近年注目を浴びているダイナミックプライシング。聞いたことがあるけれど、どういうものなのかわからないと疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回はダイナミックプライシングが何かについて説明します。また、ダイナミックプライシングを採用することによるメリット・デメリットや、導入方法、成功例・失敗例ついて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

ダイナミックプライシングの概要

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing:変動料金制)とは、商品やサービスの需要に応じて価格を変動させる手法です。商品やサービスの原価をもとに価格を決めるのではなく、販売する時期における需要に応じて、価格を変動させていきます。

ダイナミックプライシング注目の理由

ダイナミックプライシングが注目される理由はいくつかあります。

まず第一に、ダイナミックプライシングは需要と供給の変動に即座に対応することができます。需要が高いときに価格を上げ、需要が低いときに価格を下げることで、企業は収益を最大化することができます。

また、ダイナミックプライシングは顧客の行動を分析し、個々の顧客に合わせた価格を設定することができます。これにより、顧客にとって魅力的な価格を提供しつつ、企業の収益を最大化することができます。

さらに、インターネットやモバイルテクノロジーの普及により、価格の変動をリアルタイムで管理することが容易になりました。これにより、企業は迅速に市場状況に対応し、競争力を維持することができます。

総じて、ダイナミックプライシングは効率的な価格設定を可能にし、企業の収益を最大化するだけでなく、顧客のニーズにも合致する柔軟性を提供するため、注目されているといえるでしょう。

ダイナミックプライシング採用のメリット

ダイナミックプライシングがなぜ注目されるかを把握したところで、ダイナミックプライシングの採用のメリットを見ていきましょう。

メリット1:収益性の安定・最大化

ダイナミックプライシングを導入することで、需要や供給の変動に即座に対応し、価格を最適化することができます。これにより、企業は収益の安定化だけでなく、最大化も実現できます。

メリット2:人的リソースや在庫の最適化

ダイナミックプライシングを活用することで、人的リソースをより効率的に活用し、在庫の適切な管理を実現できます。これにより、無駄なコストを削減し、リソースを最大限に活用することが可能となります。

ダイナミックプライシングのデメリット

一方で、ダイナミックプライシングの採用にはいくつかのデメリットも存在します。

デメリット1:費用の増大

ダイナミックプライシングを実装するには、市場データの収集や分析にかかる費用が増加します。また、価格変動に伴うシステムの維持や更新にもコストがかかります。これらの費用が増大することで、採用企業のコスト負担が増える可能性があります。

デメリット2:顧客離反のリスク

ダイナミックプライシングによって価格が頻繁に変動する場合、顧客は価格の不透明さや不公平さを感じる可能性があります。これにより、顧客が競合他社に移行するリスクが高まります。また、価格の不安定さが信頼を損なう可能性もあります。

ダイナミックプライシング導入に必要なこと

ダイナミックプライシングの設定には、2つのステップを踏む必要があります。

・売上、顧客ニーズの分析
・AIやビックデータを活用し最適価格の算出

それぞれ詳しく見ていきましょう。

その1:売上、顧客ニーズの分析

最初に、売上と顧客に関するデータが必要です。これには、売上データ、顧客の購買履歴、アンケート結果、顧客のフィードバックなどが含まれます。オンライン販売の場合はウェブサイトやアプリの分析ツールを使用してアクセスデータも収集します。

次に、収集したデータを整理し、分析のための準備を行います。売上データを時系列や地域、製品カテゴリなどの異なる側面で分析し、顧客の購買履歴からパターンや傾向を抽出します。また、アンケート結果やフィードバックから顧客のニーズや要求を理解します。

その2:AIやビックデータを活用し最適価格の算出

市場にはダイナミックプライシングを支援するさまざまなITツールやソフトウェアが存在し、例えば需要の変動を自動で分析したり、価格戦略を実行する際の一部プロセスを自動化することができます。ビジネスのニーズに合わせて、最適なツールを選択しましょう。

さらに、選択した価格戦略やソフトウェアの有効性を確認するために、小規模なテストを実施することも重要です。テスト結果を分析し、必要に応じて戦略を調整し、継続的な改善を行いましょう。市場は常に変化しているため、一度設定したダイナミックプライシングのルールも固定的ではなく、定期的な調整が必要です。

ダイナミックプライシング事例(成功例・失敗例)

続いて、ダイナミックプライシングの成功事例と失敗事例の具体例を紹介します。

実践成功事例その1:Jリーグ

日本のプロサッカーリーグのJリーグは、①相⼿の質・強さ、②興⾏が⾏われる時間帯、③興⾏開催場所と座席の場所の3つの変数を利⽤してダイナミックプライシングを導入しました。

J1リーグの横浜 F・マリノスは、ダイナミックプライシングを導⼊したことにより、導⼊前と⽐べてスタジアムの稼働率は約 7%増加、またグッズ収⼊も約8%増加しました。

この事例のようなスポーツや⾳楽の興⾏における座席は、在庫として保有することが出来ないという商品特性があります。チケットの価格を下げ、1 席でも多く販売することができれば、低価格でも収⼊となります。また、⼊場者数の増加に⽐例し、飲⾷店などの売店収入も増加するため、収益の最⼤化を測ることが可能となります。

⼀⽅で、スポーツや⾳楽ライブの興⾏で⽀出の⼤半以上は「固定費」が占めることから、⼊場者数を増やすことが利益を出すための最善の⽅法といえるでしょう。

総括すると、Jリーグの入場チケットは、ダイナミックプライシングの導入により収益の安定化と最大化を実現した例といえるでしょう。

実践成功事例その2:Airbnb

多くのホテルがダイナミックプライシングを活用しているなか、個人が所有する物件などを宿泊施設として貸し出す民泊サービスでも、ダイナミックプライシングの導入は進んでいます。

Airbnbでは、宿泊施設のホストが自分で部屋の値段を決めることができます。しかし、宿泊施設の経営については素人であろうホストが、最適な価格設定を行うことは容易ではありません。そこでAirbnbでは、以下のような最適価格を推奨するサービスを用意することでダイナミックプライシングの導入を実現しました。

①スマートプライシング
1泊あたりの宿泊料金を需要に応じた価格に自動調整し、最適価格化してくれるという機能です。ただし、価格の最終決定権はホストとなっています。宿泊料金の最低価格・最高価格を設定することや、カレンダーから特定の日付の宿泊料金をホスト自身で変更することも可能です。

参考:スマートプライシング – Airbnbヘルプセンター

②スーパーホストアンバサダー
新規ホストの方は料金設定に非常に頭を悩ませるでしょう。Airbnbでは、料金設定に関する1対1のサポートを提供するスーパーホストアンバサダーを紹介するサービスも行っています。

参考:料金設定の際にエ⁠リ⁠ア⁠と状⁠況を考⁠慮す⁠る – リソースセンター – Airbnb

実践失敗事例その1:飲食店

ある飲食店がダイナミックプライシングを導入した際、価格の頻繁な変動や透明性の欠如が顧客に不信感を与え、結果として顧客離れを招きました。また、予測不能なイベントや天候の影響により、価格設定が一貫性を欠いたことも一因となりました。

実践失敗事例その2:自動販売機

一部の自動販売機事業者がダイナミックプライシングを導入しましたが、価格の急激な変動や予測不能な要因により、顧客からの不満が高まりました。特に商品の価格が同じ場所でも時間帯や天候によって大きく変動したことが、顧客の信頼を失う要因となりました。

ダイナミックプライシング採用成功に必要なポイント

ここまでダイナミックプライシング採用のメリット・デメリット、成功例・失敗例をそれぞれ見てきました。それではダイナミックプライシング採用成功にはどんなポイントが必要なのでしょうか。

ダイナミックプライシングの採用を成功させるためには、

・価格変動を許容できる業種・できない業種を把握
・たとえ顧客が抵抗感を持っている業界でも、目的やメリットを明確にする


この2つが特に重要です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

成功のポイント1:価格変動が効果的な業界・効果的でない業界を把握

ダイナミックプライシングを採用する前に、業界や商品によって価格変動が効果的かどうかを把握することが重要です。一部の業界や商品では、価格変動が一般的で受け入れられる一方で、他の業界や商品では価格の安定性が重視される場合があります。業界ごとの特性を理解し、適切な価格戦略を策定することが成功の鍵となります。

以下、価格変動が効果的な業界・効果的でない業界の例です。

価格変動が効果的な業界:

業界効果的な理由
航空需要が時間帯や季節によって大きく変動するため。
宿泊顧客の予約時期や滞在期間による需要の変動を価格に反映させることが可能。
イベントチケットコンサートやスポーツイベントなど、イベントの人気に応じて価格を変動させる。
レンタカー地域のイベントや観光シーズンの影響を受けやすい。
エネルギー(電力・ガス)使用量がピーク時には高価格を設定することで需要をコントロール。
小売(オンライン)消費者行動のデータを基に価格を即座に調整可能。
交通(タクシー)交通状況や天候による需要の急激な変化に対応。

価格変動が効果的でない業界:

業界効果が限定的な理由
一般消費財価格の頻繁な変更が消費者の不信感を招く恐れがある。
基本食料品必需品であるため、価格変動が社会的な問題を引き起こす可能性がある。
医療品規制が厳しく、価格の自由な変動が許されにくい。
教育関連サービス価格の透明性が求められるため、頻繁な価格変更は適さない。
公共交通社会的責任と公共の利益を優先し、一定の価格を維持する必要がある。

成功のポイント2:たとえ顧客が抵抗感を持っている業界でも、目的やメリットを明確にする

顧客が価格変動に抵抗感を持つ業界でも、ダイナミックプライシングの目的やメリットを明確に伝えることが重要です。顧客にとって価格変動が不利益になる可能性がある場合でも、価格の変動が製品やサービスの価値をより適切に反映し、顧客により適切な価格を提供することで双方にメリットが生まれることを示すことが重要です。透明性とコミュニケーションが成功の鍵となります。

食料品の例で考えてみましょう。

食料品は必需品であり、その価格変動が社会的な問題を引き起こす可能性があるため、一般的には価格変動が効果的でない業界に分類されます。しかし、ダイナミックプライシングの導入により「フードロスを削減する」という目的のもと価格を下げて販売することで、在庫回転率の向上と粗利率の向上を両立することが可能となります。

ダイナミックプライシングを適切に活用し、競争力の向上を実現

熾烈な市場競争に耐えるためには、ダイナミックプライシングのポイントを押さえることが不可欠です。

ダイナミックプライシングのポイントを押さえることで、需要と供給の変動に迅速に対応し、競合他社との差別化を図ることが可能となります。価格変動を許容できる業種や商品においては、ダイナミックプライシングを通じて収益を最大化し、市場シェアを拡大することができます。

さらに、顧客が価格変動に抵抗感を持つ業界でも、目的やメリットを明確に伝えることで、顧客との信頼関係を築きながら価格戦略を展開することが可能です。

透明性とコミュニケーションを重視し、市場動向や顧客ニーズに敏感に対応することが成功の鍵となります。ダイナミックプライシングを適切に活用することで、企業の成長と競争力の向上を実現することができるでしょう。

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【ライター】
酒井 颯馬
株式会社ビジネスバンク
Entrepreneur事業部 事業責任者

早稲田大学商学部にて経営学を専攻する井上達彦研究室に所属。「起業家精神とビジネスモデル」を研究テーマに、経営理論を学ぶと同時に研究対象におけるビジネスモデルの研究やそれにまつわる論文の執筆に励んでいる。
社長の学校「プレジデントアカデミー」のHPに掲載するブログの執筆、起業の魅力と現実を伝えるインタビューサイト「the Entrepreneur」にて起業家インタビューを行い記事を執筆している。

【監修】
黒田 訓英
株式会社 ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
中小企業診断士

早稲田大学商学部の講師として「ビジネス・アイデア・デザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL」の授業にて教鞭を執っている。社長の学校「プレジデントアカデミー」の講師・コンサルタントとして、毎週配信の経営のヒント動画に登壇。新サービス開発にも従事。経営体験型ボードゲーム研修「マネジメントゲーム」で戦略会計・財務基礎を伝えるマネジメント・カレッジ講師でもある。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。日本ディープラーニング協会認定AIジェネラリスト・AIエンジニア資格保有者。経済産業大臣登録 中小企業診断士。