この記事でわかること
・経営理念とは何か。ビジョンやバリューとの違いとは
・経営理念を設定する意味
・経営理念は途中で変えても良いのか
・経営理念を設定しないことで起こるデメリット
この記事は、ネットで言われている「一般論」に対して、組織マネジメントの専門家はどう考えるのか?をインタビューし、私たちがより実践しやすい具体的なアクションを聞き出す企画です。今回は「経営理念」がテーマ(記事のアーカイブはこちら)。
企業のHPを見ると「経営理念」が書かれていますが、近年ではミッション、バリュー、クレド、スローガンなど様々な言葉が飛び交っています。それぞれどのような意味を持っているのでしょうか。また経営理念を設定する意味とは?
登場人物プロフィール
【インタビュアー】MEGUMI
とある女性向けのサービスを行なっている経営者。それなりの社員を抱える規模でビジネスをしているが、組織の人間関係のトラブルや、離職率の上昇など、組織マネジメントにはまだまだ課題のある状況。
今まで感覚的に行なっていたけれど、改めて、しっかりと学んだ方がいいのかも…と考えていた矢先に、この記事の企画をいただき、インタビュアーとして参加させていただきながら、組織マネジメントを学ばせていただくことになりました。
【専門家】嶋津良智先生
日本唯一の『上司学』コンサルタント。「『あなたのもとで働けてよかった』をすべてのリーダーへ」を理念に、中小企業のための、人づくり、組織づくりに特化をした、スクール形式では日本一のビジネススクール『リーダーズアカデミー』を経営。
- 一般社団法人日本リーダーズ学会 代表理事
- リーダーズアカデミー 学長
- 早稲田大学エクステンションセンター講師
- 他、経歴・著書多数
今回は企業の根幹とも言える「経営理念」についてお伺いしていきたいと思います。
よろしくお願いします!
経営理念は会社の存在意義・存在目的
最近はミッション、バリュー、クレド、スローガンなどの言葉があって、何がどんな意味なのか分からなくなってしまいます。経営理念とはそもそもどういった意味なのか、教えてください。
社是、社訓、信条、モットー、スローガン、クレド、ウェイ、行動指針、ミッション、ビジョン、バリュー…僕が見つけただけでもこれだけあります。
すごい量です…。
これらの言葉の意味を整理していくと、大きく4つであることが分かります。1つ目は、企業が最終的に目指すもの。これが経営理念、ミッションと呼ばれるものです。2つ目が、一般的には中長期計画と呼ばれる3年ほどで達成する目標、ビジョンです。
経営理念・ミッションと、ビジョンの大きな違いは、ゴールがあるかどうかです。経営理念やミッションと言われるものは、その会社の存在意義・存在目的となります。その会社がなんのために社会に存在しているのかを示したものなので、その会社が存在し続ける限り追求していく。ゴールがないわけです。一方で、ビジョンというのは、「いつまでにどういう会社にする」というものですから、ゴールがある。これが一番の大きな違いです。
なるほど。
3つ目が、経営理念を追求するために必要な心構え。コアバリュー、社是、社訓、信条、モットー、スローガン、クレド、ウェイ、バリューなどと呼ばれます。そして4つ目が、経営理念を追求するために守るべき行動。コアコンピテンシー、行動規範、行動指針などと呼ばれます。これら4つを取りまとめて、企業理念と表現します。
下記全てをまとめて「企業理念」と呼ばれる
①経営理念・ミッション:会社の存在意義・存在目的
②ビジョン:3年ほどで達成するべき目標(長期ビジョンは除く)
③コアバリュー:経営理念を追求するために必要な「心構え」
④コアコンピテンシー・行動規範・行動指針:経営理念を追求するために守るべき行動
とても分かりやすく整理されました!
企業理念の必要性は会社の規模に比例する
経営理念を設定する意味というのはどういったところにあるのでしょうか?
会社に経営理念があるかどうか、あるアンケートによると、ある53%、ない43%、無回答3%でした。経営理念がある会社は意外にも半数ほどなんですよね。
「ある」と答えた会社がいつ作ったかっていうと、創業時40%、5年以内19%、10年以内12%、その他29%。創業5年以内に経営理念を作った会社が6割という結果でした。
会社にはみな経営理念があると思っていたので意外な結果です…!
会社の規模・売上と、理念のあるなしを分類するとちょっと景色が変わってきて、会社の規模が大きくなればなるほど、売上が増えれば増えるほど、やっぱり理念を必要とする会社が増えてくるんですね。理念の存在は必須ではないけど、どうやら業績と正比例するものだっていうことが分かってくる訳です。
なぜ業績と比例するのでしょう?
規模が小さい頃は、そもそも思いが共通するメンバーが集まっていますから、企業理念を設定して思いを統一しなくても、会社の軸がありますよね。でも会社の規模・売上が拡大すると、社内に様々な思いや価値観が生まれます。その中で、それぞれが自分の思いや考えだけで判断していってしまうと、会社がめちゃくちゃになっていってしまうんです。
担当者が変わった途端にやることも言っていることも変わってしまって、「それぞれの価値観なので!」と言われたら、部下もクライアントも混乱しますね。
そうですよね。理念って、辞書を引くと、「あるべき理想の姿を示したもの」と出てくるんですね。ということは企業理念ってなんなのかというと、「企業のあるべき理想の姿を示したもの」だと思います。要するに企業理念って、その企業にとっての軸なんですよね。例えば就業規則、職務権限規定、慶弔規定といった規定や規則、ルールは、その企業を円滑に運営していくための枠なんです。理念が軸、ルールは枠というイメージです。そういう意味では、企業理念というのは、一般社員から経営者に至るまで軸なわけですから、その会社にとっての最高意思決定基準なんですよね。
会社にとっての最高意思決定基準が、企業理念であると。
そうです。会社にとって何が正しくて、何が正しくないのか、その価値観を形成するものに繋がっているのが理念です。ですから、たまに経営理念が「顧客第一主義」の一言しかない企業がありますが、それだと会社の軸にはなり得ないですよね。そういった観点から経営理念を作ることが重要です。
経営理念は途中で変えてもいい?
経営理念を創業時に作ったら変えてはいけないと思っている人が多いのですが、それは間違いです。
えっ?そうなんですか?会社の軸ということは、ブレちゃいけないのかと思っていました。
理念というのは会社の存在意義・存在目的を示したものですから、社会の中でのその企業の存在意義・存在目的が変わったら、理念は変えていかなければいけません。
確かに。でもそんな企業が本当にあるのでしょうか?
ありますよ。皆さんもよくご存じのMeta(旧Facebook)社は経営理念(ミッション)を変更しています。創業当初は「世界をオープンにし、つなぐ」だったのが、今は「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現します」に変更されています。なぜかというと、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、当初は、人々が繋がるのを助け、意見を表明する場所を提供すれば、世界は自然と良くなると思っていたと。でも、社会はいまだに分断されている。我々にはやるべきことがもっとあるはずだと確信するようになったと語っています。つまりMeta(Facebook)という会社が、社会での存在意義、存在目的が変わったので、理念を変えたということです。
理念が変わったことを考えると、FacebookがMetaになり、メタバースに着手したことも納得できますね。
経営理念のない会社のデメリット
経営理念が会社にないと、どのようなデメリットがありますか?
経営が意思決定で迷う。上司が部下の指導で迷う。上司が意思決定で迷うと部下のストレスになる…といったデメリットが考えられます。
悪循環ですね。
経営の基本である、優先順位の高いことにいかに多くの時間をかけられるかという「タイムマネジメント」や「選択と集中」が、なかなか成立しなくなりますよね。何をやるべきか、意思決定の軸がない訳ですから。社員も会社の存在意義・存在目的がわからないままなんとなく働くことになってしまうので、社内での意思統一ができず、本来の力を発揮しにくくなります。社員は自律的に行動しにくく、自律型組織形成がうまくいきません。そして会社が厳しい状態になった時に立ち戻れる場所がないので、より厳しい状況になりやすくなってしまいます。
社外に対してはどうでしょうか?
理念がないと、この会社がどうなっていくのか、何を成し遂げようとしているのかをなかなか理解してもらえないですよね。そうすると支援や応援がされづらい会社になってしまいます。
経営理念、企業理念の重要性がとても分かりました。次回は、経営理念の作り方についてお伺いしていきます。
この章のポイント
・①経営理念・ミッション:会社の存在意義・存在目的
・②ビジョン:3年ほどで達成するべき目標
・③コアバリュー:経営理念を追求するために必要な心構え
・④コアコンピテンシー・行動規範・行動指針:経営理念を追求するために守るべき行動
・全てをまとめて企業理念と呼ばれる
・会社の規模・売上に比例して経営理念の必要性が高まる
・企業理念は会社にとっての最高意思決定基準
・社会での存在意義、存在目的が変わった場合、企業理念を変える必要がある
・経営理念がないと、自律型組織形成が上手くいかない
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