「あの一言が原因だったのか……」
ふとした瞬間に退職した社員の顔がよぎり、眠れない夜を過ごしていませんか?

会社を守るための「責任感」や「熱意」が空回りし、つい強い言葉を使ってしまう。その言葉が、実は社員の心を深く傷つける「凶器」になっていることがあります。

本記事では、社長が絶対に言ってはいけない「NGワード」をリスト化し、なぜそれを言ってしまうのかという構造的な原因と解決策を解説します。言葉を我慢するのではなく、自然と感謝が溢れる組織へ変わるための一歩を踏み出しましょう。

LEADERSHIP CHECK 【自己診断】社長のNGワード12選

無意識に使ってしまいがちな言葉から、あなたのリーダーシップ傾向を分析します。 部下に言ったことがある言葉にチェックを入れてください。

【無関心・拒絶】孤独を加速させる言葉

経営者の「余裕のなさ」が最も表れやすい言葉です。悪気はなくとも、対話をコストと捉える姿勢が部下の孤立を招きます。

1. 「忙しいから後にして」

その「後」が来ることは永遠にありません。社員は相談のタイミングを失い、問題は水面下で深刻化します。

2. 「で、結論は?」

プロセスを聞かずに結論を急ぐと、社員は「経緯を理解してもらえない」と感じて心を閉ざします。共感のない正論は届きません。

3. 「そんなことより数字はどうなった」

報告しようとした悩みやプロセスを無視し、数字だけを見る姿勢。人は数字のための道具ではないと反発を招きます。

【責任転嫁・他責】信頼を一瞬で失う言葉

情報の非対称性を無視し、報告しにくい環境を作っているのは自分であることに無自覚な発言です。

4. 「なんで言わなかったんだ」

言わなかったのではなく、「言える雰囲気ではなかった」のが真実であることが大半です。報告の遅れを責める前に環境を見直すべき言葉です。

5. 「俺は聞いてない」

組織の伝達ミスを「自分は関係ない」と切り離す言葉です。リーダーとしての器が疑われます。知らなかった自分を恥じる姿勢が必要です。

6. 「勝手にしろ」

育てる責任の放棄であり、社員を見捨てる究極の拒絶ワードです。突き放された社員は、二度と心を開きません。

【過去固執・マウンティング】未来を閉ざす言葉

古参社員と若手の板挟みから出る言葉ですが、社員には「変化を拒む老害」と映ってしまいます。

7. 「俺の若い頃は(武勇伝)」

時代背景の異なる苦労話は、若手には共感ではなく「強要」として響きます。「今は今」という視点が欠けています。

8. 「前の方が良かった」

現在の社員の努力を否定し、過去の幻影を追う姿勢は、組織の士気を下げます。変化に適応できない弱音にも聞こえます。

9. 「そんなことも知らないのか」

知識のマウンティングは、教える仕組みがないことの裏返しです。「教えていない自分が悪い」という発想が必要です。

【存在否定・人格否定】自尊心を破壊する言葉

最も注意すべきカテゴリです。社員を「代替可能なパーツ」として扱い、会社へのロイヤリティを一瞬でゼロにします。

10. 「やりたくないならやらなくていいから」

自主性を重んじているようで、実際は突き放しです。「モチベーションが低いなら不要」という拒絶として響きます。

11. 「向いてないから別の人に任せるよ」

業務判断のつもりでも、部下にとっては突然の「戦力外通告」です。挽回のチャンスや成長の機会を一方的に奪う言葉です。

12. 「なんで言われた通りにできないの?」

理由を聞いているのではなく、単なる能力否定です。部下は萎縮し、指示待ち人間になるか、反発して心を閉ざします。

ダメな社長には、使う言葉以外にも特徴があります。詳しくは下記をご覧ください。

2. なぜ、社長がつい「強い言葉」を使ってしまうのか?3つの構造的原因

あなたは決して、社員を傷つけたいわけではないはずです。むしろ、会社を守ろうとする責任感が人一倍強い。
NGワードが出てしまう真の原因は、社長個人の性格ではなく、「仕組みの不在」と「構造的な孤独」にあります。

2-1. 原因1:「仕組み」がないから「人」を責める

重要なのは、「人が悪いのではなく、仕組みが悪い」と気づくことです。
例えば、事前に「行動指針」などのルールに互いに合意していれば、何か問題が起きても、それは「人への攻撃」ではなく「仕組み(逸脱)への指摘」になります。これなら、お互いに納得感を持ってスムーズに改善へ進めます。
しかし、この仕組みがないと、問題の原因を「相手の能力や性格」に求めるしかなくなり、結果として行き場のない怒りを、そのまま「人」にぶつけるしかなくなってしまうのです。

2-2. 原因2:プレイングマネージャーの重圧と焦り

多くの中小企業社長は、経営と現場の両方を背負うプレイングマネージャーです。
自身のキャパシティを超えた業務量と、資金繰りや将来への重圧。常に余裕がない状態で、些細なミスや報告の遅れに直面すると、感情のコントロールが効かなくなり、つい強い言葉で防衛してしまいます。

2-3. 原因3:社長と社員の「視座のズレ」への失望

「俺と同じ熱量で働いてほしい」「言わなくても察してほしい」。創業社長ほど、社員に自分と同じレベルの視座や情熱を求めがちです。
しかし、雇用される側の社員が経営者と同じ視座を持つことは構造的に不可能です。この期待値のズレが、「裏切られた」という勝手な失望感を生み、攻撃的な言葉に変わります。

3. 【解決策】言葉を変えて「対立」を解消し、社員を「味方」にする方法

NGワードを避けるために、言いたいことを我慢する必要はありません。
重要なのは、言葉を変えることで、社長と社員の「関係性の構造」を変えることです。

3-1. 対面(対立)から、横並び(共闘)へ

社長が社員を問い詰める時、構造は「私(社長) vs あなた(社員)」という対立構造(取調べのような対面関係)になっています。これでは、どんな正論も「攻撃」として受け取られます。

目指すべきは、「私たち(チーム)」が、共通の課題(川の向こう岸)を一緒に見ているような「横並びの関係」です。
河原で並んで座り、「あそこに行くにはどうしようか?」と語り合う。この構造を作るだけで、同じ厳しい言葉でも「攻撃」ではなく「作戦会議」に変わります。

3-2. 主語を「私たち(We)」に変える

構造を変える最も簡単な方法は、主語を変えることです。

  • ×「(あなたは)なんで失敗したんだ?」
    主語が「You(あなた)」だと、個人の責任追及になります。
  • ○「(私たちは)どうすればこの問題を解決できるだろう?」
    主語を「We(私たち)」にすると、問題は「二人の共通の敵」になり、社員は「一緒に戦うパートナー」になります。

3-3. 「共通の判断軸」を作る

「結論は?」と聞いても誰も傷つかないチームにするためには、事前に「プロとして結論から話そう」という共通ルール(判断軸)を作っておくことです。
判断軸の代表例が、企業の価値観や行動指針を明文化した「クレド」です。

「判断軸」という第三の基準があれば、注意は「人格否定」ではなく「ズレの調整」になります。

クレドについて、詳しくは下記をご覧ください。

まとめ:まずはたった1つの言葉を変えることから始めよう

社長が言ってはいけない言葉。それは、社員を「敵」や「道具」とみなしてしまう言葉です。

言葉尻だけを修正しても意味がありません。「私」と「あなた」という分離した関係から、「私たち」というチームの関係へ。

主語を「We」に変え、同じ景色(ビジョン)を横並びで見ながら語り合う。

その構造さえ作れれば、あなたの厳しい言葉は、社員を成長させる最強のエールに変わるはずです。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 保坂 太陽

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室