ビジネスモデルを描くにはどのような方法があるのでしょうか?

今回は、新しいビジネスモデルの創出や既存のビジネスモデルの見直しの際に役立つ、ビジネスモデルを可視化するフレームワークとしてビジネスモデル・キャンバスを紹介します!

ビジネスモデル・キャンバスとは

ビジネスモデル・キャンバスは、「顧客」「価値提案」「インフラ」「資金」の4つの領域をカバーする9つの要素で構成され、それぞれがどのように関わっているかを描き出せるフレームワークです。

2005年にスイスの経営コンサルタントのアレクサンダー・オスターワルダーがローザンヌ大学博士課程在籍時代に発案し、イヴ・ピニュール教授の監修を受けて発表しました。新しいビジネスのバリデーション(確認・検証)や、自社ビジネスモデルのコンセプチュアライゼーション(概念化)などの場面で使われています。

複雑なビジネスの構造を整理して視覚的にわかりやすく表現することで、どのような顧客にどのような価値を提案し、どのような媒体や経路で提供し、収益を上げていくかを見極めることができます。

ビジネスモデル・キャンバスを作成するメリット

ビジネスモデル・キャンバスを活用するとどのようなメリットがあるのでしょうか?3つ紹介します!

ビジネスモデルを共有しやすくなる

ビジネスモデルの全体像を共有することは容易ではありません。例えば、マーケティングに携わる人は「顧客視点」から、製造業のエンジニアなら「製品や技術」から考える傾向があり、コンサルタントなら「収益」を重視しがちです。そうなると議論がかみ合わないのは当然で、協力して補完し合おうにも、お互いの意図を正しく理解して全体像を共有することが非常に難しくなってしまいます。

ビジネスモデル・キャンバスを活用することによって、偏りなく客観的かつ効率的にビジネスモデルを考えられるようになり、他の人の考え方を理解するのにも役立ちます。つまり、異なる言語と価値観を持つ人々が互いを理解し、ビジネスモデルを共有することが可能になるのです。

ビジネスモデルを比較する指標となる

多くの書籍で様々なビジネスモデルの成功例が紹介されていますが、文面で解説されたビジネスモデルの事例同士の比較は困難を極めます。

ビジネスモデルの成功例や、比較対象のビジネスモデルをビジネスモデル・キャンバスで表現することで客観的に比較することが可能になります。自社のビジネスモデルを検討する場面でも、様々なパターンでモデルを考え、その上で客観的に比較検討することができます。

ビジネスモデルの全体像を直感的に理解できる

ビジネスモデルキャンバスは、真ん中にVP(Value Proposition)=価値提案を置いています。これが社会に提供する価値となり、右側は顧客視点に基づいた「右脳的感情」で価値を考えるエリア、左側は「左脳的ロジック」で効率を考えるエリアに分けられており、左右のバランスやブロックの関係性などから、1枚のシートでビジネスモデルの全体像を直感的に把握することが可能です。

ビジネスモデル・キャンバスの構成要素

ここでは、ビジネスモデル・キャンバスを構成する9つの要素を1つずつ説明します!

顧客セグメント

ビジネスには、つねに顧客が存在します。顧客セグメントは、自社の製品やサービスの価値を提供したい人は誰か、自社の顧客を特定する項目です。要はターゲットについて記載します。

そのため、対象となるユーザー層(ぺルソナ)について説明することが必要です。年齢、性別、職業、居住地域、家族構成などの属性でセグメントし、さらにどのような顧客に対してどのような製品を提供するのか、顧客のニーズや消費行動、趣味、普段の行動なども書き出し、顧客像をより具体化します。

例えば、ターゲットを「30代の主婦」とするよりも、「2児の育児に忙しい30代の主婦、夫は育児にあまり参加しない、ときには調理の手間を省きたいと考えている」とした方が、自社が提供したい製品の価値が明確になります。

顧客との関係

顧客との長期的な関係を構築するための具体的な方法を書き出します。

「顧客にどのように継続的に情報発信をしていくか」「アフターサービスはどうか」「顧客とのコミュニティをどのように構築していくか」というような視点で顧客との関係を考えてみましょう。

顧客との関係を構築する方法としては、以下が挙げられます。

【パーソナルアシスタント】顧客と対面でやりとりするか、メールなどを使います。特に高単価の製品・サービスの場合に必要です。
【コミュニティ】顧客がセグメントに分けられるときに有効なのが、ソーシャルメディアなどのコミュニティです。コミュニティ内で顧客からの相談を受けたり、問題を解決したりするのに役立ちます。
【セルフサービス】顧客自身で問題を解決できる自動化の仕組みを構築します。
コンビニを例に挙げると、コンビニの提供価値は利便性であるため、基本的には顧客との関係はセルフサービスを利用すると、浅い関係となります。一方、ポイント会員制により顧客との長期的な関係を図っているケースは一般的な傾向です。

チャネル

見込み客に事業の価値を届けるためのルートについて記載します。例えば、アパレル企業でも、店舗型がメインなのか、オンラインでの販売が中心なのかでは事業戦略が大きく変わってきます。そのためセグメントした顧客にどのようにアプローチするのかを決め、販売ルートや戦略の方向性などをより具体化していくことが、このフェーズでの主な目的です。

チャネル開発のフェーズについて、ビジネスモデルキャンバスの考案者は以下のように言及しています。

【認識】ブログやソーシャルメディアなど……潜在顧客と接触し繋がり続けるための仕組みを通じてリーチする。
【評価】サンプル提供、顧客のレビューなど……潜在顧客に対して実際に商品を試してもらう仕組みを作る
【購入】店舗での購入、オンラインでの購入……顧客が購入する手段を明確にする。
【ディストリビューション】顧客が最終的に製品を受け取る手段を明確にする。
【アフターセールス】顧客がサービスを利用し続けたり、商品をリピートして購入したりする場合に対応したサポートを構築する。
以上を踏まえて、以下の内容を確認しておきましょう。

・顧客はどのような方法で 自社のサービスにアプローチするか?
・顧客が自社のサービスを評価する方法を設けているか?
・決済方法は簡易か?
・顧客対応はスピーディーか?
・アフターフォローを行っているか?
・コストも考慮に入れるとどのアプローチが最適といえるか?

価値の提案

価値提案の項目には、製品やサービスの簡単な説明と、顧客が得られる価値を書き出します。言い換えると、顧客にどのような価値を届け、顧客はどのような問題を解決できるか、顧客が購入すべき理由について書きます。

現代はさまざまな商品が市場に溢れており、競合他社と差別化を図るには自社ならではの付加価値を創出することが必要です。そのため、見込み客が何に悩んでいるか、どのような製品またはサービスを求めているか、見込み客の需要を深堀し、そのニーズを満たすために付加価値を明確化します。

なお、価値提案は短い文で表現することが必要です。曖昧な表現と専門用語があれば削除して書き直しましょう。

例として、以下の表現を参考にしてください。

・自宅にいながらプロの味が味わえる
・自炊の手間を省ける
・栄養面が配慮されている
・コストを削減できる
・操作方法が簡単
・決済方法が簡単

主な活動

価値を提供するために実行すべき活動(タスク)をリストに書き出します。主要な活動は、以下の3つのポイントを意識して作成しましょう。

<生産>製品の大量生産化または効率化の計画
<顧客の問題解決>製品・サービスの利用を通じて起こることが想定される問題を解決する仕組み
<プラットフォーム構築>ビジネスモデル上で新たな事業が生まれる仕組み

例えば、ECサイトの設計・開発、マーケティング戦略、プロモーションの立案・策定、市場調査、人材の採用・育成など、事業の根幹となる活動を具体的に落とし込んでいきます。主要活動を明確にすることは、事業活動の計画や戦略方針を決めるために不可欠なプロセスです。

主な資源

この項目では、必要なリソースを書き出します。経営資源がないと、価値を創造することも提供することもできません。主なリソースとして、以下が挙げられます。

人的資源:従業員
財務:現金、銀行ローン、助成金など
有形資産:不動産、施設や設備、在庫など
無形資産:運営ノウハウ、技術、知識、システム、知的財産特許など

表現例:一貫体制システム、駅近の立地、大規模工場、風通しの良い企業風土、ブランド価値など

パートナー

ここでは、事業活動におけるサプライヤーを明らかにします。消費者の手元に商品が届くまでには、調達、生産、物流、販売という流通プロセスがあり、さまざまな企業が関わっています。主要なパートナーシップとは、こうした流通経路における外部リソースとサプライヤーを書き出す項目です。

記載する際には、パートナーシップにより最適化、経済効率、リスク軽減などが実現できているかを確認しましょう。

例:運送業者、物流会社、食材販売業者、梱包材の販売業者、商社、販売代理店など

収入の流れ

企業は製品やサービスを創出し付加価値を提供しますが、その対価として収益を得る必要があります。そのため、この項目では価値を提供したことで収益をどのように得るかを説明します。収益ポイントをいくつか書き出してみましょう。

収益を得る一般的な方法は、以下のとおりです。

【製品・サービスの販売】製品やサービスを販売して収益を得る。
【レンタル】決められた期間に基づいて商品を貸し出すことにより収益を得る。
【サブスクリプション】継続的なサービスを提供することで収益を獲得。年や月ごとの契約形態で定期的な支払いを受ける。
【ライセンス】企業の知的財産を使用する許可を与え、その対価を得る。
【広告】ソーシャルメディアなどで使われることが多い手法。ユーザーが閲覧したり、実際に製品を購入したりすると収益が発生する。
なお、収益は自社から見ると売上ですので、収入の項目や課金方法について記載します。例:商品代金、レンタル料、メンテナンス料、会費、使用料、月額料など

コスト構造

事業活動で発生するコストを明確に書き出します。商品の価格はコストによって決まるので、全体像を可能な限り把握することがポイントです。

利益を最大化するには、売上高を高めるだけでなく、コストをいかにして削減するかが課題となります。そのため、コスト構造で固定費と変動費を洗い出し、その他の要素とどう関連するかを分析することが必要です。以下の内容を確認しましょう。

・インフラ・マーケティング・運用にかかるおよそのコスト
・およその人件費、経費
・主要なリソースや主要活動でコストが大きいものは何か?
・優先するものはコストか価値か?
例:人件費:~円/年、インフラコスト:~円/年、運送費用:~円/年、マーケティング費用:~円/年

ビジネスモデル・キャンバスの作成方法

ビジネスモデル・キャンバスは、最初から無理に埋めていくものではなく、調査を通じて徐々に要素を埋めていくものです。まず調査をして、仮説としてキャンバスを埋め、検証を重ねていく中で新たな発見があれば書き加えていきます。油絵のように絵の具でキャンバスに何度も上書きしていく作業に似ていることから「キャンバス」という名前がつけられているのです。

この章では、ビジネスモデル・キャンバスを埋めていく際に活用できるフレームワークを2つ紹介します。これらのフレームワークを活用しながら、ビジネスモデル・キャンバスへと要素を膨らませていくことで、ビジネスモデルの骨格から要素を整理していくことが可能になります。

事業コンセプト

事業コンセプトとは、「顧客は誰か」「提案する価値は何か」「その方法はどのようなものか」という3つの要素に注目してビジネスを整理したものです。

このフレームワークの特徴は、シンプルに表現できることです。3つの要素に絞ることで、ビジネスを成り立たせている基本構造にフォーカスできます。

例:スノーピークの事業コンセプト

ビジネスモデルの4つの箱

事業コンセプトは要素を3つに絞っていますが、イメージが膨らんでくるともっと詳細に描き出したくなるものです。特にビジネスモデルでは収益の上げ方が重視されるので、これをクローズアップするべきでしょう。ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンとビジネスコンサルタントのマーク・ジョンソンは「ビジネスモデルの4つの箱」というフレームワークを示し、構成要素を4つにまとめました。
その要素とは、「顧客価値提案」「利益方程式」「主要業務プロセス」「主要経営資源」です。「4つの箱」の特徴は、利益方程式をさらに分解してクローズアップしている点です。
「4つの箱」を活用すると、ビジネスモデルの特徴と強さを表現しやすいことがわかります。収益の上げ方と価値提案との対応を明確に示せるのです。

例:スノーピークの4つの箱

Screenshot

2つのフレームワークを用いてビジネスモデル・キャンバスを描く

改めてビジネスモデル・キャンバスの図を見ると、「事業コンセプト」と「ビジネスモデルの4つの箱」を足して、さらい細かく要素分けしたものであることがわかっていただけると思います。
「顧客セグメント」「価値の提案」「活動資源」の3つの要素を軸としながらも、そこに収益方程式(「収益の流れ」と「コスト構造」)を盛り込み、「顧客との関係」「チャネル」「パートナー」を追加したわけです。

例:スノーピークのビジネスモデル・キャンバス

Screenshot

ビジネスモデル・キャンバスの作成事例

Netflix

エアークローゼット

ビジネスモデル・キャンバスを活用してエアークローゼットの事例を紹介している記事はこちら

ビジネスモデル・キャンバスに関連するフレームワーク

ビジネスモデルを検討するツールは、ビジネスモデルキャンバス以外にも存在し、それぞれ違った特徴を持っています。以下では、ビジネスモデルキャンバスとともに知っておくべきフレームワークを2つ紹介します。

バリュー・プロポジション・キャンバス

バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas)は、ビジネスモデルキャンバスの開発者アレクサンダー・オスターワルダーが開発した、別のビジネスキャンバスです。バリュープロポジションキャンバスは、文字通りバリュープロポジション(価値提案)に特化したビジネスキャンバスです。

 バリュープロポジションキャンバスは「価値提案」と「顧客プロフィール」の2つのビルディングブロックで構成されています。「価値提案」においては「プロダクト・サービス」「ゲイン・クリエイター」「ペイン・レビューアー」の問いに答え、「顧客プロフィール」においては「ゲイン」「ペイン」「ジョブ」の問いに答えることで「価値提案」の内容をより詳細に明確化できるものになっています。

 新規事業立上げのケースのように「価値提案」が主たるタスクとなるケースにおいては、ビジネスモデルキャンバスよりも、まずはバリュープロポジションキャンバスからスタートすると良いでしょう。

バリュープロポジションキャンバスについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

リーンキャンバス

リーンキャンバス(Lean Canvas)は、アメリカの経営コンサルタントで起業家のアッシュ・マウリャが開発したビジネスキャンバスです。ビジネスモデルキャンバスをベースに開発されたため両者は似ていますが、「②価値提案」に代わって「ユニークな価値提案」に、「④顧客との関係」に代わって「アンフェアな優位性」に、「⑥主なリソース」に代わって「主なメトリクス」に、「⑦主な活動」に代わって「ソルーション」に、「⑧主なパートナー」に代わって「問題」に、それぞれ置き換えられています。

 マウリャ自身の説明によると、リーンキャンバスは、「もっとも不確実性が高く、もっともリスキーな環境で事業を立ち上げるケースを想定して開発した」とのことです。そのためリーンキャンバスは、特にスタートアップ企業のようなリスキーな事業を展開する企業を対象にしているといえます。

リーンキャンバスについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

まとめ

ビジネスモデルキャンバスは、複雑なビジネスの構造を整理して視覚的にわかりやすく表現することで、どのような顧客にどのような価値を提案し、どのような媒体や経路で提供し、収益を上げていくかを見極めることができます。

ビジネスモデル・キャンバスを描くメリットや、描き方をしっかりと理解して、新規ビジネスの立ち上げや、自社ビジネスの見直しの際にも有効に活用していきましょう!

参考:井上達彦『ゼロからつくるビジネスモデル』

【ライター】
濱出美里
株式会社ビジネスバンク
Entrepreneur事業部 事業副責任者
早稲田大学商学部4年
早稲田大学商学部にて経営学を専攻する井上達彦研究室に所属。「起業家精神とビジネスモデル」を研究テーマに、経営理論を学ぶと同時に研究対象におけるビジネスモデルの研究やそれにまつわる論文の執筆に励んでいる。
社長の学校「プレジデントアカデミー」のHPに掲載するブログの執筆、起業の魅力と現実を伝えるインタビューサイト「the Entrepreneur」にて起業家インタビューを行い記事を執筆している。

【監修】
黒田 訓英
株式会社 ビジネスバンク 取締役
早稲田大学 商学部 講師
中小企業診断士

早稲田大学商学部の講師として「ビジネス・アイデア・デザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL」の授業にて教鞭を執っている。社長の学校「プレジデントアカデミー」の講師・コンサルタントとして、毎週配信の経営のヒント動画に登壇。新サービス開発にも従事。経営体験型ボードゲーム研修「マネジメントゲーム」で戦略会計・財務基礎を伝えるマネジメント・カレッジ講師でもある。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。日本ディープラーニング協会認定AIジェネラリスト・AIエンジニア資格保有者。経済産業大臣登録 中小企業診断士。