バリュープロポジションキャンバスとは、自社の製品やサービスと顧客の状況やニーズがどれだけマッチしているかを可視化するためのフレームワークです。
この記事では、バリュープロポジションキャンバスの重要性と具体的な作成方法、事例について詳しく解説します!
バリュー・プロポジション・キャンバスとは
バリュー・プロポジション・キャンバス(Value Proposition Canvas)とは、自社の製品やサービスと顧客の状況やニーズがどれだけマッチしているかを可視化するためのフレームワークです。
アレックス・オスターワルダーにより2015年に発表された著作、『バリュー・プロポジション・デザイン』で紹介され、注目を集めています。
この手法では、まるでデザイナーがキャンバスに絵を描くように、企業は一枚の紙の上で顧客に提供する価値であるバリュー・プロポジションをデザインしていきます。
具体的には、自社が顧客に提供する価値であるバリュー・プロポジションと顧客セグメントを同じキャンバス上に配置し、両者の関係性を視覚化します。
これにより、お互いのニーズのずれを最小限に抑えることができます。
バリュー・ポジションとは
顧客に提供する価値の本質を凝縮して表現したものをバリュー・プロポジションといいます。
バリュー・プロポジションは、「自社だけが提供でき、他社が提供できない、お客様が求める価値」つまり「お客様が買う理由」であると言えるでしょう。
強いバリュー・プロポジションは、大きな差別化を実現し、成果に直結させる力があります。
強いバリュー・プロポジションを策定するためには、顧客の視点に立って考えることが重要です。
企業が想定しているものとは別の価値を顧客が見出していることは往々にしてあります。
バリュー・プロポジション・キャンバスを使用することで、自社の製品やサービスが提供する価値と顧客のニーズとのずれを確認することができます。
このずれを認識することで、製品やサービスを市場でより受け入れられるものに改善することが可能となるのです。
バリュー・プロポジション・キャンバスの特徴
バリュー・プロポジション・キャンバスの特徴としては以下が挙げられます。
● バリュー・プロポジション・キャンバスが有効なタイミング
●バリュー・プロポジション・キャンバスを使用する際の注意点
バリュープロポジションキャンバスが特に有効なタイミング
「バリュー・プロポジション・キャンバス」が特に有効なタイミングは、市場が未成熟で、競合他社がそれほど参入していないときです。
バリュー・プロポジション・キャンバスを用いて、顧客を深く理解し、先陣を切って市場を開拓して行くことができます。
すでに市場が成熟している場合には、「バリュー・プロポジション」よりも「3C=自社・競合他社・顧客」のそれぞれの視点から、価値を考察していく方が有効です。
バリュー・プロポジション・キャンバスを使用する際の注意点
バリュー・プロポジション・キャンバスを使用する際は、自社の経験や体験に囚われず、「顧客の視点に立って考える」ことが重要です。
企業側の視点に立って考えてしまうと、企業側の一方的な思いこみに縛られ、顧客が本当に望んでいる価値が見えなくなってしまう可能性があります。
「お客様が買う理由」を突き止めるためには、顧客の視点に立つということを忘れないようにしましょう。
バリュー・プロポジション・キャンバスを作成するメリット
バリュー・プロポジション・キャンバスを作るメリットとしては以下が挙げられます。
●自社の提供価値と顧客のニーズのずれを可視化できる
● 新たな顧客ニーズを発見できる
●商品・サービスの改善点や強みを発見できる
自社の提供価値と顧客のニーズのずれを可視化できる
バリュー・プロポジション・キャンバスを作ると、自社の提供価値と顧客のニーズのずれを可視化できます。
顧客のニーズが顕在化していない場合は、ニーズを把握することが難しく、自社と顧客のニーズに乖離があることに気付かないことも珍しくありません。
そのようなときは組織全体で情報を共有することも視野に入れ、複数の部署に渡って客観的にニーズを探っていくことが重要です。
新たな顧客ニーズを発見できる
バリュー・プロポジション・キャンバスを活用していると、新たな顧客ニーズを発見できることもあります。
マーケティングや商品開発、企画の段階から、バリュー・プロポジション・キャンバスを取り入れることによって新たな顧客ニーズを発見できる可能性があります。
バリュー・プロポジション・キャンバスを少しでも多くのフェーズで取り入れることで、新しいニーズの発見につながるのです。
商品・サービスの改善点や強みを発見できる
バリュー・プロポジション・キャンバスを作成していくうちに、商品・サービスの改善点や強みを発見できるようになります。
バリュー・プロポジション・キャンバスを作成すると、顧客ニーズとのずれを把握できます。その顧客ニーズとのずれがいわゆる自社の改善点であり、顧客の求めていない価値となります。
またニーズとのずれを改善していく中で、商品・サービスの強みが発見できる場合もあります。
こうした探索と発見のプロセスにより、競合他社が実現できなかった技術が我が社で実現できたり、「私たちにはこんな能力があったのか」という新たな発見が頻繁に起こります。
この探索と発見を通じて、自社の開発・生産能力が強化され、自社の製品やサービスの性能が飛躍的に向上していくのです。
バリュー・プロポジション・キャンバスの構成要素
バリュー・プロポジション・キャンバスは、
● 自社が顧客へ与えられる「顧客への提供価値=バリュープロポジション」
● 顧客を把握し理解するための「顧客セグメント」
この2つの要素を同一紙面上にデザインすることで、両者の関係性が可視化され、お互いのニーズのズレを少なくすることができるフレームワークです。
顧客プロフィール
ビジネスモデルにおける特定の顧客セグメントを、より整理された形で詳しく描いたものが顧客(セグメント)プロフィールです。
顧客プロフィールは、顧客の仕事、ペイン、ゲインの3つに分類されます。
顧客の仕事
顧客の仕事とは、
・機能的な仕事
・社会的な仕事
・個人的/感情的な仕事
・サポート的な仕事
・仕事の環境
など、顧客側人生や職業を通して成し遂げたいことを自分の言葉で表現したものです。
ペイン
ペインとは、
・望ましくない結果、問題、特徴
・障害
・リスク(望まない結果をもたらす可能性のあるもの)
など、顧客の仕事に関する悪い結果、リスク、障害を指します。
ゲイン
ゲインとは、
・必要不可欠なゲイン
・期待されるゲイン
・望ましいゲイン
・予想外のゲイン
など、顧客が達成したいこと、または顧客側求める具体的な恩恵を指します。
バリューマップ
ビジネスモデル中の特定の価値提案を、より整理された形で細かく描いたものがバリュー(提案)マップです。
バリューマップは、製品とサービス、ペインリリーバー(悩みを取り除くもの)、ゲインクリエイター(恩恵をもたらすもの)の3つに分類されます。
製品とサービス
製品とサービスとは、
・物理的なもの・目に見えるもの
・目に見えないもの
・デジタルなもの
・金融商品
など、価値提案をもとに作られる製品とサービスのリストを指します。
ペインリリーバー(悩みを取り除くもの)
ペインリリーバーとは、
製品とサービスが、
・時間、お金、または労力の節約になっているか
・顧客の気分を晴らしているか
・顧客の不満や悩みや頭痛の種を取り除いているか
など、製品とサービスがどのように顧客の悩みを取り除くかを描く項目です。
ゲインクリエイター(恩恵をもたらすもの)
ゲインクリエイターとは、
製品とサービスが、
・顧客の期待通りの、またはそれ以上の結果を生み出しているか
など、製品とサービスがどのように顧客の恩恵になるかを描く項目です。
バリュー・プロポジション・キャンバスの作成方法
顧客プロフィールの書き方
以下の流れに沿って書き進めていきます。
⑴顧客セグメントを明確にする。
⑵顧客の仕事を書き出す。
⑶ペインを書き出す。
⑷ゲインを書き出す。
⑸順位づけする。
顧客プロフィールを書く際の注意点
顧客プロフィールを書く際の注意点は以下の通りです。
・複数の顧客セグメントを混ぜない。
・ペインとゲインは具体的にする。
・顧客の本当の仕事は何か理解する。
・思いつく限りのペインとゲインを洗い出す。
・機能的な面だけでなく社会的、感情的な仕事にも目を向ける。
・あくまで顧客視点で考える。自分視点で考えるものではない。
バリューマップの書き方
以下の流れに沿って書き進めていきます。
⑴製品とサービスを書き出す。
⑵ペインリリーバーを書き出す。
⑶ゲインクリエイターを書き出す。
⑷順位づけする。
バリューマップを書く際の注意点
バリューマップを書く際の注意点は以下の通りです。
・全ての製品とサービスを列挙する。
・ペインリリーバーとゲインクリエーターの欄に製品とサービスを書かない。
・顧客プロフィールのペインとゲインに対応するペインリリーバーとゲインクリエーターを書き出す。
バリュー・プロポジション・キャンバスの作成事例
ミルクシェイクの事例
クレイトン ・M ・クリステンセンによって書かれた書籍『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』で取り上げられているミルクシェイクの事例を紹介します。
『ジョブ理論』にて紹介されている事例のうち、とあるファーストフードチェーンがミルクシェイクの売上を伸ばすために、来店客を調査した事例を取り上げ、書籍に書かれている顧客観察から得られた結果をもとに、バリュー・プロポジション・キャンバスを描きました。
以下が書籍中で紹介されている顧客観察によって得られた内容です。
ミルクシェイクを買う顧客には、ある一定のパターンがある。
ミルクシェイクを買う顧客は一人で入店し、ミルクシェイクだけを買い、車でそのまま走り去るケー スが多い。
そのような顧客にインタビューをすると、
・車での通勤途中である
・一人で毎日運転するのは退屈である
・手持ち無沙汰を解消するためミルクシェイクは最適である
・バナナやドーナツを食べながら運転したが、手が汚れ会社に着く前になくなる
・ミルクシェイクは手も汚れず、長持ちする
このような顧客の状況から、「退屈しのぎ」のためにミルクシェイクを買ってい
るということがわかります。
以上の内容を、バリュープロポジション・キャンバスに描いてみると、以下の通りです。
参考:『持続的成長企業の破壊的イノベーションへの対応策― ジョブ理論の視点から ―』坪内良介
まとめ
◆ バリュー・プロポジション・キャンバスは、自社の製品やサービスと顧客の状況やニーズがどれだけマッチしているかを可視化するためのフレームワークである。
◆ バリュー・プロポジション・キャンバスを作成するときは、顧客の視点に立って分かりやすく作ることがポイントである。
バリュー・プロポジション・キャンバスとともに知っておくべきフレームワークに、ビジネスモデルキャンバスがあります。詳しくは下記の記事をご覧ください。
【ライター】
濱出 美里
株式会社ビジネスバンク
Entrepreneur事業部 事業副責任者
早稲田大学商学部にて経営学を専攻する井上達彦研究室に所属。「起業家精神とビジネスモデル」を研究テーマに、経営理論を学ぶと同時に研究対象におけるビジネスモデルの研究やそれにまつわる論文の執筆に励んでいる。
社長の学校「プレジデントアカデミー」のHPに掲載するブログの執筆、起業の魅力と現実を伝えるインタビューサイト「the Entrepreneur」にて起業家インタビューを行い記事を執筆している。
【監修】
黒田 訓英
株式会社 ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
中小企業診断士
早稲田大学商学部の講師として「ビジネス・アイデア・デザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL」の授業にて教鞭を執っている。社長の学校「プレジデントアカデミー」の講師・コンサルタントとして、毎週配信の経営のヒント動画に登壇。新サービス開発にも従事。経営体験型ボードゲーム研修「マネジメントゲーム」で戦略会計・財務基礎を伝えるマネジメント・カレッジ講師でもある。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。日本ディープラーニング協会認定AIジェネラリスト・AIエンジニア資格保有者。経済産業大臣登録 中小企業診断士。