「経営者として何を言っても、社員と分かり合えない壁を感じる」
「妻に悩みを打ち明けても、本当の重圧までは伝わらない」
「結局、最後の決断は一人でするしかない」

そんな孤独に押しつぶされそうになり、「誰かこの苦しみを分かってくれる人はいないか」と、相談相手を探して回っていませんか?

もしそうなら、少し立ち止まって聞いてください。
その「孤独」を無理に解消しようとする必要は、ないのかもしれません。

経営者である以上、孤独を感じるのは「自然なこと」であり、完全になくすことは難しいものです。
あなたが本当に向き合うべきなのは、「孤独感」そのものではなく、その裏側に潜んでいる「経営が見えていないことによる不安」ではないでしょうか。

この記事では、なぜ経営者は孤独を感じるのか、その構造的な理由を紐解き、安易な「対話」に逃げず、自分自身でその重圧を乗り越えるための道筋をお伝えします。

少し厳しい現実かもしれませんが、まずは一つの事実を受け入れるところから始めましょう。あなたがどれだけ社員と仲良くなっても、どれだけ素晴らしい右腕がいても、経営者の孤独が完全に消えることはありません。それはあなたの性格のせいではなく、経営という役割に組み込まれた「構造的な違い」があるからです。この違いを理解しないまま「完全に分かり合おう」とすると、かえって苦しくなってしまうかもしれません。

1-1. オーナーでなければ、「真の当事者意識」が生まれないから

これが非常に大きく、埋めることが難しい構造的な違いです。
あなたは、自分のお金、時間、そして人生そのものを会社に投じている「オーナー(所有者)」です。多くの経営者は金融機関からの借入に対して個人保証を入れており、万が一会社が立ち行かなくなれば、その責任を一身に背負うことになります。

一方、従業員や幹部は、どんなに優秀であっても、基本的には組織に「雇用」されている立場です。彼らには職業選択の自由があり、別の道を選ぶこともできます。「自分の身体」の一部として会社を見ている人間と、「働く場所」として見ている人間。この両者が、全く同じ熱量、同じ危機感で完全に分かり合うことは、立場の違い上、どうしても難しいのです。

1-2. 「経営者にしかできない仕事」があるから

経営者の仕事の核心は「誰も決められないことを決めること」と「最終責任を取ること」です。
毎月の資金繰りの最終判断、不採算事業の撤退、あるいは長年貢献してくれた社員の解雇。これらのタスクは、どれだけ優秀なNo.2がいたとしても、最終的にはハンコを押すあなたの責任です。

「A案もB案もリスクがある。しかしどちらかを選ばなければ会社が立ち行かない」という極限状態で、「その人しか実行できない」というタスクの性質上、あなたは物理的にも精神的にも、最後は必ず「個」にならざるを得ません。この重圧のすべてを分かち合うことは、誰にもできないのです。

社長にしかできない仕事」について、詳しくは下記をご覧ください。

2. 孤独の本当の正体とは?~「誰かと話せば解決する」は大きな勘違い~

孤独に耐えきれず、「同じ経営者仲間と飲んで発散する」あるいは「経営セミナーや交流会に参加する」という行動に出ることもあるでしょう。「話してスッキリした」「良い刺激をもらえた」「一人じゃないと思えた」。確かにその瞬間、心は軽くなり、モチベーションも上がるはずです。

2-1. 「対話」は一時的な鎮痛剤にすぎない

しかし、セミナー会場から戻り、翌朝オフィスに行けば現実は何も変わっていません。
資金繰りの表はそのままです。組織の問題も解決していません。決断を待つ書類の山は減っていません。
外部での「対話」や「刺激」は、一時的な活力剤にはなっても、経営課題を根治する治療薬にはならないのです。

もちろん、外部からの情報は重要です。しかし、「外」に答えを求めて飛び回っても、あなたの会社の固有の問題を解決できるのは、世界でただ一人、あなたしかいません。安易に「誰か」や「何か」に依存するのではなく、その刺激を持ち帰り、孤独なデスクで自社の課題と向き合い続けること。それだけが、現実を変える唯一の手段なのです。

2-2. 経営者を苦しめているのは「孤独」ではなく「見えない不安」だ

少し胸に手を当てて考えてみてください。あなたが辛いのは、本当に一人ぼっちで寂しいからでしょうか?
もしかすると、「この判断で合っているのか分からない」「来月、資金がショートしたらどうしよう」「組織が崩壊しているが、手を打つ場所が分からない」といった不安ではないでしょうか。

そうした、「経営の全体像が見えていないことによる恐怖と不安」が、頼れる人がいない状況と相まって、「孤独」という名前であなたを襲っているだけなのかもしれません。お化け屋敷が怖いのは、暗くて先が見えないからです。電気がついていれば、怖さは半減します。
もし、経営の全体像がクリアに見えていて、「次はこれをやればいい」と確信が持てていれば、たとえ一人であっても、そこに迷いや辛い孤独は存在しないはずです。

経営の全体像をクリアにするために、下記もご覧ください。

3. 経営者の「見えない不安」を解消する、たった1つの方法

では、どうすればこの「見えない不安」を消し去ることができるのでしょうか。答えはシンプルです。
外に救いを求めるのではなく、あなた自身が経営に向き合い、学び続けることです。

3-1. 「全体像」が見えれば、不安は消える

暗闇の中を歩くのは誰でも怖いものです。しかし、正確な地図と明るい懐中電灯があれば、一人でも堂々と目的地へ歩けます。経営も同じです。
経営とは何か」「組織とはどう作るのか」「財務はどう見るのか」。これら経営の原理原則と全体像(=地図)を学んでいれば、目の前のトラブルが「なぜ起きているか」が手に取るように分かります。

「これは成長痛だ」「これは資金繰りの警告だ」と原因が分かり、次に打つべき手が見えれば、不安は霧散します。不安が消えれば、孤独はもはや「恐怖」ではなく、冷静に思考を深めるための「静寂」という武器に変わります。経営を学ぶことこそが、あなたの心に灯りをともす唯一の方法なのです。

3-2. 社長の悩みは、社長にしか解決できない

あなたの会社の舵取りができるのは、世界中であなただけです。
社員も、家族も、友人も、あなたの代わりにはなれません。
その事実から目を逸らさず、「自分一人で背負い、自分で解決するのだ」と覚悟を決める時なのかもしれません。そして、そのために必要な武器(知識と実力)を身につけてください。知識があれば、社員とも共通言語で話せるようになり、結果として組織の断絶も埋まっていきます。
孤独から逃げるのではなく、孤独に耐えうる自分を作ることそれが、経営者が歩むべき王道であり、自由への入り口なのです。

4. 【ワーク】「不安」の正体を暴き、学ぶべきことを特定する

誰かに愚痴をこぼす時間は終わりにして、その時間を使って、自分が今「何が見えていないのか」を特定しましょう。漠然とした不安を「学習課題」に変えることで、やるべきことが明確になります。

以下の思考整理ワークで、「不安の正体」と「今学ぶべきこと」を言語化してください。

不安特定&学習計画ワーク

【不安特定&学習計画ワーク】

「見えない不安」を「見える課題」に変える

誰かに話すのではなく、自分で向き合いましょう。 以下のステップで、あなたが今学ぶべきことを特定します。

ステップ1: 恐怖・不安の言語化

※感情的な言葉でも構いません。まずは全て書き出してください。

ステップ2: 原因の特定(知識不足の自覚)

※「人が悪い」「景気が悪い」ではなく、「自分の知識不足」に原因を求めてみましょう。

ステップ3: 学習へのコミットメント

※小さな一歩で構いません。今日からできることを宣言してください。

さいごに:その孤独は、未来を変える「サイン」である

孤独であることを、決して嘆かないでください。それは、あなたがリスクを取り、自分の足で立ち、多くの人の生活を背負っている「オーナーである証」です。

この重圧は、あなたにしか背負えない、誇り高い荷物です。暗闇の中で一人、決断を下すその瞬間こそが、会社の未来を作る最もクリエイティブな時間なのですから。誰かに分かってもらおうとする必要はありません。その孤独と向き合った時間の分だけ、会社は強くなります。

みんな、孤独です。一流の経営者ほど、その孤独を愛し、その時間を使って学び、牙を研いでいます。
安易な慰め合いに逃げず、自分自身と向き合ってください。学び続けてください。
経営の全体像が見えたとき、あなたの孤独は「見えない不安」から「明確な戦略」へ、そして「誇り高い生き様」へと変わっているはずです。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 保坂 太陽

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室