経営方針と経営理念の違いは?」
経営方針と行動指針の違いは?」

実は、多くの経営者が「経営方針」という言葉の定義が曖昧なまま活用しています。
しかし、定義が曖昧なまま使い続けると、結局有効活用できないまま、「絵に描いた餅」で終わってしまいます。

本記事では、中小企業において有効活用できる「経営方針」の定義を、図でわかりやすく解説。
「優れた経営方針」がもつ10の基準を、チェックリスト形式でご紹介します。ぜひ、自社の経営方針の作成・改善にご活用ください。

目次
  1. 1. 経営方針とは?「経営」の全体像から位置付けを理解する
    1. 1-1. 経営方針とは:戦略を計画に落とし込むための「判断基準」
    2. 1-2. 経営方針の具体例 ~優れた経営方針は「戦略的な判断基準」~
    3. 1-3. なぜ世の中の「経営方針」はわかりにくいのか?
  2. 2.優れた経営方針がもつ10の基準「チェックリスト」
    1. Q1. 「利益が出ても、これはやらない」線引きが明確か
    2. Q2. リソース配分の「優先順位」が決まっているか
    3. Q3. 他社ではなく「自分(自社)」の言葉になっているか
    4. Q4. 社長自身の毎日の決裁と矛盾していないか
    5. Q5. それを守り抜くことが「競争優位」につながるか
    6. Q6. 「なぜその基準なのか」という背景(Why)を語れるか
    7. Q7. 平時の「地図」として、日常的に参照されているか
    8. Q8. できたかどうかが「事実」で判定できるか
    9. Q9. 主語が「社員は」ではなく「会社(私)は」になっているか
    10. Q10. 今の「勝ち方」に合っているか
    11. 2-1. 形骸化する3つの失敗パターンと改善策
  3. 3. 実例で見る中小企業の経営方針
    1. 3-1. 株式会社シグマ技研の例
    2. 3-2. 日東化成工業株式会社の例
  4. 4. 経営方針の作り方:理念と戦略を見直し一貫性を持たせる
    1. 4-1. 手順1:経営理念(羅針盤)を再確認する
    2. 4-2. 手順2:経営戦略(勝ち筋)を明確にする
    3. 4-3. 手順3:戦略を実行するための「判断基準(経営方針)」を決める
  5. まとめ

1. 経営方針とは?「経営」の全体像から位置付けを理解する

「経営方針」を正しく理解するためには、経営の全体像における立ち位置を把握することが重要です。
経営方針は、「経営戦略」と「経営計画」の間に位置し、この2つをつなぐ重要な役割を果たしています。

「経営理念」「経営戦略」「経営計画」「経営資源」の定義や「経営の全体像」について、詳しくは下記もご覧ください。

1-1. 経営方針とは:戦略を計画に落とし込むための「判断基準」

結論から言えば、経営方針とは抽象的な「経営戦略(勝ち筋)」を、具体的な「経営計画(数値・行動)」に落とし込むための「判断基準」のことです。

例えば、「顧客一人ひとりに寄り添う、地域密着のコンシェルジュ戦略」を掲げていたとします。
しかし、現場の目標が「訪問件数」や「回転率」だけで管理されていたらどうなるでしょうか。
現場の社員は目標達成のために、「お客様の話を早めに切り上げる」「効率の悪い顧客対応を後回しにする」といった行動をとるでしょう。これでは戦略と逆行してしまいます。

そこで、「効率よりも、顧客満足度(NPS等)を最優先する」「一見客の獲得より、既存客の深耕に時間を使う」という経営方針(判断基準)を定めます。
すると現場は、「時間をかけてでも丁寧に対応しよう」と判断できるようになり、初めて戦略が実行されるのです。

つまり経営方針とは、「戦略という勝ち筋を進むために、会社として具体的に何を優先し、何をしないかを決めた判断基準」と言えます。

1-2. 経営方針の具体例 ~優れた経営方針は「戦略的な判断基準」~

経営方針の本質は「心構え」ではなく、あくまで戦略を実行するための「判断基準」です。
中小企業において機能する「使える経営方針」とはどのようなものか、化学品メーカーである日東化成工業株式会社の実例を見てみましょう。

【日東化成工業株式会社 経営方針 第4条】

◆いたずらに規模を追わない。
もちろん成長するのは良いことである。(中略)だが、規模の拡大をめざすあまり、日東化成の生真面目な社風に合わないような人間まで雇用したり、採算がとれないような薄利多売にまで手を出したり、ということがあってはならない。日東化成は、自らの器量を超えない範囲で、地に足のついた、身の丈にあった成長をめざす。

これは単なるスローガンではありません。
「薄利多売には手を出さない」「社風に合わない急拡大はしない」という、経営者の強力な意思決定基準(やらないことの決定)です。

この方針があることで、現場は「売上が足りないからといって、安易な値引き案件を取ってはいけないのだな」と迷わず判断できます。

このように、精神論ではなく「AとBで迷った時、会社としてどちらを優先するか(あるいは何を捨てるか)」という物差しを示すことこそが、経営方針の役割です。

1-3. なぜ世の中の「経営方針」はわかりにくいのか?

多くの経営者が「経営方針を作ろう」として混乱するのは、世の中にある経営方針の定義が曖昧で、「何でも入っている箱」になってしまっているからです。これには2つの理由があります。

①上場企業に定められた「経営方針」のルール

上場企業が提出する有価証券報告書には、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」という章を設けることがルールで決まっています
これは投資家への説明用に、理念・戦略・計画などを一括りにした「箱」です。

そのため、モスフードサービス東レなどの大手企業のWebサイトを見ても、経営方針の中に理念や行動指針などが混在して書かれています。
中小企業がこの形式だけを真似ても、現場で使える基準にはなりません。

②「経営方針」と「行動指針(クレド)」の混同

もう一つ、よく混同されるのが「行動指針」です。これは「主語」が違います

  • 行動指針(主語=社員)
    社員が日々の業務でどう振る舞うべきかという「心得」。
    例:「型破りなことをしよう」「野生味を大切に」(インビジョン株式会社の例)
  • 経営方針(主語=経営者・会社)
    会社としてどう舵取りをするかという「経営判断の基準」。
    例:「いたずらに規模を追わない」「結果よりもプロセスを重視する」(日東化成工業株式会社の例)


中小企業が組織を強くするためにまず必要なのは、社員の心得の前に、「社長(会社)がどう意思決定するか」という判断基準(経営方針)を明確にすることです。

社長のすべき仕事」について、詳しくは下記もご覧ください。

2.優れた経営方針がもつ10の基準「チェックリスト」

あなたの会社には、明文化された判断基準がありますか?
もし「ない」、あるいは「あるけれど誰も見ていない」という場合、現場は「社長の顔色」か「個人の感覚」で判断しているはずです。

以下の10項目は、経営学の権威たちの理論に基づいた「強い組織が持っている判断基準」です。
これらが現場に浸透していなければ、組織の迷走は止まりません。自社の現状と照らし合わせてみてください。

経営方針「判断基準」診断

あなたの会社の経営方針は、社長不在でも現場が正しく動く「判断基準」になっていますか?
経営学の理論に基づいた10のチェックリストで、方針の実用性を診断します。

Q1. 「利益が出ても、これはやらない」線引きが明確か

どんなに儲かる話でも、自社の戦略に反するなら「会社として断る」という判断基準がありますか?
マイケル・ポーター 「戦略の本質とは、何をやらないかを選択することである」

Q2. リソース配分の「優先順位」が決まっているか

「品質も納期も」と板挟みになった時、「品質のためなら納期を遅らせろ」のように、会社としてどちらを優先するか即決できますか?
チェスター・バーナード 「組織の定義は、共通目的・貢献意欲・コミュニケーションである」

Q3. 他社ではなく「自分(自社)」の言葉になっているか

どこかの会社のホームページから借りてきた言葉ではなく、自社の独自戦略に基づいた言葉になっていますか?
ジェイ・バーニー 「他社が模倣できない独自性(Inimitability)こそが競争優位の源泉である」

Q4. 社長自身の毎日の決裁と矛盾していないか

方針では「挑戦」を掲げているのに、社長自身が稟議で「失敗」を許さない態度をとっていませんか?言行不一致は方針を殺します。
エドガー・シャイン 「リーダーが何に注意を払い、測定し、統制するかで文化が決まる」

Q5. それを守り抜くことが「競争優位」につながるか

単に「良いこと」を並べただけではなく、それを徹底することで競合に勝てる(独自の価値が生まれる)という戦略的な根拠がありますか?
リチャード・ルメルト 「良い戦略には、診断・基本方針・行動計画の一貫性がある」

Q6. 「なぜその基準なのか」という背景(Why)を語れるか

ただの命令ではなく、その判断基準に至った「社長の原体験(悔しさや失敗)」や「経営哲学」がセットになっていますか?
サイモン・シネック 「人々は『何を』ではなく、『なぜ』に心を動かされる」

Q7. 平時の「地図」として、日常的に参照されているか

トラブルの時だけ持ち出すのではなく、日々の業務で「迷ったらこれを見る」という地図として機能していますか?
ヘンリー・ミンツバーグ 「戦略は、あらかじめ計画されたものだけでなく、現場の実践を通じて形成される(創発的戦略)」

Q8. できたかどうかが「事実」で判定できるか

「頑張る」「徹底する」などの精神論ではなく、「Aを選んだか、Bを選んだか」という事実(資源の使い道)で確認できますか?
ピーター・ドラッカー 「測定できないものは、管理できない」

Q9. 主語が「社員は」ではなく「会社(私)は」になっているか

社員への要望(行動指針)ではなく、「会社としてこうありたい」「経営者としてこう判断する」という宣言になっていますか?
H.イゴール・アンゾフ 「戦略とは、意思決定を行う際のルール(判断基準)である」

Q10. 今の「勝ち方」に合っているか

創業期の「なんでもやる」精神のままになっていませんか?今の戦略フェーズに合わせて資源配分の基準は更新されていますか?
チャールズ・ダーウィン 「最も変化に適応した者が生き残る」

2-1. 形骸化する3つの失敗パターンと改善策

チェックがつかない項目が多くても、落ち込む必要はありません。それは「これから作るべき基準」が明確になったということです。
多くの企業が陥りやすいパターンと、そこからの脱却法(改善策)をご紹介します。

パターンA:ポエム型(言葉がきれいすぎて判断できない)

「誠心誠意」「お客様を大切に」といった耳障りの良い言葉だけの状態。これでは経営資源をどこに集中させればいいかわかりません。

  • 改善策:
    「NG行動リスト(やってはいけないこと)」を作ってください。「こういう案件にはリソースを使わない」と決めることが第一歩です。

パターンB:総花型(優先順位がなく、全部重要になっている)

「品質も、スピードも、コストも、顧客満足も」と全部盛り込んでいる状態。一見完璧に見えますが、現場が板挟みになった時に「どれを捨てていいか」がわからず、結局何も決められなくなります。

  • 改善策:
    「AよりもBを優先する」という比較形式で書き直してください。「コストよりも品質」と言い切るのが経営方針です。

パターンC:マイクロ管理型(細かすぎて思考停止する)

方針というより細かい作業マニュアルになっており、社員がロボット化している状態。これでは想定外の事態に対応できません。

  • 改善策:
    手段(やり方)を指示するのではなく、創業の原体験を語り、目的(あり方)を共有してください。

3. 実例で見る中小企業の経営方針

では、実際に中小企業はどのような経営方針を掲げているのでしょうか。
Webサイト等で公開されている実例を見てみましょう。

3-1. 株式会社シグマ技研の例

精密部品加工を手掛けるシグマ技研では、「経営者宣言」として「目指す会社十箇条」を明示しています。

【シグマー技研経営方針】

一、世の中に必要とされ、未来永劫存続する会社
一、従業員が働く満足感、喜びを得られる会社
一、従業員が互いを思いやれる会社
一、当たり前の事が当たり前に出来る会社
一、有言実行を最良とし、発言を良しとする会社
一、従業員が自ら進んで業務を行う会社
一、強固な体質と環境適応力がある会社
一、営業利益率10%の収益力がある会社
一、経営状況を従業員に開示する会社
一、得た利益は従業員へ還元する会社

【解説】
非常に明確なのは、後半部分です。「営業利益率10%」という具体的な数値目標に加え、「開示する」「還元する」という経営者自身の行動(リソース配分)の約束が記されています。
これにより、現場は「利益率の低い仕事は会社の方針に反する」「利益を出せば自分たちに返ってくる」という明確な判断基準を持つことができ、高収益体質への意識が自然と共有されます。

3-2. 日東化成工業株式会社の例

工業用接着剤などを扱う日東化成工業では、「経営方針17ヶ条」として、非常に具体的かつ戦略的な判断基準を列挙しています。
1-2で紹介した「規模を追わない」以外にも、以下のような強力な方針があります。

【経営方針17ヶ条(抜粋)】

◆第3条:技術力で戦う。
日東化成は、会社の規模で勝負をしない。営業力で勝負をしない。それは我々の強みではないし、お客様もそれを日東化成に求めてはいない。日東化成は徹底して技術力にこだわり、技術力によってお客様の期待に応える。

◆第4条:いたずらに規模を追わない。
もちろん成長するのは良いことである。身の丈にあった成長ならば、我々は喜んで受け入れる。だが、規模の拡大をめざすあまり、日東化成の生真面目な社風に合わないような人間まで雇用したり、採算がとれないような薄利多売にまで手を出したり、ということがあってはならない。日東化成は、自らの器量を超えない範囲で、地に足のついた、身の丈にあった成長をめざす。

【解説】
第3条では「営業力で勝負をしない」と言い切っています。これは営業担当者にとって非常に重要な指針です。「足で稼ぐ営業」や「接待攻勢」にリソースを割くのではなく、技術的な提案内容を磨くことに時間を使え、という明確な指示になっているからです。
「何で勝つか(技術力)」と「何で戦わないか(規模・営業力)」がセットで示されているため、現場は迷うことなく技術研鑽に集中できます。

4. 経営方針の作り方:理念と戦略を見直し一貫性を持たせる

経営方針は、いきなり言葉を作り始めてはいけません。
それは「どの山に登るか(戦略)」を決める前に、「装備(判断基準)」を買いに行くようなものです。
機能する経営方針を作るためには、必ず上流工程である「理念」と「戦略」の見直しから始める必要があります。

4-1. 手順1:経営理念(羅針盤)を再確認する

まず、自社の存在意義である「経営理念」が明確になっているか確認します。
方針は「理念へのルート」です。羅針盤(理念)が定まっていなければ、正しいルート(方針)は描けません。

4-2. 手順2:経営戦略(勝ち筋)を明確にする

次に、理念を実現するための「勝ち筋(経営戦略)」を定義します。
「みんなで頑張る」は戦略ではありません。
「コストリーダーシップ戦略(仕組み化によるローコスト体質)」で攻めるのか、「差別化戦略(他社にない付加価値)」で攻めるのか。
この「勝ち方」によって、現場に求める判断基準は180度変わります。

4-3. 手順3:戦略を実行するための「判断基準(経営方針)」を決める

理念と戦略が固まって初めて、それを現場が意思決定する際の「判断基準」に落とし込みます。
細かな行動を指定するのではなく、「AとBで迷った時、戦略的にどちらを選ぶか」という優先順位を示すことが重要です。

  • 策定のヒント
  • 優先順位(トレードオフ)を示す:「品質のためなら納期を遅らせてよい(品質>納期)」
  • 「やらないこと」を定義する:「単なる価格競争に応じる値引き提案は、評価しない(=やらない)」

このように、「理念(羅針盤)に向かうために、戦略(勝ち筋)があり、そのための判断基準(方針)がある」という一貫性を通すこと。
これが、社長がいなくても現場が正しく動くための鉄則です。

まとめ

経営方針とは、社長の「想い」を、組織を動かすための「機能(システム)」に変えるための設計図です。
ここまで読んで、「これを作るのは大変だ」と感じたかもしれません。しかし、完璧なものを最初から作る必要はありません。

まずは「わが社の戦略を実行するために、現場が絶対に守るべき判断基準は何か? 逆に、やってはいけないことは何か?」を一つだけ決めてみてください。

「うちは、これだけは守る会社だ」。
そのたった一つの確信ある基準が、迷走する組織に一本の芯を通し、社長であるあなた自身を孤独な決断から解放してくれるはずです。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 保坂 太陽

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室