ビジネスモデルをどのように発想し、構築していけばよいのでしょうか。

ビジネスモデルは、いわばビジネスの世界における「型」だと言われています。
忠実に従うにしても、自らの創意工夫によって破るにしても、それを知らずしてビジネスを成長させることは難しいでしょう。

プロフェッショナルの正解では、よく「型破りは良くても、型なしでは話にならない」と言われます。
ビジネスにおいても同じことです。顧客に価値をどのように届けるのかが分かっていなければ話になりません。

今回は、「型」であるビジネスモデルのつくり方とその発想法、描き方をご紹介します。

ビジネスモデルとは

ビジネスモデルの定義には様々なものがありますが、わかりやすく本質をついたものが1つあります。

それは、日本でも話題になった「ビジネスモデル・キャンバス」を提唱した、アレックス・オスターワルダーさんとイヴ・ピニュールさんによるもので、「ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの」と説明しています。

「どのように価値を創造し、顧客に届けるか」の論理と構造を自覚していれば、次のようなことができるようになります。

  1. ビジネスモデルを適切に分析して設計することができる
  2. 投資家やパートナーに説明して、必要な経営資源を集めやすくする
  3. 成長を目指すとき、現状を動かしている基本的な論理をもとに考えられる
  4. 何らかの不具合が起きたとき、健全な状態に戻すことができる

ビジネスモデルのつくり方

ビジネスモデルのつくり方については、戦略コンサルタント、デザインコンサルタント、起業家やそれを支援する人たち、そして経営学者などが様々な手法を提唱しています。

しかし、いろいろあるように見えて、本質的な部分についての見解は一致していると私は思っています。

それは、「仮説検証のサイクルを回す」ということです。

この仮説検証のサイクルを少し細かく分けて「分析発想試作検証」のサイクルとして示します。

今回は、世界中の海に浮かぶプラスチックゴミによる環境汚染問題を解決する事業を例に「分析・発想・試作・検証」のサイクルを解説していきます。

800万トンにも及ぶプラスチックゴミをどのように回収すればよいでしょうか。

オランダのボイヤン・スラットさんが高校生のときに行った「分析・発想・試作・検証」のサイクルをそれぞれのステップで解説していきます。

分析

このステップでは、アイディア発想に先立ち、問題を論理的に分析していきます。大きな問題であればあるほど、細かく砕いて取り組んだほうがよいものです。

ボイヤン・スラットさんは、画期的なアイデアを思いつき、世界中を驚かせました。このとき、彼は問題をいくつかに分けて考えたそうです。

  • どのようにすればコストが低く抑えられるか
  • どのようにすれば早く回収することができるか
  • 生態系を損なわないようにするにはどうすればよいか

発想

「分析」によって問題が整理できれば、何が重要で、どこから取り組むべきかを考えられます。

何が重要かを吟味し、取り組むべき順序を考えれば、着実な「飛躍」ができます。
思い込みや先入観にとらわれないようにして、既存の「枠」を超えるようにしましょう。

例に挙げたプラスチックのゴミ問題についていえば、従来の方法というのは、船に網をつけてゴミを拾っていくというものでした。この方法だとコストも時間もかかります。
また、ネットに魚や生物が引っかかるので環境には優しくありません。

この状況でスラットさんはどのようにアイデアを発想したのでしょうか。

このような状況で新しいアイデアを発想するための方法を3つ紹介します。

ビジネスモデルの3つの発想法

1.アナロジー発想法

その業界を代表し、イノベーションの象徴とされる企業のその独創的ともいえるビジネスモデルは、必ずしもゼロから生み出されたものではありません。
思いもよらない「お手本」を見つけ出し、創造的に模倣することで生まれたのです。

模倣するといっても、業種などの表層的な類似性ではなく、仕組みという深層の類似性に注目する必要があります。
ビジネスの仕組みを理解できれば、何をお手本にすべきかが明確になり、模倣が成功する確立も高まります。
逆に、仕組みにまで目がいかなければ、お手本にすべき対象を見誤るのです。

例えば、小売チェーンを営む企業家がオリジナル商品の企画・製造を考えていたとします。
その時に参考にすべきなのが製造小売モデル(SPA)です。

しかし、何をお手本にするかによって発想は違ってきます。
具体的なビジネスモデルを抽象化して理解できなければ、判断を誤ります。
お手本を選ぶときに、表面的に同じ業種であるかどうかは重要ではなく、見えにくい深部の構造にこそ成功のカギが隠されています

もし、旬のものを売り切れも構わず大ロット生産するのであれば、H&Mやダイソー、あるいはJINSなどが参考になります。
逆に、定番商品を追加生産・修正企画しながら小ロット生産するのであれば、ZARAをお手本にすべきなのです。


アナロジー発想法について詳しく知りたい方は【競争に勝つためのビジネスモデルの「模倣」とは】の記事もご覧ください。

2.逆転の発想法

逆転の発想というのは、「アナロジー発想法」と並ぶ最も有力なアイデア発想法の1つだと考えられます。
その強みは、ビジネスモデルの本質的な部分、ひいては全体をひっくり返すことによって一気にデザインできるという点にあります。

逆転の発想によって生み出されたビジネスモデルは、性質上、新規性を帯びやすく、既存のライバルとの棲み分けが保証されやすいものです。
しかも、そのビジネスモデルが競合他社にとって模倣しにくい場合、その棲み分けは永続します。一定の収益も約束されるのです。

発想にあたっては、事前にベンチマークする対象を徹底的に分析し、その上で逆転させてください。
何ができていて何ができていないのか、徹底的に分析する必要があります。
ターゲットにする顧客が、これまで対象にならなかった新規の顧客であることも大切です。

バリューカーブ

逆転の発想からビジネスモデルづくりをするのにおすすめなのが、バリューカーブです。

バリューカーブとは、競合他社と自社の価値提案の違いを折れ線グラフにして対比させたもので、横軸にサービス内容や顧客のニーズ、縦軸にその高低のレベルを示したものです。

例)ドラゴンゲート

バリューカーブの例としてドラゴンゲートを紹介します。

ドラゴンゲートとは、1999年に「闘龍門JAPAN」として日本で興行を始めた団体です。

ドラゴンゲートは、伝統プロレスを反面教師にして逆をいくような発想をし、新しいビジネスを作りました。

今回紹介した手法によって、既存のビジネスを反面教師にして、逆をいくようなアイデアを生み出すことができるでしょう。

3.ブラケティング発想法

「当たり前」と思っていたことが「そうではない」と分かったとき、イノベーションの機会が訪れます

「当たり前」を払拭することができれば、新しい価値を顧客に提案するヒントが得られます。
顧客の先入観をも覆すような気づきによって、画期的なビジネスモデルデザインが可能になります。

ブラケティング発想法では、意識的に自分の「当たり前」を明確にし、それをカッコでくくって横においておくようイメージすることで、無意識のうちに先入観に囚われて判断した内容にする発想法です。

メルセデス・ベンツの例

日本においては、「メルセデス・ベンツ=高級車」というイメージが特に根強く、1920年代からこのイメージが「当たり前」であり続けました。

しかし、「メルセデス・ベンツ=高級車」というのは、ある種の先入観とも言えたのです。
メルセデス・ベンツの車種は多岐にわたり、ヨーロッパではタクシーなどにも用いられています。ベーシックなモデルも存在し、300万円台で購入できるモデルもあります。

2012年にメルセデス・ベンツ日本の代表取締役社長兼CEOに就任した上野さんは、「メルセデス・ベンツ=高級車」という先入観を覆し、より多くの人たちにメルセデス・ベンツに触れて体験してもらうためのアイデアを発想していきました。

  • イオンモールでの展示
  • コンパクトモデルの発売
  • 車を売らないショールーム
  • アニメコンテンツの制作

その結果、

  • イオンモールでの展示:
    大成功をおさめ、潜在的な顧客はもちろん、パートナーとなる販売店のスタッフにも、メルセデス・ベンツの新しい可能性を実感してもらえました。
  • コンパクトモデルの発売:
    以下のような「当たり前」を覆すような考えを顧客に与えることができました。
    • メルセデスは、成功した人が乗る車ではなく、成功するために乗るクルマ
    • メルセデスは、日々進化しようとし、自分の理想を追い続ける人が乗るクルマ
    • このような再定義によって、それぞれのクラスにおけるカテゴリー・ナンバーワンを目指せるようになりました。
  • クルマを売らないショールーム:
    クルマとの出合いの「当たり前」を覆す結果になりました。
    • 会員登録した顧客のうち、メルセデスのオーナーは2割程度で残りの8割は、他ブランドのオーナーか、まだクルマを持っていない人たちでした。
  • アニメコンテンツの制作:
    ロイヤルカスタマーからも、今どきの若者からも好評でした。

例に挙げたプラスチックのゴミ問題についてスラットさんが考案した方法は、まさに逆転の発想で、船を動かしてゴミを集めるのではなく、海流に据え置くものです。

V字型に強化プラスチックでできた浮遊バリアを設置し、ゴミが流れてくるところに置けば、自然にゴミが集まります。集まってきたゴミの収納に必要なエネルギーは小さく、太陽光発電でまかなえます。

これによってコストは安く、かつ早く集められます。海流はバリアの下を通るので、魚や生物もその下を通り抜けます。網で集めるよりも生態系に優しいのです。

試作

「発想」によって「考え」が頭に浮かんだら、それを形にしていきます。言葉でもスケッチでも数式でもかまいません。
形になれば、それが仮説となります。

学問の世界であれば作業仮説実務の世界だとプロトタイプ(試作品)をつくればよいのです。
手間暇もかかるので、最初からコストや時間を目いっぱいかけて完成品に近づける必要はありません
顧客に見せて、フィードバック情報をもらうために形にしていくことが大切です。

例に挙げたプラスチックのゴミ問題においてスラットさんは自らの考えをチェックし、TEDxという大会に参加して、世界中の人々に自らのアイディアを伝えました。

  • 船を動かして世界中を回らなくて済むので、コストを下げることができる
  • ゴミが集まる海流に設置するので、早くプラスチックゴミを回収できる
  • 海面から3メートルのフェンスなので、環境へのダメージは最小限で済む

検証

「試作」によってプロトタイプができれば、それが市場に受け入れられるかどうかを実際に確かめることができます。

ウェブサイトであれ、製品であれ、どこを確かめたいのかポイントを絞って仮説を検証します。
理想的なのは、プロトタイプをつくることです。

アイディアを形にできれば、他者からの評価が確かめられます。
プロトタイプというと大げさに聞こえるかもしれませんが、相手に伝わるのであれば、紙ナプキンに描いたビジネスモデルから始めてみてはどうでしょうか。
見込みがあれば、時間とコストをかけて精度を上げていけばよいのです。

スラットさんの場合もスケッチから始まりましたが、資金が集まってからは18分の1モデルで水槽やプールでの実験を重ねました。

検証された結果については、次のサイクルの「分析」に回して、アイディア発想の新しい起点とします。

現在も試作と検証が繰り返されていますが、最終的には北大西洋に全長100キロメートル・高さ3メートルのV字型の柵をつくる計画です。試算によれば10年間で7万トンのプラスチックごみを回収できるそうです。

「分析・発想・試作・検証」を繰り返すと、アイデアは洗練されていきます
一連のサイクルを何度も繰り返すことで、不備を正すことができるからです。

ビジネスモデルの描き方

「分析・発想・試作・検証」を繰り返しながら、ビジネスモデルを構築したあとはビジネスモデルを描き、視角的にもわかりやすくしてみると良いでしょう。

ビジネスモデルを描き方は、大きく分けて2つのアプローチがあります。

①要素に注目するアプローチ

  • 事業コンセプト
  • ビジネスモデルの4つの箱
  • ビジネスモデルキャンバス(リーンキャンバス)
    など

詳しくは【ビジネスモデルキャンバスとは?ビジネスモデルの描き方・事例を紹介】の記事をご覧ください。

②関係に注目するアプローチ

  • ビジネスモデル図解
  • ビジネスモデル図解の9つの基本モデル

詳しくは【複雑なビジネスモデルも図で表せる!ビジネスモデル図解の基本9分類を解説!】の記事をご覧ください。

まとめ

ビジネスモデルをつくるときは、「分析・発想・試作・検証」のサイクルを繰り返しながらアイデアを洗練していくことが重要です。

そのアイデアを、フレームワークに落とし込んでビジネスモデルを描き、再度仮説検証を繰り返しながらよいビジネスモデルの構築を目指していきましょう。

この記事は、早稲田大学 商学学術院 教授の井上達彦先生の「ゼロからつくるビジネスモデル」を参考に執筆しています。
書籍では、より詳しく事例を用いて説明されていますので、是非書籍も読んでみてください!

「ゼロからつくるビジネスモデル」井上達彦

【ライター】
濱出 美里
株式会社ビジネスバンク
Entrepreneur事業部 事業副責任者

早稲田大学商学部にて経営学を専攻する井上達彦研究室に所属。「起業家精神とビジネスモデル」を研究テーマに、経営理論を学ぶと同時に研究対象におけるビジネスモデルの研究やそれにまつわる論文の執筆に励んでいる。
社長の学校「プレジデントアカデミー」のHPに掲載するブログの執筆、起業の魅力と現実を伝えるインタビューサイト「the Entrepreneur」にて起業家インタビューを行い記事を執筆している。

ビジネスバンク 取締役 黒田訓英
監修 / 黒田 訓英
株式会社ビジネスバンク
取締役

中小企業診断士

早稲田大学商学部の講師として「ビジネス・アイデア・デザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL」の授業にて教鞭を執っている。社長の学校「プレジデントアカデミー」の講師・コンサルタントとして、毎週配信の経営のヒント動画に登壇。新サービス開発にも従事。経営体験型ボードゲーム研修「マネジメントゲーム」で戦略会計・財務基礎を伝えるマネジメント・カレッジ講師でもある。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。日本ディープラーニング協会認定AIジェネラリスト・AIエンジニア資格保有者。経済産業大臣登録 中小企業診断士。