
「売上はあるのに、なぜか不安が消えない」
「忙しさは増すばかりで、手元に利益が残らない」
もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、一度立ち止まって考える必要があります。
あなたは普段、何を基準に会社の健康状態を判断していますか?
本記事では、経営の現場で成果を上げ続けている「知る人ぞ知る強力な経営理論」をベースにした、独自の「経営診断フレームワーク」をご紹介します。
1分で終わります。あなたの会社の「真の実力」を、今すぐチェックしてみましょう。
1. その「経営診断」で、会社の未来が見えますか?

「経営診断」と聞いて、あなたはどのようなものを思い浮かべたでしょうか?
おそらく、決算書の数字や、利益率、労働分配率といった「数値による分析」を求めていた方が多いはずです。
確かに、銀行融資や株主への説明において、財務諸表の数字は絶対的な正義です。
それは人間の体で言えば「体重」や「血圧」のようなもので、現在の状態を客観的に知るためには欠かせません。
1-1.「数値」は過去の通信簿にすぎない
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
「数値」はあくまで「過去の結果」であり、「未来の原因」ではないということです。
体重計に乗って「太った」ことは分かっても、「なぜ太ったのか」「どうすれば痩せるのか」という原因と対策までは、体重計は教えてくれません。
経営も同じです。売上が下がった(結果)ことに対して、「もっと売れ」と号令をかけても意味がありません。売上が下がった原因である「戦略」や「組織」という「見えないエンジン」の状態を診断し、修理することこそが、V字回復への唯一の道なのです。
だからこそ、本記事ではあえて「数値」を使わず、経営学の権威たちが提唱する「勝つための理論(セオリー)」に基づいた診断を行います。
準備はいいですか? あなたの会社のエンジンの状態を、これより解き明かします。
2. 【1分診断】経営理論で読み解く10のチェックリスト
今回の診断では、成果を出している経営者が密かに実践している理論をベースにしています。
深く考え込まず、直感で「Yes(当てはまる)」と思うものにチェックを入れてください。
経営理論・実力診断ワーク
5つの経営理論に基づき、あなたの会社の真の実力を可視化します。
大手や競合が「真似したくてもできない」独自の強み(武器)を持っていますか?
R.ルメルト『良い戦略、悪い戦略』価格競争に巻き込まれず、自社が勝てる「独自のポジション」で戦っていますか?
M.ポーター『競争の戦略』顧客は「商品」ではなく「解決したい悩み(ジョブ)」にお金を払っていると理解していますか?
C.クリステンセン『ジョブ理論』誰に売るか(ターゲット)を絞り込み、その顧客にNo.1の価値を提供できていますか?
P.コトラー『STP分析』注文から納品までの流れに、顧客価値につながらない「ムダな作業」はありませんか?
E.ゴールドラット『ザ・ゴール』社長の指示がなくても、現場が自律的に判断して業務が回る仕組みがありますか?
野中郁次郎『ナレッジマネジメント』既存事業(今の食い扶持)を磨きつつ、新規事業(将来の種まき)にもリソースを割いていますか?
C.オライリー『両利きの経営』売上が2倍になった時、社長や社員の「労働時間」も2倍にならない構造を作れていますか?
ビジネスモデルの構築社長にとって「耳の痛い報告(失敗やトラブル)」ほど、真っ先に上がってくる環境ですか?
A.エドモンドソン『心理的安全性』新しい戦略を実行する際、それに合わせて組織図(役割分担)も見直していますか?
A.チャンドラー『組織は戦略に従う』総合スコア
現状の分析:「忙しいのに利益が残らない」という状態は、他社との差別化が曖昧なまま価格競争に巻き込まれている典型的な症状です。「もっと頑張れば売れる」という精神論に依存し、現場が疲弊するリスクが高まっています。
多くの企業が「売上◯◯億円」という目標を戦略と呼びますが、ルメルトはこれを「悪い戦略」と断じます。良い戦略には、なぜ目標未達なのかという「診断(Diagnosis)」と、それをどう乗り越えるかという「基本方針(Guiding Policy)」が不可欠です。
「売上目標」を叫ぶのを一度やめてみましょう。代わりに「なぜ今、お客様に選ばれていないのか?」という阻害要因(ボトルネック)を特定し、それを解決するための具体的な行動計画を立ててください。
現状の分析:「良い商品を作れば売れる」という思い込みがありませんか?この考え方は、顧客の本当のニーズを見誤り、不要な機能追加や的外れな広告にお金を浪費する最大のリスク要因です。
顧客は商品そのものではなく、「片付けたい用事(ジョブ)」を解決するために商品を雇います。例えば、ドリルを買う人はドリルが欲しいのではなく、「穴」が欲しいのです。
自社商品のスペックを語るのをやめましょう。「顧客はどんな場面で困っていて、この商品でどう助かるのか?」という物語(文脈)で価値を伝えるように、営業資料やLPを見直してください。
現状の分析:「全員が常に忙しく働くこと」が良いことだと思っていませんか?実はそれが、組織全体のスピードを落とし、過剰在庫や資金繰り悪化を招く「部分最適の罠」かもしれません。
工場の生産能力は「最も能力の低い工程(ボトルネック)」で決まります。ボトルネック以外の工程が頑張りすぎると、仕掛品(ムダ)が増えるだけで、利益にはつながりません。
全体の流れを止めている箇所を特定し、それ以外の部署は「あえてペースを落とす(余力を持つ)」ことが、実は組織全体のスピードを最速化します。
現状の分析:今の事業の効率化ばかりしていませんか?成功企業ほど、過去の成功体験に縛られ、環境が変わった瞬間に一気に衰退する「コンピテンシー・トラップ(能力の罠)」に陥りやすい傾向があります。
既存事業を磨く「深化」と、失敗を許容して新規事業を探す「探索」は、全く異なる組織文化が必要であり、これを意識的に両立させることが企業の生存条件だと説いています。
自然な成り行きでは「探索」のリソースは枯渇します。リソースの10〜20%を、強制的に「失敗してもよい実験」に割り当てるルールを作ってください。
現状の分析:数字や結果ばかり厳しく追及していませんか?それが心理的安全性を下げ、悪い報告が隠される原因となり、結果的に大きなトラブルや業績悪化を招く「バッドサイクル」に入っています。
結果を変えたければ、まず「関係の質(対話や信頼)」を変える必要があります。関係が良くなれば思考が前向きになり、行動が変わり、結果が出る。この順序が鉄則です。
成果が出ていない時こそ、数字を詰めるのをやめてください。まずは挨拶や対話で「関係の質」を高めること。それが遠回りに見えて、最強の近道です。
全ての項目で高得点を獲得しました。あなたの経営判断は理論的にも理にかなっています。しかし、最大の敵は「慢心」です。「イノベーションのジレンマ」が教えるように、優良企業ほど顧客の声を聞きすぎて破壊的変化に乗り遅れるリスクがあります。この状態を維持しつつ、常に自らを疑う姿勢を持ち続けてください。
経営診断で経営の現状を把握することは重要ですが、まず「経営とは何か?」その要素と構造を理解しておかなければ、全体最適を実現することは難しいです。詳しくは下記もご覧ください。
3. 不足を補う「経営理論」の解説と実践アクション

診断で見えた「弱点」は、決してあなたの能力不足ではありません。
多くの場合、単にその分野を支える「知識(理論)」を知らなかっただけです。
先人たちが導き出した「定石(理論)」を知るだけで、打つべき手は驚くほど明確になります。
チェックがつかなかった項目に対応する解説を読み、明日からの経営に役立ててください。
3.1 「戦略」が弱いなら:R.ルメルトの『良い戦略、悪い戦略』を知る
3.1-1 【理論の解説:目標は戦略ではない】
多くの経営者が掲げる「売上10億円達成!」は、単なる「願望(目標)」であって「戦略」ではありません。
リチャード・ルメルトは、著書の中で「悪い戦略は空疎な言葉の羅列である」と喝破しました。良い戦略には必ず「①診断(何が課題か)」「②基本方針(どうアプローチするか)」「③行動(具体的に何をするか)」という核(カーネル)が存在します。
3.1-2 【明日へのアクション】
数値目標を叫ぶのを一度やめてみましょう。代わりに「なぜ今、その目標が達成できていないのか?」というボトルネックを診断し、それを解決するための「具体的なアクション」を書き出してください。それが本当の戦略です。
3.2 「マーケティング」が弱いなら:C.クリステンセンの『ジョブ理論』を知る
3.2-1 【理論の解説:顧客は何を雇ったのか】
クレイトン・クリステンセンが提唱したジョブ理論は、「顧客は商品を購入するのではなく、生活の中で発生した『片付けたい用事(ジョブ)』を解決するために商品を雇う(ハイヤーする)」という考え方です。
例えば、朝の通勤客がミルクシェイクを買うのは「甘いものが欲しいから」ではなく、「退屈な通勤時間の暇つぶし」というジョブを解決するためかもしれません。商品の機能ではなく、顧客の「切実な動機」に焦点を当てることで、真の競合が見えてきます。
3.2-2 【明日へのアクション】
自社の商品を主語にするのをやめましょう。「この商品はすごい」ではなく、「顧客はどんな状況で困っていて、この商品を雇うことでどう助かりたいのか?」という視点で、営業トークを見直してください。
3.3 「実行力」が弱いなら:E.ゴールドラットの『ザ・ゴール(TOC理論)』を知る
3.3-1 【理論の解説:部分最適の罠】
「社員全員が休まず働けば、利益は最大化する」
もしそう思っているなら、今すぐエリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』を読むべきです。彼は「全員がフル稼働する工場は破綻する」と説きました。なぜなら、会社の生産能力は、最も能力の低い工程(ボトルネック)によって決まるからです。ボトルネック以外の場所で頑張りすぎると、余計な在庫(ムダ)が増え、かえって資金繰りを悪化させるのです。
3.3-2 【明日へのアクション】
「みんな頑張れ」と言うのをやめてください。代わりに、会社の流れを止めている「たった一つの詰まり(ボトルネック)」を探してください。そして、ボトルネック以外の人は、あえて手を休める勇気を持つこと。それが全体最適です。
3.4 「成長性」が弱いなら:C.オライリーの『両利きの経営』を知る
3.4-1 【理論の解説:深化と探索の矛盾】
チャールズ・オライリーが提唱した「両利きの経営」は、既存事業を磨き上げる「深化」と、新規事業に挑戦する「探索」という、矛盾する2つの活動を同時に行うことの重要性を説いた理論です。
成功している企業ほど、効率の良い「深化」に偏り、不確実な「探索」を怠る傾向があります。これを「コンピテンシー・トラップ(能力の罠)」と呼び、多くの企業が変化できずに衰退する主因となっています。
3.4-2 【明日へのアクション】
リソースの「10%〜20%」を、強制的に未来への投資(実験)に割り当てるルールを作ってください。失敗してもいい「探索」の領域を確保しなければ、いつか本業が傾いた時に逃げ場を失います。
3.5 「組織力」が弱いなら:ダニエル・キムの『成功の循環モデル』を知る
3.5-1 【理論の解説:結果を求めると結果が出ない】
マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱したこのモデルは、非常に逆説的です。
業績が悪い組織は、「結果の質(売上など)」を厳しく追及します。すると、対立が起き「関係の質」が悪化し、思考停止し「思考の質」が下がり、受け身になり「行動の質」が下がり、最終的に「結果」がさらに悪化します。これがバッドサイクルです。
成功する組織は、遠回りに見えても「関係の質(挨拶や対話)」から改善を始め、グッドサイクルを回しているのです。
3.5-2 【明日へのアクション】
成果が出ていない時こそ、数字を詰めるのをやめてください。まずは「おはよう」と目を見て挨拶し、相手の話を聴くこと。この「関係の質」への投資が、巡り巡って最強の結果を生み出します。
これらの経営理論だけでなく、「経営を学び続ける」ことは経営者として成功し続ける上で必要条件です。詳しくは下記もご覧ください。
まとめ:診断で見えた「弱点」こそが成長の源泉

経営の不安は、地図(理論)を持たずに航海しているから生まれます。
海図もコンパスもなしに荒波に出れば、不安になるのは当然です。
今回ご紹介した10のチェックリストは、あなたの会社の現在地を知るためのコンパスです。
診断の結果、チェックがつかない項目があっても落ち込む必要はありません。見つかった「弱点」は、そのまま会社の「伸び代」です。
能力不足を嘆くのではなく、足りないピース(理論)を一つずつ埋めていく。
そうすれば、漠然とした不安は「解決すべき具体的な課題」に変わり、あなたの会社は確実に強くなります。
まずは、今回特定された「弱点」に関する理論を、もう少し深く学ぶことから始めてみてはいかがでしょうか。
監修 / 黒田訓英
株式会社ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
経済産業大臣登録 中小企業診断士
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本証券アナリスト協会認定CMA
日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア
JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア
ライター / 保坂 太陽
株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部
株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部
起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者
起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者
早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室





