地域活性化 事業モデル

2014年から政府が打ち出した「地方創生」ですが、今では全国で取り組みがなされ、自治体だけでなく、多くの企業も地域活性化をもたらすための事業を行っています。

一方で、様々な取り組みがなされる中で、地域活性化に成功した事例もあれば失敗してしまった事例もあります。地域を活性化することを成功させると、その地域だけでなく企業にも、企業イメージの改善や採用など多くのメリットを享受することができます。

この記事では、そんな地域活性化に成功した事例を分析したことで発見した3パターンをご紹介します。


地域活性化とは

地域活性化 事例 逆さ地図

【出典】〈逆さ日本地図〉(早稲田大学グループ「21世紀の日本」、1970より)

地域活性化とは、地方を活性化する際に、企業や団体が自分たちだけ儲けるのではなく、所属する地域にも影響を波及させるような活動をしていくことです。

2014年に話題になり始めた当初は、地域活性化は地方で行われるのが普通でした。しかしながら、地域活性化の行為自体は、場所に関係なく、お金を首都に一極集中させるのではなく、地域で循環するように変えることであるため、実は東京でもできる活動です。

ポイントはある地域で支払ったお金が、東京などの都市に送られるのではなく、その地域に回収され、地域内での経済の循環が起きる事です。

そのためには、「まち、ひと、しごと」の3要素が上手くかみ合うことが必須です。


政府の政策

地域活性化 事例 政府

政府は、地方創生を仕掛けるためにいくつか政策を打っています。それが3本の矢というキーワードで打たれた次の政策です。

《地方創生3本の矢》

  • 地方創生関連交付金
  • 地方創生人材支援制度
  • 地域経済分析制度

【経済の矢】地方創生関連交付金

基本的に使い方に制限のある交付金が多いのに対して、この交付金は、各自治体がやりたいことに対して政府が交付金を支給し、ある程度自由な形で使えるようにしています。
自主的・主体的な取り組みで先導的なものを積極的に支援する交付金となっているので、自治体は地域課題解決に向けた前向きな取り組みができます。 

また、この交付金は、目標達成のための具体的指標であるKPIと、継続的改善手法であるPDCAサイクルを組み込み、従来の「縦割り」事業を超えた取り組みを支援しています。

【人材支援の矢】地方創生人材支援制度

政令指定都市や県庁所在地などの都市の大きさに関係なく、必要なところに必要な人材を派遣できる制度です。国家公務員のみならず大学の教授やシンクタンクなどの民間からの派遣も可能なので、地域に必要な人材をうまくマッチングできれば、地方創生の可能性が広がります。

また、デジタルに関する知識や経験を持つ人材の派遣に特化したデジタル専門人材派遣制度もあります。

【情報支援の矢】地域経済分析システム(RESAS)

地域経済分析システム(RESAS)とは、国内の産業・人口・観光等の地域経済に関わる様々なビッグデータを見える化したシステムのことです。
システムだけでなく、このシステムの利用支援を行う人材を地方の補助機関に派遣することで、各地域でのビックデータの活用を後押ししています。


地域活性化成功事例

地域活性化は、政府の援助もあり、多くの企業事例があります。数年間の実施の中で、様々な成功も収められてきました。それらの事例を分析すると、大きく3つのパターンがあることがわかります。

地域活性化 分析

上のポジショニングマップのように、地域活性化のためには、当然ながら活性化のさせたい地域と節点を増やす必要があります。そのため、企業は、何らかの方法で地域と関わることが重要ですが、その関わり方には幅があります。
「企業丸ごと移住するパターン」、「企業は移住せず、地域のビジネスを巻き込んだビジネスモデルを築くパターン」、「ほかの会社を地域に呼び込む、または起業を促すパターン」があります。
お金の動きは、基本的に東京などの都市から、地域へ流れることを促すビジネスモデルが多いです。しかしながら、移住するパターンや、地域で起業を促すパターンは、地域の中で経済が循環することができています。東京などの消費地に依存せず、地域のみで自立することも活性化で実現できているのです。

働く場所を変えて成功した事例

地域活性化 分析 働く場所の変更

地域活性化のために、企業と自治体がパートナーを組むことも珍しくありません。大都市での、人口過密などの問題や個人にあった働き方が推奨される中、地方に会社機能の一部を移転したり、支店を作ることで地域活性化に取り組んでいる企業もあります。このパターンでは、お金も地域の中で循環することができ、大都市に依存せず自立ができる点が自治体にとって良いことです。企業にとってもメリットが多く、採用で多くのライバルがいる大都市から離れることで、競争の少ない環境で採用活動が可能となり、地域の優秀な人材を採用することができます。また、企業が地域の活性化に取り組む事業を行うことで、地域と一体化し、自然とその地域のヒトから愛着を持ってもらえることも非常に大きなメリットといえるでしょう。

中村ブレイス株式会社

地域活性化 中村

【参照】http://www.nakamura-brace.co.jp/

島根県大田市に本社のある、中村ブレイス株式会社は、義肢装具や、医療器具を製作する企業です。義肢は、本物の手足にそっくりに作ることができる独自技術をもち、多くの就職希望者が訪れる人気企業です。
そのような実績のある中村ブレイス株式会社は、地域活性化のために古民家を50軒以上改修しています。街の景観を維持するために、行っている改修ですが、この改修によって、メディアに取り上げられるだけでなく、古民家に若者が移住してきました。若者が入って来たことによって、より地域の活性化がはかられたといえるでしょう。

株式会社小松製作所

小松 地域活性化 事例

【参照】https://www.komatsu.jp/ja

建設機会の分野では、世界のKOMATSUといってもいいほどのシェアをもつ株式会社小松製作所ですが、地方に本社機能の一部を移転することで地域の活性化を行っています。
具体的な施策は、石川県小松市に、社員の人材育成機能を担う拠点「コマツウェイ総合研修センタ」を設立し、約150人が東京本社などから移転した事です。 それまで、複数事業所に分散されていた教育機能を同拠点に集約することで実現しました。
また、2011年度からは地方採用も開始しています。
2011年5月13日には、小松市民との交流を目的とした「こまつの杜」を設立しています。里山での自然観察や、理科・ものづくり教室など、小学校向けの社会体験の機会などを提供することで、地域の子どもの育成と同時に、自然環境の保全に役立てると同時に、地域の人々との接点を増やすことに成功しています。


地域を巻き込んだビジネスモデルで地域を活性化した事例

地域活性化 事例 2

地域活性化のためのビジネスでは、該当地域との接点を企業がもつことが必須となります。一方で、先ほど紹介した企業の支店等を該当地域に移動させる方法を取らなくても地域と接点をもつ方法はあります。
そういった方法の一つが、地域を巻き込んだビジネスモデルを行うことです。従来では、①特に地方で生産を行い、途中に仲介人が入り、最終的に都市に住む消費者へと届けるシステムか、②大きな企業が各地の生産者から一手に買い集め、商品を一気に自社ブランドで販売する形がとられてきました。しかしながら、インターネットが普及し、生産者と消費者が直接つながれる仕組みができたことで、地域、特に地方と都市の消費者を直接巻き込んだビジネスモデルで、仲介人を減らした分、地域と消費者が密接に関わることで地域を活性化しているビジネスモデルが生まれています。ここでは、その代表例の二つを紹介します。

シタテル株式会社

地域活性化 事例 シタテル

【参照】https://sitateru.co.jp/

熊本発のベンチャー企業である「シタテル株式会社」はインターネットやIoTなどのテクノロジーを駆使して、国内初の衣服生産プラットフォームを提供しました。
オリジナル商品を作りたい小規模なブランド、メーカーなどの発注者と、国内の熟練技術と経験を持つ職人や縫製工場をマッチさせる流通プラットフォーム「sitateru」を提供し、発注者の開拓から、生産工場のネットワーク化までを同社が管理しています。
これまで衣類の卸売業者が担っていた役割を一貫して担うことで、流通経路を整備し、発注者側にとっては多様な商品を短納期で、なおかつ低価格で受注できるようになり、さらに生産側にとっては発注者と直接つながることで利益率が向上しているといいます。
地域活性化の面では、地方にある多くの縫製工場などをネットワークし、発注者につなげることに成功したことで、地方の縫製工場が活性化することに成功しています。

株式会社ビビットガーデン

タベチョク 地域活性化 事例

【参照】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000025043.html

株式会社ビビットガーデンはメディアにもよく出演している秋元社長が率いる第一次産業にフォーカスしたベンチャー企業です。
野菜や肉などの第一次生産物の流通を改革するサービス「食べチョク」を運営しています。スーパーなどの小売店を通すと、生産者の手取りは売値の3割となると言われています。株式会社ビビットガーデンでは、生産者と消費者を直接つなぎ、生産者の粗利を80%とすることを目標としているそうです。
地方で働く、生産者を第一に考え、よりこだわりをもって生産が続けられるように考えてビジネスを行っているため、自然と地域活性化ができている事例といえるでしょう。


地域で起業を促し、地域活性化を実現した事例

地域活性化 事例 パターン3

魅力や事業性のあるポテンシャルを秘めているのに、まだまだ輝けていない地域も多くあります。そのような地域で、事業を起こす支援を行い、地域を活性化させる方法もあります。
まだまだ、事例が少ない分野ですが、ここでは次の事例を紹介します。

西粟倉村

岡山県の西粟倉村は、村が一括管理する人工林を地域資源としています。そして、その人工林を整備する過程で生まれる材を活用し、30以上のローカルベンチャーが誕生しました。
エーゼロ株式会社が、西粟倉村役場と連携して、地方の起業家を育てる「ローカルベンチャー支援事業」を実施したことで、これほど多くの起業ができたと言えます。起業家の育成によって、地方の仕事の創出や人材の発掘・育成の場づくりに取り組んでいるといいます。
ただ、起業を支援するだけでなく、創業後の支援も手厚く次の三つのサポートを行うことで安定した経営ができるように支援しています。

  • 外部の専門家によるアドバイスや企業家同士の交流の場を提供し、移住から創業、運営、事業拡大までを一貫してサポートする仕組みを作る。
  • ローカルベンチャーの需要に応じた木材を提供できるよう、森林組合や木材流通事業者、行政等が連携して「百年の森林センター(仮称)」を新設。森林資源量の把握から伐採、製品販売までを効率的に行う木材供給体制を整えていく
  • 林業のみならず、農業や水産業にも展開することで、ベンチャー事業の拡大加速化を図る

こういったエーゼロ株式会社と西粟倉村役場の連携により、西粟倉村で生まれた12社の合計で7億円の売上げを達成するまでに至ったといいます(平成26年度実績)。

また取り組み自体が、インターネットを中心に外部へと発信されることで、西粟倉村では年間で約90名ほどの移住者を増やすことに成功しています(平成26年度実績)。


今回は、地域活性化に注目して、成功した事例の分析を行い、3つのパターンを紹介しました。地域活性化を促すビジネスモデルは、単に企業が儲かるだけでなく、地域の発展にも貢献でき、地域の人々からも愛されるチャンスを持つことができる素敵なビジネスモデルです。ぜひチャレンジしてみてください。


【ライター】
田中 大貴
株式会社 Urth 最高執行責任者

大学では、建築学を専門としながら、2018年4月からは早稲田大学で「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を受講。 その後、文科省edgeNextプログラムの一つである、早稲田大学GapFundProjectにおいて2019年度の最高評価および支援を受け、起業。 早稲田大学建築学科では、株式会社エコロジー計画とともに、コンサートホール、宿泊所の設計、建設に取り組んだ。現在は、「〇×建築」をテーマにwebサービスの開発、営業から、建築の設計及び建設物の運営に関するコンサルタントまで幅広い事業を行う。


【監修】
野田 拓志
株式会社 ビジネスバンクグループ
経営の12分野ガイド
早稲田大学非常勤講師

大学時代、開発経済・国際金融を専門とし、 その後「ビジネス×途上国支援」を行う力をつけるために一橋大学大学院商学研修科経営学修士コース(HMBA)へ進学。 大学院時代に、ライフネット生命の岩瀬氏や元LINEの森川氏に対して経営戦略の提言を行い、そのアイデアが実際に事業に採用される。 現在は、「社長の学校」プレジデントアカデミーの事業部長として、 各地域の経営者の支援やコンサルティングを行う。2017年4月からは早稲田大学で非常勤講師として「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を行う。


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