多角経営とは?メリット・デメリットや失敗しないための4つの鉄則

1. 多角経営とは

多角経営とは、企業が既存の事業分野以外の市場や業界に進出し、複数の異なる事業を同時に運営することを指します。

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と呼ばれる現代において、一つの事業(一本足打法)に頼り切ることは、市場環境の変化や技術革新によって一瞬にして経営基盤が揺らぐリスクを孕んでいます。

多角経営は、単なる「事業拡大」ではなく、時代の変化に適応し続けるための「攻めの防御策」とも言える戦略です。

「多角経営」の前に、そもそも「経営とは何か?」必要な要素・構造に不安がある方は、下記もご覧ください。

2. 多角化の「4つの形」

「本業の売上が頭打ちだ」「隣の会社が新事業で成功している」…そんな時、つい新しい事業が魅力的に見えてしまうものです。
しかし、 中小企業にとって、安易な多角化は、本業でコツコツ稼いだ大切な利益を食いつぶし、会社全体の体力を奪う結果に終わります。

多角化で失敗しないための絶対条件は、「自社の強みを、どこで活かすか」を考え抜くことです。

その戦略を考えるための羅針盤となるのが、多角化の「4つの形」です。
自社が目指すべきはどのパターンなのか、冷静に考えてみましょう。

2-1. 垂直多角化

製品を作るメーカーが、自ら販売店を出す(下流への進出)、あるいは原材料の仕入れ先を自社で持つ(上流への進出)といったケースです。

  • :パン屋さんが、お店の隣でカフェを経営し、自慢のパンをその場で提供する。
  • 特徴:中間マージンをカットして利益を増やしたり、品質を自社でコントロールしたりできます。

2-2. 水平多角化

既存の加工技術やすでに自社を信頼してくれているお客様を活かします。

  • :家具屋さんが、既存の仕入れルートや店舗網を活かして、カーテンや照明などの「インテリア雑貨」も売り始めるケース。
  • 特徴:ゼロから新しい技術や客層を開拓する手間を省き、効率よく売上を積み上げられます。

2-3. 同心多角化(関連型)

自社の「得意技」は変えず、その技が喜ばれる「新しい市場」を探します。

  • :精密な金属加工が得意な町工場が、その高い加工技術を活かして、全く別の「キャンプ用のアウトドア用品」を開発・販売するケース。
  • 特徴:自社にしかできない「技術の凄み」で勝負できるため、新しい市場でも勝ちやすいのが特徴です。

2-4. 集成多角化(非関連型)

これまでの事業とは切り離して、全く新しい柱を立てます。

  • :建設会社が、地域の高齢化に合わせて、培ってきた建物管理の知識とは別に「介護事業(老人ホーム)」を立ち上げるケース。
  • 特徴:本業とは景気の波やリスクが異なる業界を選ぶことで、万が一本業がダメになっても会社が潰れないようにすることが可能。

多角化以外の経営戦略について、詳しく知りたい方は下記もご覧ください。

3. 多角経営のメリット・デメリット

多角経営は、いわば「会社の柱を増やす」作業です。
柱が増えれば不況に強くなりますが、一本一本が細くなっては意味がありません
経営者として、良い面と悪い面の両方をしっかり天秤にかける必要があります。

メリット①リスク分散/収益の安定

「一本足打法」の経営は、その業界が冷え込んだ瞬間に会社全体がピンチに陥ります。

複数の事業を持っていれば、たとえ一つの事業が苦しくなっても、他の事業が稼いで穴埋めをしてくれるようになります。
これにより、どんな不況が来てもビクともしない、打たれ強い経営基盤が作れます。

メリット②シナジーの創出

新しい事業が、既存の商売と「お互いを高め合う」ことです。
単なる道具の使い回しではなく、例えば「本業の看板があるから、新事業が最初からお客様に信頼される」「新事業で出会った新しいお客様が、本業のサービスも利用してくれる」といった良い循環を指します。 このように、事業同士が手を取り合うことで、バラバラにやるよりも大きな利益を生み出せるようになります。

メリット③採用力の強化

採用力の強化 「一つの仕事しかできない会社」よりも、いろいろな分野に挑戦している会社の方が、意欲のある若手や優秀な人材にとって魅力的に映ります。 
また、社員に新しい役割や責任あるポストを与えることができるため、「社内で新しい挑戦ができる会社」になり、ベテランのマンネリ化を防ぎ、離職を食い止めることにも繋がります。

多角経営のメリットを活かして経営基盤を強化することは、社長がすべき仕事の1つです。「社長の仕事」についてより詳しく知りたい方は下記もご覧ください。

新しい事業に挑戦することは魅力的ですが、一方で「広げすぎたことによる副作用」も覚悟しなければなりません。
特にリソースの限られた中小企業にとっては、以下の3点は致命傷になりかねないポイントです。

デメリット①大きな損失を生む可能性もある

例えば、勝手のわからない「よその業界」に飛び込むのは、やはりリスクが伴います。
初期投資が重くのしかかるだけでなく、自社の強みが通用せずに赤字が続けば、せっかく本業でコツコツ稼いだ大切な利益をすべて使い果たしてしまうことになりかねません。

デメリット②経営資源の分散/管理コストの増大

ヒト・モノ・カネといった貴重な経営資源をあちこちに振り分けるため、一つひとつの事業にかけられるパワーが弱まってしまいます。
また、バラバラな事業を管理するために社長や幹部の目が行き届かなくなったり、社内のルールが複雑になって決断が遅くなるといった「目に見えないコスト」が膨らみやすくなります。

デメリット③企業イメージの希薄化

「何でも屋」になってしまうと、お客様から「結局、この会社は何が得意なの?」と思われてしまいます。
自社の看板(ブランド)がぼやけることで、これまでファンでいてくれたお客様が離れてしまったり、「強みのない会社」と見なされて、価格競争に巻き込まれる恐れがあります。

4. 多角化を実現するための「5つの手段」

自社でゼロから立ち上げる以外にも、新しい事業を軌道に乗せるための「近道」はいくつかあります。
会社の体力や目指すスピードに合わせて最適なものを選びましょう。

4-1. 自社でゼロから立ち上げる(社内ベンチャー)

社内のスタッフを使い、自社のリソース(ヒト・モノ・カネ)だけで新しい商売を始める方法です。

自社の社風や経営理念をそのまま引き継げるため、本業との連携がスムーズです。
また、新しい事業を任せることで、次世代のリーダー候補を育てる絶好の機会になります。

ただし、収益が出るまでに時間がかかり、最初の数年は赤字を覚悟する必要があります。
社長が現場を離れても本業がしっかり回る体制が整っていることが前提となります。

経営の仕組み化」について、詳しくは下記もご覧ください。

4-2. M&A

すでにその事業で実績のある会社や、特定の部門だけを丸ごと買い取る方法です。

一瞬で「設備」「熟練したスタッフ」「既存のお客様」が手に入ります。
ゼロから立ち上げる苦労をスキップして、「時間を買う」感覚で即座に収益を上げられるのが最大の魅力です。

ただし、まとまった買収資金が必要です。
また、買った先の社員と自社の社員がうまく馴染めるよう、社長による丁寧なフォローと組織の統合作業(PMI)が欠かせません。

4-3. 業務提携・JV(合弁会社)

「技術はあるが売る場所がない」自社と、「売る場所はあるが商品がない」他社が協力したり、共同で出資して新しい会社(JV)を作ったりする形です。

一社で全てのリスクを背負わなくて済むため、少ない投資で大きなチャレンジができます。
他社の優れたノウハウを間近で学べるメリットもあります。


ただし、利益の配分や責任の所在で揉めるリスクがあります。
「どちらがどこまで責任を持つか」を最初に契約で明確にしておくことが、トラブルを防ぐ要となります。

4-4. フランチャイズ(FC)加盟

すでに成功しているビジネスの「看板」と「儲けの仕組み」を借りて運営する方法です。

有名な看板のおかげで集客がしやすく、運営マニュアルも完備されています。
未経験の分野でも、失敗する確率を低く抑えてスタートを切ることができます。

ただし、加盟金や毎月のロイヤリティ(手数料)が発生します。
本部のルールが厳しいため、自分の思い通りに自由に経営したいと考える方には、制約が多く感じられるかもしれません。

ビジネスの「儲けの仕組み」を表す、ビジネスモデルの図解について、詳しくは下記もご覧ください。

4-5. ライセンス契約

他社が持っている「ブランド名」や「キャラクター」「特許技術」を使う権利を借りる方法です。

有名なブランド名を自社商品に付けたり、独自の特許技術を組み込んだりすることで、最初から「売れる商品」や「質の高いサービス」を生み出すことができます。

ただし、契約料が発生するほか、ブランドのイメージを壊さないよう、商品のデザインや売り方に厳しい制限がかかることが一般的です。

6. 多角化で失敗しないための4つの鉄則

新しい柱を立てる前に、この4つのチェックポイントをすべてクリアできているか、冷静に自問自答してみましょう。

無理やりな多角化はかえって企業を衰退に追い込んでしまうことがあります。

6-1.既存の顧客・販路の延長線上にあるか?

新事業を成功させる一番の近道は、「すでに信頼関係があるお客様」に別のものを売ることです。
全く知らない人を一から集客し、信頼を得るには膨大な広告費と時間がかかります。

しかし、今すでにお付き合いのあるお客様の「別の悩み」を解決する商品であれば、営業のハードルはぐんと下がります。
「誰に売るか」を大きく変えないことが、成功率を高める秘訣です。

6-2.今の設備・技術を使い回せるか?

新しい事業のために、高価な機械を買い直したり、特別な技術を持つ人を高給で雇い入れたりするのはリスクが大きすぎます。 

今の工場にある機械を空き時間に動かせるか、今の職人が持っている技術を少し応用するだけで作れるか。
「今ある資産(アセット)を再利用する」という発想で始めることで、初期投資を抑え、万が一失敗した時のダメージを最小限に食い止めることができます。

6-3.本業が疎かにならないか

新しいことに挑戦するのは楽しく、ついつい経営者自身の意識や、社内のエース人材を新事業に注ぎ込みすぎてしまいがちです。
しかし、会社の屋台骨を支えているのは、あくまで今稼いでくれている「本業」です。

新事業に熱中するあまり、本業の品質が落ちたり、既存のお客様へのフォローが漏れたりしては本末転倒です。
社長が現場を離れても本業がしっかり回る仕組みができているか、慎重に見極める必要があります。

6-4.本業を守るための撤退ラインを決めているか

多角化で最も難しいのは、始めることではなく「やめること」です。
「あと少し頑張れば黒字になるかも」という淡い期待でズルズル続けてしまうと、本業で稼いだ利益をすべて食いつぶし、最悪の場合は会社が共倒れになってしまいます。

  • 「1年経って営業黒字にならなければやめる」
  • 「累積の損失が〇〇万円を超えたら撤退する」

 このように、始める前に「引き際」のルールを明確に決めておくことが、会社全体の安全を守る「命綱」になります。

経営が失敗する原因」について、詳しくは下記もご覧ください。

7. 多角化の成功例と失敗例

多角化を加速させる強力な手段であるM&Aですが、その成否は「4つの鉄則」をいかに守れたかに大きく左右されます。
代表的な成功例と失敗例から、経営者が学ぶべき教訓を整理します。

7-1.成功例:富士フイルム

多角化の成功例として最も有名なものの一つに、富士フイルムの事例があります。
かつて写真フィルムの市場がデジタル化の波で消滅しそうになった際、同社は自社の強みを徹底的に分析し、全く別の業界への進出を果たしました。

同社が注目したのは、フィルム開発で長年培ってきた「コラーゲン技術」や「成分をナノサイズに微細化する技術」でした。
これらの高度な技術は、実は化粧品や医薬品の分野でそのまま活かせるものだったのです。
そこで同社は、足りない販売網などをM&Aで補いながら、新事業をスピーディーに立ち上げました。

この成功の鍵は、自社の目に見えない技術資産をそのまま使い回せる分野に狙いを定めた点にあります。
まさに「今の技術をそのまま使い回せるか」という鉄則を体現し、本業の危機を成長のチャンスに変えた理想的な多角化と言えます。

7-2.失敗例:RIZAPグループ

ボディメイク事業で急成長した同社は、M&Aを繰り返してアパレル、出版社、小売店など、次々と異なる業種の企業を傘下に収めました。

一見すると、多様な事業を持つことでリスクを分散しているように見えましたが、実際には大きな落とし穴がありました。
買収した企業の多くは本業との相乗効果(シナジー)が薄く、それぞれの現場で発生する経営課題の解決や赤字の補填に、グループ全体の貴重な資金や経営陣の時間が際限なく奪われることになったのです。

いくら安く買えるチャンスがあっても、自社の強みが活かせない範囲まで手を広げてはいけないということです。
特にリソースに限りがある中小企業にとって、本業と無関係な事業を寄せ集めることは、リスク分散どころか、逆に会社全体の首を絞めることになりかねません

このように事例から経営を学ぶことは、非常に有効です。経営を学び続けることは、経営者の仕事であり、成功し続けるための前提条件となります。詳しくは下記もご覧ください。

まとめ

「一本足打法」の経営には大きなリスクが伴う現代において、多角化は中小企業が生き残るための避けて通れない戦略です。
しかし、この記事を通じてお伝えした通り、大切なのは単に事業の数を増やすことではありません。

自社の資産をもう一度再定義し、明確な「撤退ライン」という命綱を握りながら、戦略的に新しい柱を立てていきましょう。
その一歩が、どんな時代の変化にも動じない、強くしなやかな会社作りへと繋がるでしょう。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 國本 亘基

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室