リスキングという言葉を一度は耳にされたことがある方も多いのではないでしょうか。このワードは、経済産業省の調べで、2021年1月から2021年2月までの間で検索数が、日本では約310倍に増え、77万件以上も検索されているワードです。
今回は、このリスキリングとは何なのかや、企業が取り組む際のステップ、注意点、メリットをご紹介します。
リスキリングとは?
リスキリングとは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶことです。経済産業省はリスキリング(Re-skilling)を次のように定義しています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
リスキリングは、社会の変化によって必要な技能を学び直す、または働きながら学ぶことが必要であることを説いていますが、これは企業が社員を教育することだけではなく、社員自らが自発的に取り組むことも重要だとされています。
リカレントとの違い
リスキリングとよく混同されるのがリカレントです。ここではその違いを紹介します。
リカレントやリカレント教育、または生涯学習は、リスキリングとは違い、学ぶ際に一度仕事から離れます。
リカレントが循環を意味し、必要なタイミングで大学などの教育機関で教育を受けて、また仕事に戻るといった教育、スキル習得をすることがリカレントと呼ばれます。
一方で、リスキリングでは、仕事から離れず働きながら新しいスキルを学んでいくことを指します。
リスキリングが注目されている理由
リスキリングが注目されるようになったきっかけは、2020年のダボス会議です。ここで、「リスキリング革命」が議題となりました。
「リスキリング革命」の要綱では、第4産業革命に伴う技術変化に対応するために、「2030年までに全世界で10億人へより良い教育、スキル、仕事を提供する」というものです。
第4次産業革命には、バイオ革命やロボティクスなど様々な技術の変化が含まれます。一般生活では馴染みのない分野に思えますが、注目されている分野の一つが、浸透しているDXの加速です。この変化によりDX人材育成の文脈のなかでリスキリングという言葉が使われるようになりました。
DXでは、ツール自体が激しく変化しています。その変化を受け入れつつ、成長し続けるためにリスキリングが必須となっているのです。
リスキリングを推進するための5ステップ
リスキリングでは、会社側と従業員側の双方が能動的に動くことが重要です。その一方で、従業員側が自発的に動き出すことはなかなか難しいため、企業は従業員が自発的に動き出すような仕掛けを作っていく必要があります。
ここでは、進め方を5つのステップに分けて紹介します。
事業戦略に基づいた人材像やスキルを定める
リスキリングでのゴールは、新しいスキルの習得による事業成長です。企業側で、経営戦略や人事戦略を定めたうえで、必要なスキルを固め、それを習得したことで生まれてほしい人物像を固めていきます。
この固まったスキルの中で、今の会社にないものはリスキリングの対象となります。
リスキリングのプログラムを決める
リスキングを実践するのは従業員です。企業が求めるスキルを習得してもらうためのプログラムを用意し、学んだことによる効果を実感できる仕組みを構築しましょう。
このステップは、人事部や経営陣が行う必要があります。
リスキリングのコンテンツを決める
プログラムを決めることと平行して、リスキングをするためのコンテンツを決める必要があります。例えば、新しい経済や働き方を学ぶ場合は、その内容が学べるコンテンツを用意することが必要です。
世の中には、たくさんの教材やオンライン講座がありますので。それらを活用すると良いでしょう。
プレジデントアカデミーでは下記のような講座もあります!
マネジメント能力のリスキリング「プレジデントアカデミー」
各従業員が取り組む
プログラムやコンテンツが決まったら、次は従業員い実際に学んでもらうステップです。この時、企業側から従業員いリスキングを押し付ける形にしてはいけません。従業員が自発的に学ぶようなプログラムとし、その学びを人事評価などに結び付ける必要があります。
また、従業員自身のスキルアップ、キャリアアップに寄り添ったリスキングの計画が必要といえるでしょう。
習得したスキル・知識を実践で活かす
リスキングで習得した知識を実践で活かしましょう。リスキングは事業を伸ばすための手段であるため、活かさなければ意味がありません。
実践の場でそのスキルを従業員に発揮してもらい、評価してキャリアアップにつなげましょう。そうすることでさらに、従業員の自発的リスキリングを誘導することができます。
リスキングを行う上での注意点
リスキングを行う上での注意点をまとめました。ポイントは、押し付けるような勉強をさせるのではなく、自発的な学習を促すことです。
取り組みやすい環境を作る
リスキリングをしやすい環境を構築することが重要です。なぜリスキリングを行う必要があるのかを職場が理解し、サポートする環境が必要です。
また、リスキリングを行う人に向けて、インセンティブや人事評価の評価軸に組み込むなど、従業員のキャリアアップや働き方に合わせた施策を実施する必要があります。
社員の自発性を促す
リスキリングで重要なことは、押し付けて勉強させることではありません。あくまで、従業員が自分の成長、または自分の働き方のアップデートのために自発的に学ぶことが重要です。自発的に学びたくなる仕掛けを用意し、リスキリングを自然と行う環境を生み出しましょう。
リスキリングを行うメリット
ここまで、リスキリングを行う方法を取り上げてきました。では、実際にリスキリングを行うことで企業へのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
新しいアイデアの創出
リスキリングを行うことで、新たな知識を習得し、その知識を活かして新しいアイデアを生み出すことが可能です。今までの仕事を今まで通りやっていくのではなく、新しい学びを通して、非連続な成長を実現する。
そのようなアイデアが生み出される環境の構築ができます。
業務の効率化
リスキリングを行うことで、新しいツールに慣れ親しみ、いままでの業務を改善することに役立つきっかけを生み出すことが可能です。
社内文化の醸成
リスキリングが浸透していくことで、社内で学びを大切にする文化を生み出すことができます。そのことにより、新しいスキルだけでなく、会社への理解や商品への理解を深め、社内の文化を醸成していくことが可能です。
リスキリングを行った事例3選
実際にリスキリングを行った企業の事例をご紹介します。ここでは、国内から1社、海外から1社紹介します。
日立製作所
日立制作所は社員にリスキリングを推奨しており、2019年4月に、日立製作所はグループ内の三つの研修機関を統合し、デジタル人材を育成する新会社「日立アカデミー」を設立しました。国内グループ企業の全社員約16万人や社員ではない人も対象に、DXの基礎教育を実施しています。
AT&T
AT&Tは、アメリカにある通信業界大手の会社で、リスキリングの取り組みを比較的早く始めた企業です。リスキリングを導入したきっかけは、2000年代に起こった通信業界の革命に対応できる人材を増やそうとしたからだと言われています。
10億ドルを投じて行われたビッグプロジェクトになりましたが、リスキリングに参加していない従業員と比べて、参加した従業員の昇進率は上がったとのことです。さらに退職率を抑えることにも成功しています。
今回は、リスキリングに関してご紹介しました。2021年から大きく話題になったこのワードですが、大きな変化が各業界に押し寄せる今、大手から中小企業まで、どの企業でも実践する必要性が高まっています。
仕事をしつつ、新しいスキルを習得し、個人が会社や事業と共に成長するといった新しい仕掛けをぜひ取り入れてみましょう。
【ライター】
田中 大貴
株式会社 Urth 代表取締役CEO
大学では、建築学を専門としながら、2018年4月からは早稲田大学で「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を受講。 その後、文科省edgeNextプログラムの一つである、早稲田大学GapFundProjectにおいて2019年度の最高評価および支援を受け、起業。 早稲田大学建築学科では、株式会社エコロジー計画とともに、コンサートホール、宿泊所の設計、建設に取り組んだ。現在は、「〇×建築」をテーマにwebサービスの開発、営業から、建築の設計及び建設物の運営に関するコンサルタントまで幅広い事業を行う。