この記事でわかること
・生産性向上を行うために企業がやるべき具体的なステップ
・残業時間の削減や週休3日制を実現した会社の特徴
・生産性向上を実現する時に重要な考え方
・生産性向上を実現する上で生まれる反発への対処方法
この記事は、ネットで言われている「一般論」に対して、組織マネジメントの専門家はどう考えるのか?をインタビューし、私たちがより実践しやすい具体的なアクションを聞き出す企画です。
今回のテーマは「生産性向上」(記事のアーカイブはこちら)。
前回、企業に生産性向上が求められている時代背景や、生産性向上に取り組む企業のメリットを伺っていきました。今回は生産性向上を実現するためのステップについて深掘りしていきます。
登場人物プロフィール
【インタビュアー】MEGUMI
とある女性向けのサービスを行なっている経営者。それなりの社員を抱える規模でビジネスをしているが、組織の人間関係のトラブルや、離職率の上昇など、組織マネジメントにはまだまだ課題のある状況。
今まで感覚的に行なっていたけれど、改めて、しっかりと学んだ方がいいのかも…と考えていた矢先に、この記事の企画をいただき、インタビュアーとして参加させていただきながら、組織マネジメントを学ばせていただくことになりました。
【専門家】嶋津良智先生
日本唯一の『上司学』コンサルタント。「『あなたのもとで働けてよかった』をすべてのリーダーへ」を理念に、中小企業のための、人づくり、組織づくりに特化をした、スクール形式では日本一のビジネススクール『リーダーズアカデミー』を経営。
- 一般社団法人日本リーダーズ学会 代表理事
- リーダーズアカデミー 学長
- 早稲田大学エクステンションセンター講師
- 他、経歴・著書多数
生産性向上を行うと、株主・社員・顧客の満足度をあげられると伺いました。実際に生産性向上をあげるためには、どのように進めていったら良いでしょうか?
生産性向上のためにやるべきことは3つに分類する
まずはどのような状態になったら「生産性向上を実現」したことになるのか、具体的なゴールを決めましょう。前回お伝えしたような、10人で100の仕事をやっていたのを、110の仕事ができるようにする、といったゴールです。
ゴールが具体的に見えると、現在とのギャップが見えてきますね。
ええ。次にそのゴールを達成するために、やるべきことは何なのか、「こと」の抽出を行います。
やるべきことがたくさん出てきたら、どのように整理したら良いでしょうか。
以下の3つに分類してください。
①社内でしかできないこと
②社内でもできるし、外部にも出せること
③社内ではできないこと
社内でしかできないことは、どの部署で、誰が担当してそれを実現すれば良いかを決めます。社内でもできるし、外部にも出せることの場合は、お金をかけてでも外部に依頼するのか、時間はかかっても社内でやるべきなのかを決める必要があります。社内でできないことは、外部の力を借りる必要があります。
外部に出す時のポイントはありますか?
社内でも、外部に出す場合でも、きちんと設計図を描くことが重要です。ゴールを共有し、何をしてほしいのか、何ができるのかを明らかにしてから取り組まなければ、その場しのぎになってしまったり、フェードアウトしてしまったりします。
最初にしっかり設計することが大切ですね。
もう1つ大事なのは、やると決めたからには、最後までやり切ること。そこにコミットするという姿勢です。現場のリーダーが生産性向上の取り組みに後ろ向きであれば、うまくいかないのは当たり前。新しいことを進めるときは、必ず抵抗勢力が現れます。それも前提にして、設計を行っておきましょう。
生産性向上の取り組みに後ろ向きな人が現れる、ということを先に想定しておくのですね。
抵抗勢力に対応するためにも、リーダーはしっかりと生産性向上のメリットを理解し、ゴールに向かってコミットしなければなりません。
特に中小企業などでは、1人でも反対すると大きな影響がありますよね。
ですから、現場任せにせず、社長も信念を持ってコミットする必要があります。10年ほど前、働き方改革の取っ掛かりとして残業時間の削減が叫ばれました。結果的にそれを実現できたのは、社長がトップダウンでしっかりと残業時間の削減にコミットした企業です。社長が強い意思を持って進めると、現場も「これは本気なんだ。じゃあ残業できない中でどうやって仕事を終わらせよう」と工夫が生まれ始めます。単に残業時間を削減しましょうと呼びかけるだけでは、企業は変わりません。
週休3日制を実現するためには
残業時間の削減では、「残業時間を減らすなら、仕事量も減らしてくれ」という反発が生まれた企業が多かったと思います。嶋津さんはご自身の会社で週休3日制を実現していますが、どのように進められたのでしょうか。
いきなり週休3日にすると言われたら、社員も困ってしまいますよね。ですから早い段階で、来期から週休3日制にするので、週休3日制でも同じパフォーマンスを出すにはどうしたら良いかを考え、報告してもらうようにしました。
設計図を描くところから始めたのですね。
そうです。「知らない・できないは言わない」という社内ルールがあり、そういった文化が根付いています。ですから、できないのではなく、どうやったらできるようになるのかを考えてもらいました。
具体的にはどのような案があがりましたか?
自分1人で今抱えている仕事全てをなんとかするのではなく、周囲を巻き込むということです。他部署でも、外部の方への外注でも、自分にない能力をいかに人から借りるか、また自分じゃなくてもできるようなことをいかに人にやってもらうようにするかが、生産性向上の鍵となります。
時間が減ったのに同じ仕事を1人でどうするんだと考えてしまいがちですが、1人ではなく、周囲を巻き込むことが重要なのですね。
人には1日24時間しかなく、時間は有限です。時間の使い方は2つしかなく、1つは、自分の時間を通して実現する。もう1つは、他人の時間を通して実現する。いかに周りの時間を使うことができるかによって成果のレバレッジが変わってきます。
仕事では、他人の時間を使うということに遠慮してしまう人も多いですよね。
人に迷惑をかけると思い込んでしまいがちですが、相手が迷惑だと言う前に自分で勝手に迷惑だと決めつけて、頼もうとしないのは余計な遠慮だと思います。それに、人に迷惑をかけないで生きている人間なんていません。迷惑をかけた分、恩を返していけば良い。そうすることで世の中は成り立っているのではないでしょうか。
周囲に頼る、その上で恩を返せば良いのですね。
なんでもやってくれと言うばかりの「くれくれ星人」になってしまうと、周囲の協力を得られにくくなってしまいます。自分が協力を依頼した時に気持ちよく依頼してもらえるように、普段から周りに対して「恩を送る」生き方や仕事の進め方をしておくことによって、それが後で自分のレバレッジとなって返ってくるわけです。ただ、全ての恩が返ってくると期待してはダメですよ。
生産性向上への反発にはどう対処する?
例えば、「残業時間を減らすと残業代が減るから、自分の収入が減ってしまう。会社が生産性向上しようがしまいが関係ない」という考えを持つ人もいると思います。そういった場合はどのように生産性向上のメリットを感じてもらったら良いでしょうか。
まず設計図を描く時に、そういった考えを持つ社員がいるかどうかリサーチをしておく必要があります。そして残念ながらそういった考え方がある場合、それも設計図に盛り込まなければいけません。例えば残業代が浮いた分は賞与原資として確保したり、評価システムを合わせて見直してパフォーマンスが高い人には給料のアップを検討したりしてみるといった方法があります。
確かにそれならモチベーションも上がりそうです。生産性向上を叶えることで、その社員のメリットを作らなければいけないですね。
企業にとっては少し出費があったとしても、生産性向上の取り組みが一向に始まらないより、一回やり始める方が長い目で見たときに良いと思います。やり始めれば、段々と納得や工夫も生まれていくものです。まずは生産性向上に向けて、一歩踏み出してみましょう。
この章のポイント
・生産性向上のためにやるべきことを3つに分類する
①社内でしかできないこと
②社内でもできるし、外部にも出せること
③社内ではできないこと
・現場のリーダーや社長が生産性向上にコミットする
・社内でできない場合、外部に委託する
・自分1人で全てをなんとかするのではなく、周囲を巻き込む
・周囲に協力してもらえるよう、自分も恩を送る仕事の仕方を行う
・残業代が浮いた分は賞与原資や給料アップに使うことで反発を防ぐ
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