「資金繰りや採用など、日々の問題対処だけで一日が終わっていないでしょうか?」
行き詰まりの原因は、能力不足ではなく「経営資源の役割」の誤解にあります。

本記事でお伝えしたい核心は一つです。
「経営資源とは、戦略を実行するための『手段』にすぎない」ということ。

社長の仕事は、経営資源を集めることではなく、手持ちの資源をどこに投下すれば勝てるかという「投資判断」です。
本記事では、経営資源を明日から使える「判断材料(手札)」として再定義し、社長にとって最も必要な経営資源は何か?明確にします。
読み終えた時、あなたは日々のマネジメントに追われる”経営者”から、企業の成長を見極める”投資家”へと視座が変わっているはずです。

目次
  1. 1. 経営資源とは?4つの資源と6つの資源
    1. 1-1. 基本となる4つの経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」
    2. 1-2. 現代の競争に不可欠な2つの経営資源「時間・知的財産」
    3. 1-3. なぜこの「6つ」を見る必要があるのか?経営学が導き出した「勝つための分類」
  2. 2. 持っているだけでは意味がない!6つの経営資源の「本当の役割」
    1. 2-1. ヒト:価値を生み出す「実行主体」
    2. 2-2. モノ:想いを届ける「物理的手段」
    3. 2-3. カネ:流動性の高い「交換チケット」
    4. 2-4. 情報:期待値を算出するための「判断材料」
    5. 2-5. 時間:絶対に取り戻せない「不可逆なコスト」
    6. 2-6. 知的財産:コモディティ化時代の「選ばれる理由」
  3. 3. 経営資源は「手段」にすぎない。経営における経営資源の役割
  4. 4. 【診断】必要なものを、必要なだけ。自社の「経営資源台帳」を作ろう
    1. Step 1: 必要な経営資源の定義(戦略との整合性)
    2. Step 2: 充足度の確認(量と質のチェック)
    3. Step 3: 期待値の評価(有効活用されているか)
    4. 診断のポイント
  5. 5. 社長の仕事は、経営資源の「投資配分」
    1. Step 1: 期待値の低いものを「やめる」(経営資源の確保)
    2. Step 2: 勝ち筋に「集中する」(経営委資源の投下)
    3. Step 3: 未来へ「投資する」(再生産のサイクル)
  6. 6. 社長が手にすべき「たった1つ」の経営資源
  7. まとめ:経営資源を手段として使いこなそう

1. 経営資源とは?4つの資源と6つの資源

かつては「ヒト・モノ・カネ」の3要素と言われてきましたが、現代経営においては「情報・時間・知的財産」を加えた6要素で捉えるのが定石です。

1-1. 基本となる4つの経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」

事業を成立させるための土台となる資源です。

  • ヒト(人的資源):従業員、経営者、パートナー企業など。
  • モノ(物的資源):設備、不動産、商品、在庫など。
  • カネ(財務資源):現金、借入金、資本金など。
  • 情報(情報資源):顧客データ、市場調査、ノウハウなど。

1-2. 現代の競争に不可欠な2つの経営資源「時間・知的財産」

現代のスピード経営において、勝敗を分けるのは以下の2つの資源です。

  • 時間:意思決定のスピードや、商品開発のサイクル。
  • 知的財産:特許、ブランド、信用、企業文化など。

1-3. なぜこの「6つ」を見る必要があるのか?経営学が導き出した「勝つための分類」

なぜ、経営の世界ではここまで口酸っぱくヒト・モノ・カネ……と分類するのでしょうか?
「ただの言葉遊びではないか?」と思われるかもしれませんが、実はこの分類には、明確な経営学的な根拠があります。

例えば、経済学者のエディス・ペンローズは、「企業とは経営資源の集合体である」と定義しました。彼女は、企業の成長を決めるのは外部のチャンスではなく、内部にある資源をどう活かすか(特に経営者の能力)であると説きました。

また、現代経営の主流であるJ.B.バーニーの「リソース・ベースド・ビュー(RBV)」という理論では、「ライバルに勝てるかどうかは、市場の動向よりも、自社独自の資源(強み)を持っているかで決まる」とされています。

つまり、この6つの資源を漏れなく把握し、磨き上げることこそが、一発逆転の秘策を探すよりも、最も確実に勝率を高める方法だと学術的にも証明されているのです。
だからこそ、私たちはこの6つを、会社の健康状態を測るためのバイタルサイン(重要指標)として、常に注視する必要があるのです。

2. 持っているだけでは意味がない!6つの経営資源の「本当の役割」

「6つの経営資源があるのはわかった。でも、それをどうすればいいの?」
資源はリストアップするだけでは無意味です。
それぞれの「本当の役割」を理解し、正しく使いこなす必要があります。

2-1. ヒト:価値を生み出す「実行主体」

ヒトを単に「コスト」や「労働力」として見てはいけません。ヒトは、他の資源(モノ・カネ)を使いこなし、付加価値を生み出す唯一の主体です。
「人数を増やすこと」を目的にせず、「誰が、どの資源を動かすか」という配置の視点が必要です。

2-2. モノ:想いを届ける「物理的手段」

自社のプロダクトを単に顧客へ渡して終わりではありません。モノは、それが生み出す「価値」を顧客に届けるための媒体にすぎないからです。
単に製品を販売するのではなく、「そのプロダクトを通して、顧客にどんな価値を提供できているか?」という本質を再認識する必要があります。

2-3. カネ:流動性の高い「交換チケット」

カネは経営の血液ですが、貯め込むことが目的ではありません。カネの最大の機能は「交換可能性」にあります。
いつ、どのタイミングで、カネを「より高いリターンを生む別の資源(優秀な人材や高性能な設備)」に交換するか。その変換センスが問われます。

2-4. 情報:期待値を算出するための「判断材料」

情報は、意思決定の質を高めるために不可欠な材料です。
ビジネスにおいて「絶対」はありませんが、良質な情報を集めることで、成功の確度(確率)を上げることは可能です。「何となく」で決めるのではなく、勝つための確度を上げるためにこそ、情報は収集・活用されるべきです。

2-5. 時間:絶対に取り戻せない「不可逆なコスト」

時間は、他の資源とは決定的に性質が異なります。カネやモノは失っても取り戻せますが、時間は失うと二度と戻りません(不可逆性)。
「検討します」と先延ばしにした1週間は、永久に失われたコストです。競合より早く動くこと自体が価値を生む現代において、時間は最もシビアに管理すべき資源です。

2-6. 知的財産:コモディティ化時代の「選ばれる理由」

近年、知的財産(ブランド・信用・技術)の重要性が急激に増しています。
かつては「良いモノ」を作れば売れましたが、機能的な差がつきにくい現代では、「誰から買うか」という信用やブランドが決定打になります。他社が簡単にお金で買えない、あなただけの「選ばれる理由」。それが知的財産です。

3. 経営資源は「手段」にすぎない。経営における経営資源の役割

経営理念、経営戦略、経営計画、経営資源

経営において、「経営資源」は「土台」といえる、重要な要素です。
一方で、「経営資源」は、経営理念を実現するための「手段」にすぎないということを忘れてはいけません。

つまり、「経営理念」→「経営戦略」→「経営計画」→「経営資源」これらが連動していなければ、経営資源は有効に機能しないということです。
「経営資源」を増加させることばかりに気をとられてしまうと、手段が目的化する可能性があるので注意しましょう。

経営における「経営資源」の役割など、経営の全体像を把握したい方は、下記の記事もご覧ください。

4. 【診断】必要なものを、必要なだけ。自社の「経営資源台帳」を作ろう

「ウチには資源がない」と嘆く必要はありません。
重要なのは、全ての資源を最高レベルで揃えることではなく、「勝つための戦略に必要な資源が、必要なだけあるか」を確認することです。

以下の3つのステップで、自社の資源を棚卸し(モニタリング)してみましょう。これを頭の中で整理するだけで、漠然とした不安は消えます。

経営資源モニタリングワーク

経営資源モニタリング

戦略的な資源配分を決めるためのワークシート

現状の棚卸し

6つの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産)の状態を可視化し、「どこに投資し、どこを削るか」を明確にします。

Step 1: 必要な経営資源の定義(戦略との整合性)

あなたの会社が勝つために、本当に必要な資源は何ですか?

  • 技術力で勝つなら「熟練の職人(ヒト)」と「高精度な機械(モノ)」が最重要
  • 営業力で勝つなら「顧客リスト(情報)」と「足で稼ぐマンパワー(ヒト)」が必要

Step 2: 充足度の確認(量と質のチェック)

定義した重要資源は、足りていますか?

  • 過剰:必要以上に抱え込み、コストになっていないか?(余剰人員、過剰在庫)
  • 不足:戦略実行のボトルネックになっていないか?(資金不足、ノウハウ不足)

Step 3: 期待値の評価(有効活用されているか)

その資源は、今、利益を生んでいますか?

  • 高給取りの社員は、それ以上の利益を生んでいるか?
  • 高価な設備は、稼働率を維持しているか?

診断のポイント

「全てを100点にする」必要はありません。戦略上不要な資源は切り捨て、勝負を決める一点(キラーリソース)に資源が集中している状態が理想です。

5. 社長の仕事は、経営資源の「投資配分」

資源の棚卸しができたら、最後はアクションです。
冒頭でお伝えした通り、社長の仕事は「投資判断」です。以下の3ステップで、資源配分を最適化してください。

Step 1: 期待値の低いものを「やめる」(経営資源の確保)

新しいことを始める前に、まずは資源を確保する必要があります。
モニタリングの結果、「コストの割にリターン(期待値)が低い」と判断した事業や業務は、勇気を持って撤退・縮小させてください。
「今までやってきたから」という感情は、投資判断のノイズです。冷徹に「期待値」で判断し、カネと時間を捻出してください。

Step 2: 勝ち筋に「集中する」(経営委資源の投下)

確保した資源を、どこに投下するか。
中小企業が大手に勝つ唯一の方法は、「局地戦での資源集中」です。
「あれもこれも」と分散させれば、すべてが中途半端になります。「この分野なら勝てる」という領域(知的財産や強み)を定め、そこにヒト・モノ・カネを一気に投下してください。

Step 3: 未来へ「投資する」(再生産のサイクル)

集中によって利益が出たら、それを内部留保として貯め込むだけではいけません。資源は使わなければ陳腐化します。生まれた利益は、必ず「次の強み」を作るために再投資してください。

具体的には、以下の3つの領域へ資金(カネ)を変換します。

  • 「仕組み」への投資(情報の資産化):属人的なノウハウを、SFAやマニュアルに落とし込み、会社の「資産」に変えます。
  • 「人」への投資(ヒトの高度化):現場作業は機械や外注に任せ、社員には「考える仕事」をさせる教育投資を行います。
  • 「信用」への投資(知的財産の強化):目先の売上よりも、ブランディングや特許、顧客満足度にコストをかけ、見えない参入障壁を築きます。

この再投資サイクルを回し、資源のパイプを太くし続けることだけが、企業を永続させる唯一の方法です。

社長の仕事」について詳しくは下記もご覧ください。

6. 社長が手にすべき「たった1つ」の経営資源

ここまで6つの経営資源について解説してきましたが、実は社長にとって、これら以上に重要と言える「7つ目の資源」が存在します。
それは、「経営力」です。

どれほど優れた「ヒト・モノ・カネ」を持っていても、それを扱うプレイヤーの腕が未熟であれば、資源は霧散してしまいます。
逆に、手札が弱くても、適切な資源を、適切なタイミングで、適切な量投下する力さえあれば、局面をひっくり返すことができます。この力こそが「経営力」の本質です。

この「経営資源を配分・活用する力(経営力)」自体を、代替不可能な最大の「経営資源」として捉えてみてください。
そう考えると、社長であるあなた自身が学び、視座を高め、心身を整えることこそが、会社にとって最もリターンの大きい「資源への投資」であると言えるのではないでしょうか。

「経営力」を向上させるには、「経営を学び続ける」必要があります。詳しくは下記もご覧ください。

まとめ:経営資源を手段として使いこなそう

経営資源とは、会社の通信簿ではなく、これから戦うための「手札」です。

  1. 認識する:6つの資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産)を漏れなく把握する。
  2. 評価する:戦略に対して「必要なもの」が「必要なだけ」あるか、資源台帳でモニタリングする。
  3. 配分する:期待値の低いものを捨て、勝てる場所に一点集中で投資する。

あなたが明日からやるべきは、現場の穴埋めではありません。一歩下がって全体を見渡し、「この手札をどう切れば勝てるか?」を考えることです。
資源を「手段」として使いこなし、戦略的な経営へと舵を切ってください。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 保坂 太陽

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室