一生懸命考えたサービスがどうしても競合と被ってしまう。と、頭を悩ませてはいませんか。

ユニークだからと言って、必ずしも自分が最初に考え付く必要はないのです。
新幹線の先頭部分がカワセミのクチバシをモチーフに作られたように、優れたビジネスをその本質的構造から捉え、自分にしかできない方法で肉付けしていけば良いのです。

実際に、ビジネスの世界において独創的とされる企業の多くは、実は模倣を駆使して成功してきました。 例えば、トヨタの生産方式はアメリカのスーパーマーケットを模倣しましたし、スターバックスのコンセプトはイタリアのイタリアのエスプレッソカフェを模倣して生まれました。

この記事では、読者のみなさんの模倣先となりえるようなユニークなビジネスモデルを持ついま注目の企業を7つ厳選して紹介します。さらには、実際に模倣する際のポイントをご紹介します。

この記事は、みなさんがビジネスモデルという仕組みレベルからユニークなビジネスを展開するためのアイデアの種になります。

面白いビジネスモデル7選

ここからは、筆者がビジネスモデル自体やその増やし方に面白さを感じた事例を幅広い業界から7つ厳選して紹介します。

各事例の特殊さを「ビジネスモデル図解」というツールを用いてわかりやすく紹介していきます!

「ビジネスモデル図解」について、詳しくは下記をご覧ください。

利用上の注意

本記事でビジネスモデルを紹介する際に用いられるビジネスモデル図解は、早稲田大学商学部井上達彦研究室で作成したものです。『ゼロからつくるビジネスモデル』東洋経済新報社、の付録で紹介されています。

また、CC BY 4.0なので、「井上達彦研究室のゼロつくBM図解」と引用の上ご自由にお使いください。

Amazon

GAFAの一つにも数えられる世界的大企業のAmazonは、主にインターネット上で物の売り買いができるECサイトとAWSと呼ばれるクラウドサービスを展開しています。Amazonの面白いところは、これらのサービスにおいて3つの異なるビジネスモデルを採用していることです。

どのような違いがあるのかそれぞれ見ていきましょう。

1つ目が、ECサイト内の「小売事業」です。これは、ビジネスモデル図解で分類すると小売モデルを採用しています。ECサイトの中でも、Amazonが販売者となっているものであり、Amazonが仕入れてきた商品の在庫を持ち、購入希望者に対して売る役割を担っています。

2つ目は、同じECサイト内の「マーケットプレイス事業」です。購入者からすると分かりづらいかもしれませんが、こちらは小売事業とは異なりビジネスモデル図解のマッチングモデルを採用しています。商品の売り買いはあくまで、小売業者と購入希望者の間で行われるもので、Amazonは在庫を持たずプラットフォーム上で、両社を引き合わせる役割です。これにより、自社倉庫だけでは不十分だった商品ラインナップを大きく拡充する事ができました。

3つ目は、クラウドサービスの「AWS」です。これは、ビジネスモデル図解の補完材プラットフォームモデルを採用しており、自社でクラウドサービスを手掛けるだけではなく、補完的パートナーにAWS内で利用できるソフトウェアを開発してもらうことにより、自社の価値をさらに高めているのです。

ここまでに説明したように、Amazonは異なるビジネスモデルを上手に組み合わせることで成功している企業なのです。

TBM

TBMは、プラスチックや紙の代替となる世界初の新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発・製造・販売する日本のスタートアップ企業です。数多あるスタートアップの中でも、日本経済新聞社の2022年版「NEXTユニコーン調査」記事で、推計企業価値1,339億円、第5位に選ばれています。

この企業の大きな特徴は、石灰石を主原料とする新素材「LIMEX」。全世界に大量に眠る石灰石を原料とした新素材をプラスチックや紙の代替として用いることで、可採年数50年といわれる石油や2100年までに40%が失われる木などの、限りある資源を保全することが期待されています。

しかし、TBMの特徴は素材だけではありません。ビジネスモデル図解で分類すると、シンプルな製造販売モデルですが、そのビジネスモデルにも実は面白さが隠されています。

それは、「既存のインフラを利用することで、LIMEXの生産だけでなく、回収・再生利用までを一貫して行うエコシステムを構築したこと」です。

資源枯渇問題にアプローチする画期的な新素材LIMEXであっても、それが一般のごみと一緒に捨てられてしまっては、資源を使い続けている状況に変化は生まれません。そこで、TBMは既存のインフラで回収されたごみを買い取り、横須賀の自社リサイクルプラントに運び込むことでLIMEXの再生利用を実現しました。

自社だけで、エコシステムのすべてをカバーするのではなく、ごみ収集という既存のインフラを柔軟に利用することで、エコシステムを作り上げたのです。

エムスリー

エムスリーは、国内の医師のうち90%以上が登録するプラットフォーム「m3.com」を運営する企業です。コロナ禍の医療DX業界に対する追い風の影響もあり、2013年3月期には200億円台であった売上高は2023年3月期には2,300億円を超え約10倍に成長しました。

エムスリーの面白さは、ビジネスモデルの多角化のスピードとその領域です。

エムスリーは2000年創業の企業にも関わらず、2023年時点で既に17の国に累計73の事業を展開しています。このビジネスモデルの多角化は、主にM&Aによって行われます。実際に直近5年ほどは年10件以上のM&Aを行っており、メガベンチャー企業としては異例といえるでしょう。

そんなエムスリーの事業多角化ですが、大きく2つのフェーズに分けることができます。

まず1つ目が、日本で大成功した医療従事者向けWebサイト「m3.com」のモデルを海外に対して展開するフェーズです。エムスリーは、このWebサイトにおいて医師に対して医薬品を訴求することで、製薬会社から主な収益を得ており、ビジネスモデル図解で分類するとマッチングモデルを採用しています。実際にエムスリーは、全世界で650万人以上の医師会員を有し、その割合は全世界の医師の50%にのぼります。

近年は、アジア、ヨーロッパ、北米に対するこの海外展開パターンも一通り落ち着きを迎えました。

そこで現在取り組まれている、2つ目のフェーズがまだ病気にかかっていない層をターゲットにした「ホワイトジャックプロジェクト」です。こちらは、提供するサービスによりマッチングモデル継続モデル使い分けています。

実際に現在までに第5弾まで発表されており、健診代行やがん防災プログラム、生活習慣病改善サービスなどを手掛けています。

このように、エムスリーは一見すると数多くの事業を展開していますが、まずは日本において成功したモデルを海外に展開する、次に予防医療分野に参入するという長期スパンの戦略の元で、多角化を進めていることがわかります。

フィルカンパニー

フィル・カンパニーは駐車場の上部にある空間に建物を建設する「空中店舗フィルパーク」事業とガレージ付き賃貸住宅「プレミアムガレージハウス」を展開する企業です。

未活性空間をその時代や場所にあった企画で活性化していくことを目的としています。

フィルカンパニーの面白さは、今まで見過ごされていた駐車場の上部の空間に着目し、土地オーナー、テナント、利用者の三者すべてが得をする仕組みを作り上げていることです。特に、「空中店舗フィルパーク」事業においては、土地オーナーとテナントを引き合わせる立場におり、マッチングモデルを採用していることがわかります

土地オーナーにとっては、元から所有している土地で既存の収入を維持したまま、低リスクで追加的な利益を得ることができます。

テナント企業にとっては、市街地に割安な価格で店舗を構えることができます。

利用者にとっては、地域の魅力が増すことに繋がります。

このように、フィルパークが主体となって今まで未活用だった空間に土地オーナー、テナント、利用者の三者すべてが得をする施設が建設されているのです。

ピクシーダストテクノロジーズ

ピクシーダストテクノロジーズは、波動制御技術をコア技術とした製品開発、販売を行う筑波大学発の研究開発型スタートアップです。メディアアーティストの落合陽一さんが共同創業者を務めていることでも話題になった会社で、2017年創業と創業から日は浅いものの日本企業で現在10社しか上場していないNASDAQ市場に2023年8月に上場しています。

ピクシーダストテクノロジーズの面白さは、「社会的意義や意味があるものを連続的に生み出す孵卵器となる」というミッションを掲げ、7年で7つの商品を市場に送り出していることです。

その商品ラインナップを見てみると、オフィス用の吸音材から、ヘアケアデバイス、会話を視覚化するサービスまで多岐にわたります。

ビジネスモデル図解で分類すると、一般の製造業の企業と同じように製造販売モデルを採用していますが、これほど多くの業界で商品を発売することができた理由は、大きく2つの特徴にあります。

まず1つ目が、商品開発の元手となる技術の得方です。これまでの大学発スタートアップでは、教授が自らの研究成果を社会実装するために起業することが一般的でした。

しかし、ピクシーダストテクノロジーズは筑波大学や東北大学と提携し、創業後も継続的に技術シーズを大学から買い取ることで、連続的な商品開発を実現しているのです。

2つ目が、買い取った技術を元に進められる製品開発です。ピクシーダストテクノロジーズでは、技術をどう商品化しようと決めてかかるのではなく、多くの業界の現場へ足を運び、ヒアリングをする中で商品化の方向性を定めていきます。そして、実際に商品化する際には、各業界の企業と手を組み、協働で商品開発を行います。

これらの仕組みにより、創業から年月が浅いながらも、多くの商品を発売する事ができているのです。

ZMP

ZMPは、自動運転ロボットを製造・販売する企業です。物流支援ロボット「CarriRo」や自動運転コンピュータ「IZAC」等の製品を展開しています。2008年からロボット本体と並行して「自動運転プラットフォーム」の開発を進め、現在では業界で唯一の自動運転のハードウェアとソフトウェアを一貫して開発する企業として知られています。

ZMPの面白いポイントは、自社内にIZACという自動運転技術と、RoboMapという自動運転ロボット用のマップ、そしてROBO-HIという配送ロボットをアプリにつなげて連動させるための技術をすべて持っていることです。これらの技術により、自動運転ロボットがエレベーターを利用して階を移動したり、ロボット同士が細い通路でも円滑にすれ違うことが可能になります。さらに、ZMPはこれらのロボットの頭脳を自社のロボットで使うことに固執せずに、世界中のロボットに導入できるようにしています。

このうち、自社のロボット販売においては製造販売モデルを、自社のロボットの運用サービス事業では継続モデル、他社のロボットの運用支援サービスでは補完材プラットフォームモデルをそれぞれ採用しています。

このようにZMPは、自社のロボットに固執するのではなく、街のOSとして自社の運用支援サービスを提供することで、ロボットの製造販売を行う企業ではなく、いろんな会社のロボットが円滑に動くためのプラットフォーマーとしての役割を担っているのです。

NOT A HOTEL

NOT A HOTELは別荘を使いたい期間のみ、年10〜360泊まで購入できるというサービスです。ホテルと異なり、所有権を有している事も大きな特徴です。購入者のいない期間は、NOT A HOTELがホテルとして、別荘を貸し出します。そのため、購入者には維持管理や清掃の手間が一切かかりません。

NOT A HOTELの面白さは、NOT A HOTEL、購入者、ホテル宿泊者の三者が全員得をするビジネスモデルを実現している点にあります。ビジネスモデル図解で分類すると、別荘販売事業もホテル事業も小売モデルを採用していますが、いったいどのように三方良しのビジネスを実現しているのか、別荘の建設段階と、その運営段階の二つに分けてその面白さを見ていきましょう。

まず1つ目に、別荘建設段階です。NOT A HOTELは別荘の図面やCG図を作った時点で、サイト上で販売し、完売した後に建設します。そのため、NOT A HOTELは売れ残りや自社で在庫を持つリスクをなくすことができているのです。また、建設にかかる莫大な費用を事前に用意する必要がないという事も大きなメリットとしてあげられます。

2つ目に、建設後の運営段階です。購入者は、10泊以上で好きな泊数を購入できるので、別荘に滞在しない期間の費用を払う必要がありません。一方でNOT A HOTELは、購入者がつかなかった期間に貸し出すために、別荘を買うほどの資金はないという人向けにメンバーシップ制度を持っています。このメンバーシップ制度にとても面白い工夫がなされています。それは、年1〜3泊×47年という期間と、NOT A HOTEL側が泊まる場所と日付けをすべて指定する仕組みです。これにより、NOT A HOTELは時期によって空室が発生することを未然に防いでいます。さらに、このメンバーシップをNFTとして発行することで、メンバーシップ利用者は簡単に宿泊券を売り買いすることができるようになっており、日付けと場所が指定される不便さを解消しています。

これらの取り組みにより、NOT A HOTELはNOT A HOTEL、購入者、ホテル宿泊者の三者が全員得をするビジネスモデルを実現しているのです。

面白いビジネスモデルを模倣するポイント

確かにおもしろいけれど、自分のビジネスとは違うのでどう活かしたらいいかわからない。

そんな方も多いのではないでしょうか。ここからは、面白いビジネスモデルを模倣するためのポイントのうち、特に重要な点をお伝えします。

抽象化して企業の構造を見抜く

まず1つ目に、抽象化して企業の構造を見抜くことです。

すぐに目につくのは、自分と同じようなビジネスをしている企業の成功事例かもしれません。しかし、その企業を模倣するとなると、模倣先の企業と完全に競合関係になるうえ、多くの同業者もその企業を模倣することになるため、とても厳しい戦いが待っています。

そこで、大事なことは自分とは違うビジネスを模倣することです。確かに自分とは業界や業態が違い、置かれている状況が違う企業を模倣することは困難なように思うかもしれません。

しかし、取引構造を見抜いたうえで、その企業特有の価値と合わせて考えれば、異業種であってもビジネスの構造を模倣することができます。

その際には、この記事で用いたビジネスモデル図解のように図示することがおすすめです。企業に関する多くの情報がある中でも、商品の流れやお金の流れなどにフォーカスして追うことで、骨格部分を逃さずにすっきりと企業全体を捉えることができます。

現場やお客様の声に十二分に耳を傾け、PDCAを回す

2つ目に、現場やお客様の声に十二分に耳を傾け、PDCAを回す事です。

これは、ビジネスの多くの場面において強調されることだと思います。

しかし、一見遠く見える業界から模倣してきているからこそ、理論上は効果的な模倣だったとしても、現場やお客様の思いと、ずれてしまうこともあり得ます。

だからこそ、模倣をして終わりではなく、構造部分は保ちながらも細部にこだわり、何度も修正を加えながらより一層自分のビジネスにフィットした形を模索する必要があります。

ここまでに述べたように模倣を成功させるには、業界や業態に縛られずに視野を広く持って模倣先を探し、模倣した後もより適した形にするために修正を続けることが重要なのです。

まとめ

この記事では、面白いビジネスモデルを持つ企業を7つ厳選して紹介し、模倣する際のポイントについてもお伝えしました。

「面白いビジネスモデル」と一口に言っても、その面白さは事業内容の目の付け所から、多角化の仕方、収益の得方まで多岐にわたります。

また、これらの事例は確かにそれぞれ特定の業界におけるケースではありますが、一方で、後半に述べたポイントに注意しながら、模倣すれば、その目の付け所やプロセスといった成功のエッセンスは他の業界に対しても十分転用可能なものだと思います。

読者の皆さんに、個別具体的なものである事例に対しても、ビジネスモデルで捉える事によって構造的な面白さが伝わっていれば幸いです。

【ライター】
加藤 壮一郎
株式会社ビジネスバンク
Entrepreneur事業部 

早稲田大学商学部にて経営学を専攻する井上達彦研究室に所属。「起業家精神とビジネスモデル」を研究テーマに、経営理論を学ぶと同時に研究対象におけるビジネスモデルの研究やそれにまつわる論文の執筆に励んでいる。
社長の学校「プレジデントアカデミー」のHPに掲載するブログの執筆、起業の魅力と現実を伝えるインタビューサイト「the Entrepreneur」にて起業家インタビューを行い記事を執筆している。

【監修】
黒田 訓英
株式会社 ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
中小企業診断士

早稲田大学商学部の講師として「ビジネス・アイデア・デザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL」の授業にて教鞭を執っている。社長の学校「プレジデントアカデミー」の講師・コンサルタントとして、毎週配信の経営のヒント動画に登壇。新サービス開発にも従事。経営体験型ボードゲーム研修「マネジメントゲーム」で戦略会計・財務基礎を伝えるマネジメント・カレッジ講師でもある。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。日本ディープラーニング協会認定AIジェネラリスト・AIエンジニア資格保有者。経済産業大臣登録 中小企業診断士。