「自分は経営者に向いていないのではないか」
そう悩むのは、あなたが理想の経営者像を持ち、そこに近づこうとしている証拠です。

しかし、精神論だけで理想には到達できません。
経営者に必要なのは、先天的な「才能」や「性格」ではなく、理想のあり方を現実にするための「技術」です。

この記事では、歴史上の偉大な経営者たちが持つ共通の「あり方」を紐解きながら、凡人がそこへ近づくために必要な具体的・構造的な「技術」について解説します。

経営者マインド診断

MINDSET CHECK 1. 偉人に学ぶ「経営者10のあり方」&自己診断

歴史上の偉大な経営者たちには、共通する「スタンス(あり方)」があります。
以下の10項目は、彼らが大切にしていた姿勢です。それぞれの解説を読み、今の自分に当てはまるものにチェックを入れてください。

【突破力】不確実な未来を切り拓く力

1. 根拠のない「楽観性」

提唱者:松下幸之助(パナソニック創業者)
「経営の神様」は面接で「運がいいか?」と問い続けました。不確実な未来に対し、根拠がなくても「自分ならできる」と信じ抜く明るい強さです。

2. 走りながら考える「行動力」

提唱者:孫正義(ソフトバンクグループ創業者)
「7割の勝率が見えたら勝負する」。完璧な計画で足踏みせず、まずやってみて走りながら修正するスピード感が、現代の命綱です。

3. 困難に負けない「やり抜く力(グリット)」

実践者:カーネル・サンダース(KFC創業者)
65歳で起業し、1009回断られても営業を続けた彼のように、才能以上に「情熱を持って粘り強く続けること」が成果を生みます。

4. 正解のない問いへの「決断力」

実践者:ジャック・ウェルチ(元GE会長)
不十分な情報の中でリスクを取り、「こっちだ」と決めること。正解を選ぶのではなく、選んだ道を正解にする覚悟です。

【人間力】人を惹きつけ、組織を作る力

5. エゴを捨てる「謙虚さ」

提唱者:ジム・コリンズ(『ビジョナリー・カンパニー2』著者)
偉大なリーダーは驚くほど謙虚です。「成功は社員のおかげ、失敗は自分の責任」と考え、主語を「私」ではなく「私たち」で語ります。

6. 耳の痛い意見を聞く「素直さ」

提唱者:稲盛和夫(京セラ創業者)
「能力×熱意×考え方」の方程式で最も重要なのは「考え方」。その根幹は、自身の非を認め、苦言にも感謝できる素直な心です。

7. 信用を積み重ねる「誠実さ」

提唱者:渋沢栄一(日本資本主義の父)
目先の利益のために人を欺くことを恥とします。バカ正直なまでに約束を守り、「信用」こそが最大の資産であると知っています。

【感性・メンタル】変化に適応し、折れない力

8. 変化を面白がる「知的好奇心」

提唱者:ピーター・ドラッカー(マネジメントの父)
変化を「脅威」ではなく「機会」として子供のように面白がる。常に世の中に対してアンテナを張り続ける姿勢です。

9. 顧客になりきる「共感力」

実践者:ジェフ・ベゾス(Amazon創業者)
会議室に「空席(顧客の席)」を用意するように、自分のエゴではなく徹底して「顧客の痛み」に寄り添う感受性です。

10. 寝て忘れる「鈍感力」

提唱者:渡辺淳一(作家)
いちいち批判や失敗を気に病んでいては身が持ちません。「まあ、命までは取られない」と開き直れる図太さも重要な資質です。

1-1.診断結果との向き合い方

このスコアは「あなたの才能」を決めるものではなく、あくまで「現時点での思考のクセ」を可視化したものです。
低い項目があったとしても、それは「これから身につければよい技術」が明確になっただけのこと。
一喜一憂せず、この後の章で具体的な「技術」を学んでいきましょう。

成功し続ける経営者には、共通する特徴があります。詳しくは下記もご覧ください。

2. 「経営者に向いている」だけでは会社は潰れる

ここで一つ残酷な現実をお伝えしなければなりません。
どれほど崇高な「あり方(マインド)」を持っていても、それだけでは会社は潰れてしまうということです。

2-1.精神論では超えられない「3つの壁」

  • 「誠実でありたい」と願っても、「資金繰りの知識」がなければ約束を破ることになります。
  • 「社員を守りたい」と思っても、「利益を出す仕組み」がなければ給料は払えません。
  • 「決断力」があっても、正しい「戦略の基準」がなければ無謀な博打になります。

2-2.理想を現実にするのは「技術」

精神論だけで理想を演じ続けるのは苦しく、長続きしません。
「あり方」という土台の上に、それを具現化するためのドライな「技術」という柱があって初めて、盤石な経営が可能になります。

多くの人が躓くのは、人間力が足りないからではありません。「部分的なスキル」に終始し、経営全体を動かす「技術」が不足しているからです。

では、経営者が持つべき「技術」とは何でしょうか?
それは、マーケティングや会計といった個別のスキルではありません。

それらをパズルのように組み合わせ、会社全体を有機的に機能させる「ビジネスモデルを構築する力(全体最適)」のことです。

3. 【経営者の持つべき技術】「全体最適」で事業を設計するビジネスモデル構築力

小手先のテクニックではなく、経営そのものをビルディング(構築)していく技術。それがビジネスモデルの設計です。

3-1.「部分最適」の罠と「全体最適」の視点

多くの経営者は「営業を強くしよう」「いい商品を作ろう」と、特定のパーツ(部分)に固執しがちです。これが「部分最適の罠」です。

いくら営業が強くても、製造が追いつかなければクレームになります。逆に、最高の商品があっても、顧客に届くチャネルがなければ在庫の山になります。
経営者の仕事は、個々の業務を磨くこと以上に、それらが全体としてどう繋がり、利益を生むかという「仕組み(全体最適)」を作ることにあります。

3-2.経営をビルディングする「設計図」を持つ

ビルを建てるのに、設計図なしで柱を立て始める人はいません。しかし、経営となると多くの人が「とりあえず」で走り出してしまいます。

経営というビルディングを建てるためには、以下の流れを一貫したストーリーとして描く技術が必要です。

  • 誰に(顧客セグメント):誰の悩みを解決するのか?
  • 何を(価値提案):どのような価値を提供するのか?
  • どうやって(チャネル・関係性):どう届け、どう関係を築くのか?
  • どう儲けるか(収益の流れ):どこでお金をいただくのか?

3-3.フレームワークで「経営の全体像」を可視化する

この全体像を把握するためには、ビジネスモデル・キャンバスなどのフレームワークを活用するのが有効です。

9つの要素(顧客、価値、チャネル、関係、収益、リソース、活動、パートナー、コスト)を1枚の図に書き出し、それぞれの要素が矛盾なく繋がっているかを確認します。
この要素同士のつながりをデザインすることこそが、社長にしかできない「技術」なのです。

経営の全体像を把握する上で、「経営とは何か」その要素と構造を知っている必要があります。詳しくは下記をご覧ください。

まとめ:理想を目指し、技術を学ぶ「学習者」であれ

経営者に向いている人とは、最初から完璧な人格者でも、スーパーマンでもありません。

  • 偉人たちの「あり方」に憧れ、少しでも近づこうとする向上心を持つ人。
  • その理想を精神論で終わらせず、実現するための「技術(ビジネスモデル構築)」を学び、実践できる人。

この両輪を回し続けられる人こそが、真に「経営者に向いている人」なのです。

あなたは今、自分の不足を感じ、悩んでいます。それはあなたが「向いていない」からではありません。
あなたが「もっと良い経営者になりたい」と願う、本物の経営者だからです。

まずは今日、あなたの手帳を開く代わりに、白紙のノートを広げてください。
そして、自社のビジネスが「誰に」「何を」「どうやって」提供し、「どう儲けているか」、その全体像(ビジネスモデル)を書き出してみてください。
その小さな技術の実践が、あなたの経営者としての人生を大きく変えていくはずです。

黒田訓英

監修 / 黒田訓英

株式会社ビジネスバンク 取締役

早稲田大学 商学部 講師

経済産業大臣登録 中小企業診断士

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

日本証券アナリスト協会認定CMA

日本ディープラーニング協会認定 AIジェネラリスト/AIエンジニア

JDLA認定AIジェネラリスト/AIエンジニア

ライター / 保坂 太陽

株式会社ビジネスバンク プレジデントアカデミー編集部

株式会社ビジネスバンク
プレジデントアカデミー編集部

起業家インタビューEntrepreneur事業部 事業責任者

起業家インタビューEntrepreneur事業部
事業責任者

早稲田大学 商学部 井上達彦 研究室