
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の違いが分からない――
会社でMVVを掲げているけれど、いまいち腑に落ちない――
こうした悩みは、実は多くの企業に共通しています。
理由は明確で、MVVがただの“スローガン”として扱われているからです。
しかし、MVVとは本来、映画制作のように組織の「物語」を設計するための最重要要素 です。
あなたが心を動かされた映画を思い出してください。
ストーリーが美しく、ラストシーンが心に残り、登場人物が一貫した行動をとる。
これは偶然ではありません。実は、優れた映画には映画版のMVV(テーマ・ラスト・制作スタイル)が存在しています。そして、これは企業にもまったく同じように当てはまります。
ミッション・ビジョン・バリュー
この3つが揃っている企業は、一貫性があり、社員が自律的に動き、顧客から信頼される。逆に、MVVが曖昧な企業は、意思決定が場当たり的になり、戦略も文化もぶれ続けてしまいます。
つまり、MVVの違いを理解し、自社に正しく取り入れることは、あなたの会社を一段上のステージに引き上げる最強の手段なのです。
この記事では、MVVを「映画」という分かりやすく楽しい比喩を使って直感的に理解し、企業の例や実践方法まで網羅的に解説していきます。
1. ミッション・ビジョン・バリューの違いを一言で
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは一体何なのでしょうか?
よく耳にする言葉ですが、その違いを明確に一言で表すのは難しいのではないでしょうか?
MVVの違いを一言で簡単に把握するために、映画に例えてみていきましょう。

(1)ミッションとは― 企業という1つの作品の“テーマ”
ミッションとは一言でいえば、「企業の存在意義や社会的使命」のことを指します。
従業員や企業が目標を設定する際に用いられ、ビジョン実現のために「何を根本において活動しなければならないのか」という部分がミッションに該当します。
映画で言えば「作品を通して何を伝えたいのか?」というテーマにあたるものです。
一般的な映画には、作品を通して監督が伝えたいメッセージ(=テーマ)が設定されているものです。作品テーマが曖昧な映画はストーリーが散漫になるように、ミッションが曖昧な企業は意思決定が統一されなくなります。
(2)ビジョンとはー未来の“ラストシーン”
ビジョンとは将来の理想像や目指すべき方向性を言葉にしたものです。ビジョンは国家や企業などの将来像を描いたものから、一個人のありたい姿を描いたものまで、さまざまです。
ビジョンは映画で言うラストシーンをどう描くか?に当たります。ラストシーンが決まれば、それまでのストーリーは自然に決まり、スタッフの役割も明確になります。企業でも同じように、ビジョンが定まれば戦略・投資・意思決定など、普段の行動のひとつひとつの方向性がピタッとそろうようになるのです。
(3)バリューとはー社員の価値観や行動基準のスタイル
バリューとは組織で共通する価値観や行動指針です。企業がもつミッションやビジョンを実現するために「どうやるのか」という具体的な行動を定めたものです。ビジョンやミッションからずれのないバリューの提示が理想的とされています。
バリューは映画で言う各映画監督固有の制作スタイルにあたります。例えば下記のようなものがあります。
・宮崎駿監督の「手書き表現や現実に基づいた世界観」
・北野武監督の「独特な過激描写や静寂の美学」
・ウォン・カーウァイ監督の「即興主義」
映画監督が伝えたいテーマやラストシーンを描くためには、作品全体を通して、決められた価値観や行動基準に基づいて撮影されなければなりません。これと同じように、企業がミッションやビジョンを実現するためにはそれに基づいた「仕事の価値観」、「行動基準」を定めることで、組織としての“再現性”を高めていくことが大切なのです。
経営者として「MVV」以外にも押さえておくべき言葉の定義(経営理念、経営戦略、経営計画の違いなど)があります。詳しくは「経営とは何か?」の記事をご覧ください。
2.「君の名は」からみる ミッション・ビジョン・バリュー
ここまでで、MVVの違いとその内容について大枠を理解することができたのではないでしょうか?それではここからは、実際の映画に基づいてMVVをみていきましょう。新海誠監督の大ヒット作品 『君の名は。』 を例に解説していきます。
ミッション:「ムスビ(つながりの大切さ)」

この映画を観終わると、多くの人は“見えなくても、忘れてしまっても、想いはつながっている”という感覚を抱いたことでしょう。これは作品全体テーマの中に「人と人とのつながり」を表す描写が数多く存在しています。
・入れ替わりを通じた“見えないつながり”
・作品全体に登場する「ムスビ」という言葉
・糸、ヒト、時間、組紐、彗星などすべて「つながり」の描写
すべてが 「ムスビ(つながり)の大切さ」を表現するために存在している と言えます。
ビジョン:「二人が再会し、時間と距離を越えて結ばれる未来」

二人が最後階段で出会うシーンは今でも印象的なのではないでしょうか?そうです。この二人の再開というラストシーンが決まっていたからこそ、途中のストーリー展開が生まれているわけなんですね。
もし「君の名は」のビジョンが「再会しない悲劇的な未来」であったなら、まったく異なる作品になっていたでしょう。
「再会する未来」をラストに設定したことで、観客に「ムスビ(つながり)」という強烈な印象を生み出したのです。
バリュー:光、時間、風景の描写を中心に据える世界観設計

この映画には、作品全体に共通して「光」、「時間」、「風景」を駆使した描写が詰め込まれています。例えば下記のような描写です。
・光の描写を中心に据える世界観設計
→朝焼け・夕暮れ・街灯・光の粒子などが感情の揺らぎを表現
・都市と自然の対比を活かす構図
→東京のスピード感×糸守の静けさ
・キャラクターの“喪失と再生”を丁寧に描く
→新海作品の一貫した主題
1つの作品には全体に共通した撮影のスタイルというものが存在しています。このスタイルを大事にして撮影することは、作品のテーマやビジョンを表現することにつながるのです。
このように、優れた作品には必ずと言っていいほど、MVVが存在しています。これらをきちんと設定することで、作品全体が一貫性のある良いものへとなっていくのです。
(公式サイト)より作成
3.サントリーの事例で見る ミッション・ビジョン・バリュー
ここまで、MVVを映画に例えて紹介してきましたね。では実際の企業がどのようなMVVを設定しているのでしょうか?ここからは実際の企業であるサントリーを例にMVVを見ていきましょう。

(公式サイト)より作成
サントリーの飲料事業は、自動販売機・流通・営業活動などを通じて「生活のすぐそば」に価値を届けることが強みです。ただ飲み物を売るのではなく、「その人の今日に合った一杯」を届ける。日常の当たり前に寄り添い、社会を支えることがMissionとして明確に定義されています。
サントリーのビジョンでは、社員の未来像=会社の未来像となっています。つまり、会社のミッションである社会全体に最適なドリンキングライフを提供するためには、社員一人ひとりがブランドであるという思いが込められているのです。愛され続ける社員の行動の積み重ねが社会全体を支える価値をつくるのです。
①お客様の立場で考える②挨拶と笑顔から始める③挑戦し、成長し続ける④プロとして品質を磨く⑤環境のために行動する
サントリーでは、ミッションとバリューを実現するために5つの行動基準が設定されており、これらがバリューに当たります。「社会全体を支える」「愛され続ける社員」というものを実現するためにはこれら5つの行動を会社全体でとることが大切なのです。
「MVVを理解すること」以外にも、より具体的なクレドについても学ぶ必要があります。詳しくは「クレドとは?」の記事をご覧ください。
4. ミッション・ビジョン・バリューを生かすには?~策定から浸透までのヒント~

ここまでで、MVVの違いとその内容について、その具体例とともに紹介してきました。しかし、ただ、違いを理解して終わりではありません。今回学んだ内容をもとに、実際にMVVを策定あるいは改修し、自社の中で実行してこそ意味があるのです。ここからは、MVVの策定から実行までの5ステップを紹介していきます。
1.自社の事業やその目的を整理する
まずは、自社の事業や目的を明確に整理することが大切です。自社の現状を把握し、経営陣や従業員の意見を集約することが重要です。社長や役員の意見やや価値観をMVVに反映させるために、意見箱やアンケートを活用しましょう。これにより、創業時からの思いや将来の目標が明確になり、会社全体のMVVの基盤が築かれます。
2.ミッションを決める
「私たちは何を社会に届けたいのか?」
「会社が存在する理由は何か?」
「消えたら誰が困るのか?」
まず第一に、ミッションの策定を行わなければなりません。ミッションは“普遍的で永続的”であることが重要です。その企業が社会全体にとってなぜ存在するのかをもう一度深く考える必要があります。このミッションがしっかりと軸となることで、その後のビジョン、バリューもより強固なものへとなるのです。
3.ビジョンの策定
「5年後・10年後にどうなっていたいか?」
「社会はどう変わり、私たちはどう貢献するか?」
「社員がワクワクする未来像か?」
ミッションの次はビジョンの策定です。ビジョンが明確だと、戦略がブレなくなります。自分たちが理想とする明確な未来像に向かって戦略を策定することで、企業は1つの未来に向かって歩むことができるのです。
4.バリューを定義する
「私たちの未来を作るには、どんな行動をとるべきか」
「組織に共通するべき行動基準やルールは?」
次にバリューの策定です。バリューはミッションやバリューで決めた内容をより“行動レベルで具体”に落とし込む必要があります。自分たちが描いたテーマや未来を実現するためにとるべき行動はなにか?その基準やルールを明確に定める必要があります。こうすることで、会社全体の方向がより同じ方向へと向くことができるのです。
5.浸透させる
役職者が率先して行動で示す
採用基準・評価制度に組み込む
日々の朝礼でMVVを共有し合う
MVVはただ策定して終わりではありません。実際の自分たちの業務の中に根付かせることで初めて効果を発揮するものです。そのためには、経営者自らが率先して業務の中でMVVを使っていかなければなりません。まずは朝礼や採用基準・評価制度のなかに用いてみることから始めてみましょう。作って終わりではなく、“実行して初めて意味を持つ” のです。
以上、駆け足ですがMVVの策定から浸透までのヒントを紹介しました。ポイントは、まず自社の軸となるテーマから考えてみることです。その上で、日々の朝礼や採用基準などで繰り返し使う。こうすることで半年、一年と経つうちに会社の雰囲気や意思決定の質が少しずつ変わっていくはずです。
MVVを自社に適した形で活用していくためには、経営学び、経営の全体像を把握しておく必要があります。詳しくは下記もご覧ください。
5. MVVはあなたの会社の「物語」を作る設計図である

この記事では、MVVを映画に例えて解説してきました。
ミッション=作品テーマ
ビジョン=ラストシーン
バリュー=撮影スタイル
この比喩を使うことで、本来難しいMVVの違いが「一瞬で腑に落ちた」のではないでしょうか。
映画と同じように、企業も
ミッション(テーマ) → ビジョン(未来) → バリュー(制作スタイル)
の順番で設計されていると、一つの“作品”として美しくまとまります。
MVVを理解し、実践することは、あなたの会社の物語をより力強く、美しく、魅力あるものに育てます。
あなたは自社という映画を、どんな作品にしたいですか?
監修 / 黒田訓英
株式会社ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
経済産業大臣登録 中小企業診断士
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本証券アナリスト協会認定CMA
日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア
JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア
ライター / 島田 航汰
株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部
株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部
起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者
起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者
早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室





