この記事でわかること
・経営理念を本当に社員が理解するためにやるべきこと
・経営理念を覚え、行動に起こし続けてもらうためには
・いきなり全社員に覚えてもらわなくても良い?経営理念を浸透させる時の考え方

この記事は、ネットで言われている「一般論」に対して、組織マネジメントの専門家はどう考えるのか?をインタビューし、私たちがより実践しやすい具体的なアクションを聞き出す企画です。今回は「経営理念」の3回目となります。(記事のアーカイブはこちら)。 

前回は経営理念を作る時に気をつけるべきポイントについて伺っていきました。経営理念は作るだけでなく、いかにステークホルダーに浸透するかも重要です。今回は「経営理念を浸透させるためには?」をテーマにお話を伺っていきます。

登場人物プロフィール

【インタビュアー】MEGUMI

とある女性向けのサービスを行なっている経営者。それなりの社員を抱える規模でビジネスをしているが、組織の人間関係のトラブルや、離職率の上昇など、組織マネジメントにはまだまだ課題のある状況。

今まで感覚的に行なっていたけれど、改めて、しっかりと学んだ方がいいのかも…と考えていた矢先に、この記事の企画をいただき、インタビュアーとして参加させていただきながら、組織マネジメントを学ばせていただくことになりました。

【専門家】嶋津良智先生

日本唯一の『上司学』コンサルタント。「『あなたのもとで働けてよかった』をすべてのリーダーへ」を理念に、中小企業のための、人づくり、組織づくりに特化をした、スクール形式では日本一のビジネススクール『リーダーズアカデミー』を経営。

  • 一般社団法人日本リーダーズ学会 代表理事
  • リーダーズアカデミー 学長
  • 早稲田大学エクステンションセンター講師
  • 他、経歴・著書多数

<プロフィールはこちら>

よく、経営理念がオフィスに掲げられていたり、クレドカードが配られたりしますが、なかなか本当の意味で社内外に浸透しているかというと、浸透しきれていない企業も多いのではないかと思います。

そうですね。まずは社内への浸透の仕方について考えてみましょう。

経営理念を本当に社員が理解するためには?

私はよく、企業理念を社内で共有・浸透させるキーワードとして「湯戻し解凍作業」をするようにお伝えしています。

湯戻し解凍作業?それはどういった意味でしょうか?

まず、最初に、自社の理念について社長・リーダー自らが、なぜその理念が当社に必要なのか、その理念を徹底していくことでどのような効果、影響が会社にもたらされるのか、具体的にはどのような行動を期待しているのかを説明していきます。自分の言葉でわかりやすく、事例などを挙げながら。

経営理念を定めたリーダー自らが言葉の意味を紐解く、湯戻しですね。

そうです。次にその説明を経て、社員が本当に理解したかどうかを確認する作業が必要になってきます。社員が各自どこまで咀嚼して理解を深めているのかを確認するために、今度は社員が自分の言葉で理念について、理念の必要性を語ってもらいます。これが解凍作業です。

具体的にはどのように進めたら良いでしょうか?

例えば紙に、理念・ビジョン・バリューを書いて並べて、それぞれが会社にとってなぜ必要なのか、そこから自分はどのような行動をすると理念の追求に繋がるのかを書いていってもらいます。その後、他のメンバーとも共有していき、ベクトルを合わせていくと良いでしょう。

理念について理解しているつもりでいても、自分の言葉で言語化するのはなかなか難しそうです。

そうですよね。本当の意味で理解し、行動に落とし込めている人は少ないんですよ。これは私の知り合いの話なのですが、ある居酒屋で元気すぎるくらいに大きな声で挨拶をしていて、会計のレジを担当していたのがたまたま店長だったので、なぜ大きな声で挨拶をするのか聞いたらしいんです。そしたら、店長は何て答えたと思いますか?

挨拶が基本だと思っているから、でしょうか。

「上からやれって言われているもんで」って言ったらしいんですよ。要するに、大きな声で挨拶をしなければならないことは知っていた。できてもいる。でも理解していなかったということですね。

行動ができていても、理解できずに行動しているのでは、経営理念を追求できているとは言えないですね。

そうですよね。ですから、理念をまず理解してもらうことが重要なんです。

でもどんなにリーダーが理念を熱弁しても、退屈に思って聞き流されてしまうのではないかと不安です。どうしたら良いでしょうか?

そういう人にこそ、自分の口で語らせるのが一番ですよね。自分から考えて話すようにしてもらえれば、否が応でも刷り込まれていきますから。

なるほど。自発的にしっかりと語ってもらうための工夫はありますか?

1つ私がおすすめしているやり方をご紹介しましょう。

まずリーダーが事前に社員に向けて、理念を説明した後に、①理念についてわかったこと、②理念について知りたいこと、③理念の実現に向けて自分ができること、④社員として社長に知っておいてほしいと思うことをアウトプットしてほしいと伝えます。その上で、理念についての説明を行う。

説明が終わったら、社員の中でファシリテーター役を指名し、リーダーは退出します。

残った社員たちは、ファシリテーターを中心に、事前に設定した4つのことに対して、付箋などで整理をしていきます。終わったらリーダーが再度入室し、議論の内容をファシリテーターから聞きます。そして付箋に貼られている質問に答えたり、改めて説明を加えたりする。こういった社員とのコミュニケーションを定期的にやっていくと、理解を促進していくことができます。

リーダーが一度退出するのは、社員に気兼ねなく喋ってもらうためでしょうか?

その通りです。本音ベースで社員とコミュニケーションできるように工夫してください。

理解した理念を覚え続けてもらうために

理念についての咀嚼ができたら、その後は理念の定着を目的に、理念について触れる・考える機会を増やしていきます。1日に1回程度、朝礼や定例MTGなどの場で、理念を実現するために行った前日の行動を振り返ります。これは些細なことでも構いません。とにかく理念の実現について考える機会を継続的に持ち続けることが重要です。

なるほど。半期に1回のキックオフで理念の実現について考える企業はある程度存在するかもしれませんが、毎日振り返っている企業は少ないでしょうね。継続的にやることで、理念の実現のための仕事なんだと強く認識できそうです。

はい。その中で素晴らしい行動を起こした人がいれば、ベストプラクティスだったり、理念賞のようなものだったりで、表彰して社内でシェアしていくことも効果的です。

100%の浸透をいきなり目指さなくても良い

「経営理念を浸透させる」って一言で言っても、やるべきことはたくさんあるし、本当に全社員に理解して行動に移してもらうのは難易度の高いことなのですね。

そうですね。でも、いきなり全員に浸透させようと思う必要はありません。経営者は群集心理・集団心理を使うのも大事なコツです。例えば、普段野球観戦なんてしないのに、友達に誘われて試合に行ってみたら、観客と一緒にわーっと盛り上がったりしませんか?

ありますね!普段は仮装なんてしないのに、ハロウィンになると仮装したくなったり。

それと同じで、企業では「262」と言われます。2割は、周囲の環境に左右されず、やるべきことを淡々とやる。6割は、上司や会社の制度など環境に左右される。最後の2割は、どんな上司でも、どんな環境でも上手くいかない。最初に上手く群衆を作れれば、6割の人はそこに引っ張られてきてくれますから、まずは3〜4割程度の浸透を目指せば良いんです。

そう言われると、自分でもできる気がしてきました。ありがとうございます!次回は実際の企業の具体的な経営理念を見ていきながら、お話を伺っていきたいと思います。

この章のポイント
・経営理念や企業理念を社内で共有・浸透させるキーワードは「湯戻し解凍作業」
・社員に自分の言葉で理念や、その必要性を語ってもらう
・理念について触れる・考える機会を定期的に増やす
・理念を実現する行動を起こした社員は表彰し、社内でシェアする
・まずは3〜4割の社員に浸透させ、集団心理を利用して広げていく

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