「右腕となる経営幹部が欲しいが、誰をどう育てればいいか分からない」
「役員や部長という肩書きを与えても、結局トップの顔色を伺うばかりで自律的に動いてくれない」

組織の拡大期にある経営者の方から、このような悩みをよく伺います。
「経営幹部」という言葉には、会社法上の明確な定義がありません。そのため、経営者と社員の間で「期待する役割」にズレが生じやすく、それが育成を阻む大きな原因となっています。

本記事では、経営幹部の定義と役割を整理した上で、なぜ御社の幹部が育たないのかという「構造的な課題」と、それを解消して経営チームとして機能させる「3つの具体的ステップ」を対比させながら解説します。

1-1. 【図解】経営幹部の範囲と定義

「経営幹部」とは法律用語ではなく、企業の業務執行権と重要事項の決定権を持つ要職の総称です。
個人としての役割を指す場合は「経営幹部」、組織(チーム)としての機能を指す場合は「経営陣(経営層)」と呼ぶことが多いです。

その範囲は、会社法上の役員だけでなく、実質的な権限を持つ執行役員や事業責任者までを含みます。

▼ 経営幹部の範囲と階層イメージ(4階層モデル)

階層呼称(グループ)該当する役職役割の定義
トップ経営陣(トップマネジメント)・代表取締役
・取締役
・執行役員
・(権限を持つ)本部長
【経営幹部】
会社全体の方向性を決定し、
最終結果に責任を持つ少数のグループ
ミドル管理職層(ミドルマネジメント)・部長
・課長
・マネージャー
【管理職】
決定された戦略を実行し、
部門目標を達成する
ロワー監督職層(ロワーマネジメント)・係長
・主任
・リーダー
【現場指揮】
現場のメンバーを直接指導・監督し、
業務を遂行させる
メンバー一般社員層(プレイヤー)・一般社員
・メンバー
【実務担当】
自身のタスクを遂行し、
成果を出す

このように、「経営幹部」とは役職名だけで決まるものではなく、「経営陣(チーム)」の一員として全社視点の決定権を持つ個人を指します。一般社員や監督職(係長等)とは明確に役割が異なります。

1-2. 経営幹部と管理職の3つの違い

多くの経営者が「優秀な管理職=経営幹部候補」と誤解していますが、両者に求められる役割は非連続です。以下の3つの軸で違いを理解しましょう。

比較軸管理職 (Manager)経営幹部 (Executive)
1. 役割業務の管理と効率化(Management)
資源を最適配分し、目標を達成する
変革と組織の牽引(Leadership)
進むべき方向を示し、組織を引っ張る
2. 視点部分最適(自部門の利益・効率)全体最適(全社の利益・投資)
3. 時間軸短期(今月・今期・1年)長期(3年後・5年後・10年後)

管理職に求められるのは「効率よく回す(マネジメント)」能力ですが、経営幹部に求められるのは「人を導き変革する(リーダーシップ)」能力です。
部門の利害を超えて、全社のために痛みを伴う決断ができるかどうかが、両者を分ける分水嶺となります。

2. 経営幹部の適性チェックリスト(7つの要件)

候補者が経営チームの一員として機能するかどうか、以下のリストで確認してください。
スキル(能力)は後から伸ばせますが、マインド(価値観)とスタンス(姿勢)に欠ける人物を幹部に据えると組織が崩壊します。特に後半の4項目は必須条件です。

経営幹部「適性」チェックリスト

候補者は経営チームの一員として機能するか?
スキル・スタンス・マインドの3軸で診断し、登用の可否や育成方針を判定します。

スキル(能力)

Q1. 戦略構想力(コンセプチュアルスキル)

目の前の現象に囚われず、「なぜ起きたか?」「将来どうなるか?」と本質を捉え、論理的に戦略を描けますか?
POINT: 部分最適ではなく、全社視点で物事を考える力が求められます。
スキル(能力)

Q2. 組織感化力(ヒューマンスキル)

単に仲が良いだけでなく、耳の痛いことも伝え、部下や他部門を巻き込んで動かす「影響力」がありますか?
POINT: 次世代を育てる意思と、人を動かす人間力が不可欠です。
スキル(能力)

Q3. 計数リテラシー(テクニカルスキル)

PL(損益)だけでなくBS(資産・負債)やキャッシュフローを理解し、投資対効果(ROI)に基づいた判断ができますか?
POINT: 経営者と同じ「数字」を見て会話ができる最低限の基礎教養です。
スタンス(姿勢)

Q4. 圧倒的な当事者意識(他責の排除)

「景気が悪い」「部下が動かない」と環境のせいにせず、最終結果を自分の責任として受け止め、矢面に立つ覚悟がありますか?
重要: 管理職と経営幹部を分ける、最も大きな違いです。
スタンス(姿勢)

Q5. 変革への意志(現状打破)

前例踏襲や現状維持を良しとせず、痛みを伴う改革であっても、会社の未来のために断行する勇気を持っていますか?
重要: 「決められたことをやる」管理職から「決める」幹部への転換点です。
マインド(資質)

Q6. 理念への完全な共感(判断軸の一致)

トップが不在の場でも、「わが社の理念に照らせば答えはこうだ」と、経営チームとしてブレずに意思決定できますか?
必須: ここがズレていると、能力が高くても組織を壊す原因になります。
マインド(資質)

Q7. インテグリティ(高潔さ・誠実さ)

私利私欲や部門の利益よりも、会社全体の利益を優先できますか?部下が背中を見てついていきたくなる人間性を持っていますか?
必須: 大人の教育で後から変えることは極めて困難な資質です。

ダメな社長の特徴」も確認しておきたい方は、下記もご覧ください。

3. 経営幹部を育てるために経営者がすべきこととは

「ウチにはこのリストを満たす人材がいない」と嘆く前に、環境を見直してみましょう。幹部が育たない場合、組織構造に以下の3つのボトルネックが存在しています。
経営者がまずすべきことは、これらの阻害要因を取り除く覚悟を持つことです。

3-1. 【権限】経営者が「決定権」を手放す

「任せた」と言いつつ、最後はトップが決めていませんか?
決定権、すなわち「失敗する権利」を持たされていない人間は、いつまで経っても「トップの正解」を探す作業者に留まります。自分で決めて責任を取る経験がなければ、経営者としての当事者意識は芽生えません。

3-2. 【情報】経営者と幹部で「見ている数字」を合わせる

トップは資金繰りや銀行評価まで見ていますが、幹部はPL(損益計算書)の売上しか見ていないことが多々あります。
情報の非対称性がある状態で「経営者目線を持て」というのは無理難題です。同じ情報を見ていないのに、同じレベルの判断ができるはずがありません。

3-3. 【視座】「社内の常識」から脱却させる

会議が「過去の報告」や「社内トラブルの対処」ばかりになっていませんか?
視点が「内向き・過去向き」に固定されていると、未来を創る経営幹部としての視座は育ちません。社内の常識しか知らない状態では、客観的な戦略判断は不可能です。

「経営の全体像」「経営の要素と構造」を把握することは、視座を高めることにつながります。詳しくは下記もご覧ください。

4. 経営幹部を育成する3つの具体的ステップ

前章の課題を踏まえ、名ばかり幹部を真の経営パートナーに変えるための具体的なアクションをステップ形式で解説します。

4-1. ステップ1:失敗する権利ごとの「完全委譲」

まずは「致命傷にならない範囲で失敗させる」ことです。
「この予算と権限は君たち経営チームに任せる。失敗しても私が責任を取るから、最善と思う策を実行せよ」と宣言してください。
自分で決めて、自分で責任を取るというヒリヒリする経験こそが、当事者意識(スタンス)を育て、権限の壁を突破します。

4-2. ステップ2:経営情報の「完全オープン化」

情報の非対称性を解消します。以下の「生の情報」を包み隠さず共有してください。

  • 月次試算表の全項目
  • 資金繰り表とキャッシュフロー
  • 銀行からの評価や借入状況

「あなたたちを信頼している」というメッセージと共に情報を渡すことで、初めて同じレベルの危機感と判断力(計数リテラシー)が養われます。

4-3. ステップ3:会議変革と外部視点の獲得

強制的に視座を引き上げるために、時間の使い道を変えます。

  • 会議変革:過去と未来を「分ける」
    誤解してはいけないのは、過去の数字や報告が不要なわけではありません。経営において「事実の把握」は極めて重要です。
    重要なのは「過去の報告」と「未来の議論」をごちゃ混ぜにしないことです。報告で時間が終わり、未来の話ができないのが最大の問題です。数字報告は事前共有で済ませるか、会議の前半15分で区切り、残りの時間は「未来の戦略」や「全体最適」の議論だけに集中させてください。
  • 外部接続:客観的な視点を持つ
    社内だけで議論していると、どうしても「自社の常識」や「部門の利益」に囚われがちです。
    他社の幹部と交流できる場や経営塾に参加させる目的は、知識を得ること以上に「外の物差し」を持つことにあります。市場や他社と比較して自社を客観視する(メタ認知する)ことで初めて、井の中の蛙を脱し、全体最適の視点を持ったパートナーへと成長します。

また、経営幹部が「経営を学ぶ」ように設計することも重要です。「経営の勉強は何からすべきか?」について詳しくは下記もご覧ください。

まとめ

経営幹部の育成は、スキルを教えることではありません。彼らが機能するための「環境」を整えることです。

これまでお伝えした「3つの課題」と「解決策」を再確認しましょう。

  • 権限を手放す(課題:任せきれない) → 解決策は「ステップ1:失敗する権利ごと委譲する」ことです。
  • 情報格差をなくす(課題:数字が違う) → 解決策は「ステップ2:経営数字を完全オープンにする」ことです。
  • 内向き思考を変える(課題:視座が低い) → 解決策は「ステップ3:過去と未来を分け、客観的な視点を持たせる」ことです。

経営者であるあなたが、情報を開示し、任せる勇気を持つこと。
それが、特定個人のカリスマ性に依存しない、最強の経営チームを作るための最初にして最大のスイッチです。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 保坂 太陽

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室