最近大きく取り上げられているNFTを今回は解説します。個人が利用するだけでなく、企業でも広く用いられるようになってきたNFTとはいったいどのようなものなのでしょうか。
そもそもNFTとは
NFTとは、Non-Fungible Tokenの略称で、代替不可能なトークンという意味になります。
トークンとは、直訳すると「しるし」「象徴」などの意味ですが、従来の硬貨や紙幣の代わりに使うデジタルマネーを指したり、ネット決済やクレカ決済の際に使う認証デバイスそのもののことを指すこともあります。NFTでもデジタルマネーのことをさします。
主にイーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で構築できます。このNFTの技術がゲーム分野やアート分野で活用され、ビジネスの世界でも広く活用されようとしています。
この新しいNFTとは、数年前から流行っているビットコインなどと同じくブロックチェーンの技術に基づいた仕組みです。
一方で、金融取引のように扱われるビットコインとは全く異なった使われ方をしています。
具体的に解説すると、代替不可能なトークンには、唯一無二の価値を持つという特徴があります。
例えば、Xさんが持っている10ビットコインとYさんが持っている10ビットコインは同等の価値であり、交換することができる「代替可能」なものです。
一方で、「代替不可能」とは、全く同じものが存在しない、例えば「金メダル選手の直筆サイン入りTシャツ」のような一点物であることを意味しています。
一点物で変わりがないトークンのことをNFTというのに対して、ビットコインなど暗号資産のような代替可能なトークンのことをFT(Fungible Token / 代替可能トークン)と呼びます。両者の違いは以下の通りです。
NFT | FT | |
特徴 | 代替不可能(同じトークンが存在しない) | 代替可能(同じトークンが存在する |
トークン規格 | ERC721 | ERC20 |
活用されている分野 | ゲーム、不動産、スポーツ、アート、会員権 など | 暗号資産 など |
NFT技術は、この「代替不可能」という性質があるために、ゲーム内で独自の価値を持つキャラクターを生み出したり、会員権や不動産などの所有権証明に利用されたりと活用の幅が広がっています。
NFTが話題になっている背景
数年前から、ブロックチェーン技術はすでに金融の分野などで活用されています。その中で、代替不可能なNFTの特色を追加することで、さらに他の分野での活用が広がることが期待されています。
代替不可能であることを活かして、NFTは固有の価値を証明することが可能になり、会員権や不動産の所有権証明や売買が実現するなど、ブロックチェーンが利用される範囲を広げることができます。
現在では、今まで固有の価値を見出されていなかったデジタルアートに価値が見出され、高額で売買されるようになっています。
高額な取引もあいまって、NFTは2021年に大きく話題になったといえるでしょう。
企業のNFTの具体的な活用例
NFTが大きく取り上げられたことにより、企業が事業に活用し始めた事例も増えてきました。ここでは、具体的な5つの活用事例を紹介します。
NFTでキャンペーンを打てるように:LINEでのNFT事例
LINEを運営するLINE株式会社では、独自のブロックチェーンを用いてNFTを生み出し、デジタル景品を提供しています。
LINEが以前から提供している「LINEで応募」を応用し、NFTを景品として手にすることができる試みです。この試みでは、すでに株式会社CDGのイベント景品としてNFTを使用した景品が出されています。
企業がLINEで販促会を行う際に、LINE上でキャンペーンを行い、キャンペーン参加者にNFTを付与できる仕組みとなっています。
参照:https://www.linebiz.com/jp/news/20211119/
LINEでは、大規模なプラットフォームである強みを活かし、ブロックチェーンを自社で作成することで、ブロックチェーンをプラットフォームと連携することで新たな収益を得る仕組みを作っています。
なかなか、中小企業がこの仕組みを作ることは難しいですが、ブロックチェーンやNFTは仲間内で使えるコインを生み出し、ただのコミュニティから小さな経済圏を作るといったこともできます。この仕組みを活かすと、今ある会員制度にブロックチェーンを絡めることで、会員グループを小さな経済圏とすることで、よりユーザーの人たちが楽しめる仕掛けを作ることもできます。
今年の春より導入予定:楽天でのNFT事例
ECサイトを運営する楽天グループは2021年の8月30日にNFT事業への参入を発表しています。そのサービスは「Rakuten NFT」です。
Rakuten NFTでは、2種類のサービスを提供予定としています。1つはデジタルデータやデジタルアートといったコンテンツを持っている人向け、もう一つは一般のユーザー向けで、スポーツや、音楽・アニメなどのエンターテインメントほか、さまざまな分野のNFTを購入したり、個人間で売買したりできるマーケットプレイスとしています。
決済には楽天IDを使い、楽天ポイントも利用できるとしています。また、楽天が運営する他のサービスでNFTを景品として提供するなど、さまざまなサービス間の連携も予定しているとのことです。
この事例でもLINEと同じく、既存にいる利用者に自社でNFTを発行する場所であるマーケットプレイスを作成し、提供することで、より自社のプラットフォームの強化を行っているといえます。
こちらの事例も中小企業ではなかなか、活用することは難しいですが、楽天やLINEなど日本を代表する会社がNFTに参入し、利用が広まることでNFTは一層身近なものへと変化してくことが考えられます。
楽天NFTは2022年2月25日に正式リリースされます。
NFTを用いて世界を作る:サードバースでのNFT事例
3つ目でご紹介する企業は「Thirdverse(サードバース)」です。このサービスは、gumiを創業した國光宏尚氏が新しく創業した会社です。
この会社では、バーチャル空間の中で経済活動が行えるプラットフォームを作ることを目指しています。
現在でも、NFTを用いて金融(ファイナンス)とゲームを掛け合わせることで、ゲームの中でお金を稼ぐことができるようになっています。ゲーム上で魔法の剣を作ることや特別なモンスターを育てることで、仮想通貨を手にすることができ、その仮想通貨で買い物ができる状態となっています。一昔前まではゲームはただの遊びでしたが、今ではeスポーツなどスポーツとなったり、ゲーム上で稼いだお金で実際の生活ができるなど、ゲームで稼ぐことができるようになってきています。サードバースでは、そこから一歩前進し、バーチャル空間の中で生活までしてしまおうという世界を目指しているのでしょう。
さらに、現状の株式市場ではなく、新しい市場を作る試みも行われています。ブロックチェーンで作成されたトークンを用いた新しい市場では、株式を会社へと投資するように、個人に向けてトークンで投資をすることができます。NFTは株式よりも資金を個人の活動へとフォーカスして投資することができる点で、現在の資本主義の問題点を解決しうる手段であるとしています。そのためにNFTをサービス内に取り入れていると言えるでしょう。
サードバースが目指している社会は、非常に先の未来の感じがしますが、実はyoutuberなどインターネットの力によって会社組織に属さず個人で活躍できる人たちは増えています。思ったよりも早く、NFTや仮想通貨で生活する日が来るかもしれません。
NFTの広報の力を利用:ルイヴィトンのNFT事例
参照:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.louisvuitton.LV200&hl=ja&gl=US
LVMHグループのルイヴィトンは、創業者の生誕200年祭を記念したプロジェクトの一つでNFTを活用したキャンペーンを行いました。ブロックチェーンゲームである「LOUIS THE GAME」を作成し、ゲームの参加者にはゲーム内での冒険が楽しめるだけでなくNFTも手に入れられる仕組みとなっていました。
このゲームの中には、 NFTが注目されるきっかけともなった75億円のNFTアートを作成したビープル氏の作品も含めた30作品が展示されており、その面も注目されました。
ルイヴィトンでのNFTの活用方法は、先ほどまで紹介した3事例とは違って、NFTの持つ広報の力にフォーカスした使い方となっています。単にゲームを出すだけではキャンペーンに注目が集まらない可能性もありますが、ゲームの中でNFTを手に入れるチャンスがあると一気に参加するモチベーションが高まり、多くの人に情報を届けることができます。この要素もNFTの持つ一つの力であるといえます。このような使い方は、思った以上に簡単にNFTを発行することができるため、多くの企業で実施されていると言えます。
スポーツチームでのNFTの活用事例
NFTが注目を集めた際に、いち早く取り入れられたのがスポーツの世界です。有名なのは、アメリカのバスケットボールリーグのNBAでの導入事例でしょう。選手の映像や優勝した瞬間をとった写真をNFTとして販売しました。
この事例は、NFTがコミュニティをより強固にする役割を果たす側面をうまく利用しているといえます。自分の愛する選手やチームを少しでも所有し、それを同じファンの人と共有できることに価値を感じて利用されているといえるでしょう
日本でも、Jリーグを運営する株式会社Jリーグがゲーム会社とライセンス契約を締結し、NFTゲームを出すこととなっています。
ゲームの内容は、J1とJ2所属の選手が実名実写で登場し、ユーザーはクラブのオーナーとなりリーグの頂点を目指すシミュレーションゲームです。ゲーム内で育成した選手カードをNFT化しユーザ間で売買可能とするそうです。
これも、Jリーグに注目を集めてもらうための、仕掛けづくりの一つであると言えるでしょう。
NFTにかかわる税金に関して
ビットコインなどの暗号資産と同じくブロックチェーンに基づいたNFTにも複雑な税金がかかります。現状では、NFTを購入し、所有してから、売却した場合、法人税として課税されることとなっています。消費税に関しても、課税対象となるといわれています。また、現状の法制度では、期をまたいで暗号資産を企業が保有していると、期末時点での価値で決算されるという問題が起きています。NFTを取り扱う際は、暗号資産と同じく税制面を注意することが重要です。
参照:https://www.businesslawyers.jp/articles/1079
NFTは中小企業が活用できるのか
ここまで、NFTとは、NFTの活用方法、NFTの税金に関してご紹介しましたが、難しいと感じた方も多いのではないでしょうか。NFTは個人やアーティストが一人で始めるにはちょっとした趣味程度で進められますが、企業で行うレベルになると急に規模が拡大します。
特に事例でご紹介した、独自のプラットフォームの構築などは限られた企業しか実現できないでしょう。
本業の事業に活かしながら、NFTをうまく事業に使いたいという場合は、まずopenseaなどの既存のプラットフォームで会社にかかわるNFTを発行して、会社やブランドのファンの人に買ってもらうところから始めるとよいかもしれません。NFTはコミュニティを強化する役割があるため、発行したNFTで、お客さん動詞や企業とお客さんがつながれるところが現状では、一番、経営に役立つ面であるといえるでしょう。
NFTは、アーティストの世界で広まり、現在では多くのアートコミュニティを生み出す様相を呈しています。おそらく、この流れは企業やほかの経済圏にも反映されるでしょう。うまく活用すると話題を集められ、企業に取っ手のファンの育成にも役立つ仕掛け作りができるものとなります。ぜひ最新の情報を取り入れつつ、導入を検討してみてください。
【ライター】
田中 大貴
株式会社 Urth 代表取締役CEO
大学では、建築学を専門としながら、2018年4月からは早稲田大学で「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を受講。 その後、文科省edgeNextプログラムの一つである、早稲田大学GapFundProjectにおいて2019年度の最高評価および支援を受け、起業。 早稲田大学建築学科では、株式会社エコロジー計画とともに、コンサートホール、宿泊所の設計、建設に取り組んだ。現在は、「〇×建築」をテーマにwebサービスの開発、営業から、建築の設計及び建設物の運営に関するコンサルタントまで幅広い事業を行う。
【監修】
野田 拓志
株式会社 ビジネスバンクグループ
経営の12分野ガイド
早稲田大学非常勤講師
大学時代、開発経済・国際金融を専門とし、 その後「ビジネス×途上国支援」を行う力をつけるために一橋大学大学院商学研修科経営学修士コース(HMBA)へ進学。 大学院時代に、ライフネット生命の岩瀬氏や元LINEの森川氏に対して経営戦略の提言を行い、そのアイデアが実際に事業に採用される。 現在は、「社長の学校」プレジデントアカデミーの事業部長として、 各地域の経営者の支援やコンサルティングを行う。2017年4月からは早稲田大学で非常勤講師として「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を行う。