日本以上の学歴社会、教育格差
e-Education Project / 税所篤快
教師不足という問題があった為です。第1回目のGCMPで他のインターン生たちと一緒に村の子供達に教育面での問題をインタビューした際、どの学校でも 「教師が不足している」という事がわかったんです。更に調査を進めると、国全体で見るとなんと教師が4万人も足りない事がわかりました。しかも英語の先生 なのに英語が話せない・理科の先生なのに理科の事がよくわかっていない先生がいて、クオリティの面での問題も浮き彫りになっていったんです。
この問題を解決する為にはどうすれば良いだろうか。そんな時に僕の予備校での経験が頭をよぎったんです。「東進ハイスクールのDVD授業のモデルを使え ば、シンプルに問題解決へアプローチできるかもしれない」と直感的に思ったんです。「アジアの最貧国でe-ラーニングの授業なんて無理じゃない?」とチー ムの仲間達は僕の意見には懐疑的でしたが、僕の中では明確にe-ラーニングがバングラデシュの学校教育で普及している映像が流れていたんです。これが 2009年の8月頃の事ですね。
GCMP終了後、理科室の無い学校と東京学芸大学の理科室をSkypeを使って繋げるという実験プロジェクトを行いました。実験を体験した事のない現地の子供達は大喜びして、グラミンでも高評価を頂けたんです。そして九大教授でグラミンGCCのディレクターのアシル先生に「e-ラーニングのプロジェクトを立ち上げたい!」と打診して、グラミンGCC内で発足したのが『e-Education』なんです。
ありがとうございます(笑)。プロジェクトのビジネス的展開を模索していたある日、予備校街のファームゲートという地域に向かいました。そこでは日本の御 茶ノ水ように国の大手予備校がズラッと並んでいたんです。更に調べてみると国内の一流大学合格者の9割が予備校出身でした。アジアの最貧国であるにもかか わらず予備校が存在し、大規模なビジネスを行っているのには本当に驚きましたね。学歴社会が存在し、教育熱が高いという点ではバングラデシュも日本と同じ だったんです。
一流大学合格者の9割が予備校出身という事は、貧富の差による教育格差は日本以上という事なんです。高校教育と予備校教育のレベルが違いすぎる事が一目 瞭然のデータじゃないかと。言い換えれば、バングラデシュでは予備校に通わないと大学に入学がすごく難しい。しかも、予備校にかかる費用はおよそ3〜4万 タカなのに対し、バングラデシュの農村部の平均月収はおよそ5000タカなので、年収に匹敵する額を用意しないと子供を予備校に通わせられない。そこで 「バングラデシュの中間層以下の子供達は、いくら成績が良くても予備校という壁によって大学進学へアプローチできていないんじゃないか」という仮説が浮か び上がりました。
そうですね。e-ラーニング を導入すれば、大手予備校と同じクオリティのものを安く提供でき、現状の問題を打破できると考えました。最初の思い付きがデータ収集により検証されてい き、実現にどんどん近づいていきましたね。その時期に現在のビジネスパートナーでもあるダッカ大学のマヒンという男と出会い、村出身の彼がこの提案に賛同 してくれた事も大きな後押しになりました。
トップクオリティの先生を集めないと始まらないので、予備校で有名な名物先生を訪ね実際に授業を受けて確かめてみました。予備校側の指導の流出という問題 もあるので授業を受ける際には「日本の大学のレポートの資料作成の為です」と嘘をつきましたけどね(笑)。最終的に講師をお願いする際には本当の事を言わ なければなりませんでしたが、案外話が通じたんです。元々「日本の学生が頑張っている」という事で親密度が高く、現地の先生もバングラデシュの教育格差に 対する現状の問題意識がかなり高かった事。これが協力して頂く上で大きかったと思います。
村の人達が誰も映像授業を信じなかった事です。現地初の試みだった上に、パソコンですら認知度が低いので当然といえば当然ですよね。最終的には強引に見せ るしかありませんでしたが、その映像が有名な先生の授業だったので、皆一気に態度を改めて、DVD授業にとびつきました。その意味でもいち早く現物を取る 事が優先事項だったんですね。
また、村の子供達は貧しさ故に村から出た事もない為、自分が大学に通っている姿をイメージできないんですよ。だからモチベーションも上がらない。そんな子達に大学の意義を見出してもらう為に、バスに乗せて大学に連れて行った事もあります。
映像授業の先生や学生に直接会わせる事によって、今までとは違う視点が生まれモチベーションの上昇に繋がったんだと思います。