple)
- 思考の源泉: 「神は細部に宿る。日々のオペレーションの徹底的な改善こそが、競争力の源泉だ」という実行へのこだわり。
1-6. 文化醸成タイプ(事業家タイプ × ビジョン軸)
独自の経営哲学や価値観を組織に深く浸透させ、社員が自律的に動く「文化」を創り上げることに長けたタイプです。理念への共感を醸成することで、エンゲージメントの高い強固な組織を築きます。
- 代表な経営者: 星野佳路(星野リゾート)、稲盛和夫(京セラ)
- 思考の源泉: 「会社は人でできている。社員が誇りを持ち、同じ価値観で動く文化こそが最大の資産だ」という組織への信念。
2. 経営者タイプを決める2つの軸

成功する経営者とは、会社の状況に合わせて自身の役割を柔軟に変化させられる人物です。前章で紹介したフレームワークは、まさにそのための「地図」となります。
このフレームワークのロジックは、「経営者の資質」を2つの軸で捉える点にあります。
2-1. 事業フェーズ軸(起業家タイプ・事業家タイプ)
事業がどのフェーズにあるかを示します。以下の2つに分類されます。
2-1-1. 起業家タイプ(0→1が得意)
事業をゼロから創り出す「0→1」が得意なタイプ
2-1-2. 事業家タイプ(1→100が得意)
既存事業を大きく育てる「1→100」が得意なタイプ
会社の成長とは、「起業家タイプ」が道を切り拓き、「事業家タイプ」がその道を整備し、拡大していくプロセスに他なりません。
創業期には「0→1」の突破力が不可欠ですが、組織が大きくなるにつれて、事業を安定させスケールさせる「1→100」の仕組み作りが求められます。
2-2. 推進力の源泉軸(プロダクト軸・システム軸・ビジョン軸)
事業を前に進める力の源泉がどこにあるかを示します。以下の3つに分類されます。
2-2-1. プロダクト (Product) 軸
製品やサービスそのものの革新性や品質で事業を牽引する力。
(発明家、改善追求タイプ)
2-2-2. システム (System) 軸
効率的な仕組みやビジネスモデルを構築し、再現性をもって事業を拡大させる力。
(仕組み化、安定経営タイプ)
2-2-3. ビジョン (Vision) 軸
ビジョンや理念を掲げてチームを鼓舞し、組織文化の力で事業を推進する力。
(カリスマ、文化醸成タイプ)
経営者タイプの軸を理解することで、「今の会社のステージ」と「自分の得意な型」のズレを客観的に認識し、「経営スタイル」を意識的に変えたり、自分とは違うタイプのパートナーを見つけたりといった、次の一手を打つことが可能になるのです。
3.【経営者タイプ診断】あなたはどのタイプ?強みを伸ばす組み合わせ
それでは、ここまでの内容を踏まえ、あなたがどの経営者タイプに最も近いのかを診断してみましょう。
以下の10個の質問に対し、ご自身の考えや行動に「より近い」と感じるものを選択肢の中から選んでください。深く考え込まず、直感で答えていくのがポイントです。
経営者タイプ診断
あなたに秘められたリーダーシップの源泉を探る
あなたは誰タイプ?
8つの質問から、あなたの思考のクセや強みを分析し、6つの経営者タイプの中から最も近いタイプを診断します。深く考えず、直感でお答えください。
4. 経営者タイプでわかる、最強のパートナーシップ類型

「経営者になってはいけない人」をあえて挙げるとすれば、それは「全部自分でやろうとする人」かもしれません。
どんなに優れた経営者でも、一人ですべての役割を完璧にこなすことは不可能です。Appleのジョブズも、ホンダの本田宗一郎も、ソフトバンクの孫正義も、その傍らには必ず優れたパートナーが存在しました。成功する経営者は皆、自分の「型」を知り、その弱みを補完してくれるパートナーとチームを築いています。
ここでは、6つのタイプ論に基づいた、代表的な3つのパートナーシップ類型を紹介します。
4-1. 類型1:「プロダクト軸」×「システム軸」の連携
(創る人 × 仕組み化する人)
これは、「革新的な製品」を生み出す力と、「それを安定的に供給・販売し、利益を生み出す仕組み」を構築する力を組み合わせるパターンです。特に「0→1」と「1→100」の連携が鍵となります。
- 代表例: スティーブ・ジョブズ(発明家①)とティム・クック(安定経営⑤)
- 解説: ジョブズが「世界を変える製品(プロダクト)」を生み出し、クックは「世界最高のサプライチェーン(システム)」を構築しました。この両輪があったからこそ、Appleは世界一の企業になり得たのです。プロダクト偏重の起業家が、システムに強い経営者をパートナーに迎える好例です。
4-2. 類型2:「プロダクト軸」×「ビジョン軸」の連携
(技術の天才 × 人心掌握の天才)
これは、「最高の製品」を追求する力と、「人を惹きつけ、組織を動かす」力を組み合わせるパターンです。製品へのこだわりが強すぎる経営者が、組織の求心力を失うのを防ぎます。
- 代表例: 本田宗一郎(発明家①)と藤沢武夫(文化醸成⑥)
- 解説: 天才エンジニアの本田宗一郎が製品開発(プロダクト)に没頭する一方、藤沢武夫は経営、販売、財務、そして「ホンダという文化(ビジョン)」の醸成まで、組織のすべてを担いました。技術のホンダを世界企業に押し上げたのは、この二人の完璧な補完関係でした。
4-3. 類型3:「ビジョン軸」×「システム軸」の連携
(夢を語る人 × 現実に落とし込む人)
これは、「壮大なビジョン」で人を巻き込む力と、「そのビジョンを現実の事業オペレーション」に落とし込む力を組み合わせるパターンです。ビジョン倒れを防ぎ、着実な成長を実現します。
- 代表例: 孫正義(カリスマ③)と歴代の経営陣(安定経営⑤など)
- 解説: 孫正義が「300年続く企業」「情報革命」という壮大なビジョン(ビジョン)を掲げて巨大な投資や事業展開を行う傍ら、宮内謙氏をはじめとする経営陣が、通信事業という巨大インフラの運営(システム)を堅実に執行してきました。
もし、社内に適切な人材が見つからない、あるいは客観的な視点が欲しいと感じるなら、外部の専門家や経営者仲間が集うコミュニティに助けを求めるのも有効な手段です。大切なのは、自身の「型」を客観視し、足りないピースを埋める努力を怠らないことです。
まとめ:自身の「型」を知り、次のステージへ

本記事では、経営者の「スタイル」を6つの「型」に分類し、会社の成長フェーズと強みの源泉によって求められる役割が変化することを解説しました。
「0→1」が得意な起業家も、いずれ「1→100」の経営者へと変貌するか、あるいはその役割を担うパートナーを見つける必要に迫られます。 重要なのは、絶対的に正しい「経営スタイル」が存在するわけではなく、会社の「今」に最適なスタイルを選択することです。
どんなに優れた経営者でも、一人ですべての役割を完璧にこなすことは不可能です。スティーブ・ジョブズや本田宗一郎がそうであったように、自身の強みを最大限に活かし、足りない部分を補完するパートナーと最強のチームを築くことが、持続的な成長の鍵となります。
この記事が、ご自身の「経営者としての型」を客観的に見つめ直し、会社の次のステージに向けた新たな一手を考えるきっかけとなれば幸いです。

監修 / 黒田訓英
株式会社ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
経済産業大臣登録 中小企業診断士
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本証券アナリスト協会認定CMA
日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア
JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア
ライター / 保坂 太陽
株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部
株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部
起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者
起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者
早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室