起業するということが、君という人間をいい人間にはしない
株式会社カラメルカラム 代表取締役 / 大野真樹・白川龍
18歳からずっとバンド活動しながらフリーターをやってて、回転寿司とか、漫画喫茶の副店長とか、今はないけどカメラの現像屋さんとか、いろいろなバイトをしていました。それまでは家の周りの近いところで働いていたんですけど、20歳のときにちょっと遠くで働いてみようと思って、新宿で働き始めたんです。ゲームのデバッグ専門の派遣業者に登録して、そこでたまたまいい常駐先に巡り合って、4年間そこで、ガラケーのアプリのデバッカーをしていました。だから、きっかけは派遣業者を見つけた、フロムエーです(笑)。
ゲームはもちろん好きでしたね。ちょうどデバッカーのころが一人暮らししていて、親から何も言われない状態で、アホのようにゲームをやってた時期でした。今はそんなことできないですけど、24時間ぶっ続けで三国無双とかやってましたよ。だから、ゲームは好きではありました。
割と驚かれますが、うちは家庭としてはゲーム禁止でした。ちょうどスーパーファミコンの全盛期で、クラスのほぼ全員がスーパーファミコンもファミコンも持ってる中で育ったんだけど、うちは、「友達の家に行ってやるのはいいけど、おもちゃとしてゲームは買い与えない」という方針だったんです。
高校生になると、友達から機体ごとプレステを借りてきて、家で隠れてやったりしていました。そのころちょうど、スーパーファミコンとプレイステーションが切り替わるくらいの頃で、プレイステーションの初期は結構悪ふざけみたいなゲームがいっぱいあったんですよ。挑戦的なっていうか実験的なっていうか。その黎明期の、いい歳した大人たちが真面目にバカなものを作っているみたいなムーブメントにはものすごく影響を受けました。
やっぱり悪ふざけをしないと、新しい分野は開拓できません。もちろん、ドラクエやFF、格闘ゲームだったらストリートファイターみたいに売れるフォーマットっていうのはだんだん出来てくるじゃないですか。売ろうと思ったら、ある程度フォーマットに当てはめて、無難なものを出すのは、ゲームに限らず当たり前だとは思うんです。
ただ、僕の中では、何かを作ったり、何かを考えたりするときは、それが今ないものであって、それをユーザーに届けたときに「うわぁ、いい大人がバカなことをやってらぁ」と思われることに価値があります。これが、ゲームから学んだことだと思います。
基本的にはいいことですが、「本当は俺、好きじゃなかったんだ」って気付いちゃう危険性があるってことをちゃんと分かった上で仕事にするほうがいいと思います。僕は、ゲーム業界に入って、自分がゲーム好きじゃなかったことに気付きましたからね。周りが、格が違うくらいゲームが好きなんですよ。だから相対的に、ライトユーザーだなって気付いちゃう。だけどそう気付いても、僕は音楽とか別の方向からも攻められる人間だったから、そんなにショックではありませんでした。
ただ、本当にゲームが大好きで、ゲームしかしなくて、唯一の趣味はゲームで、24時間ゲームのことを考えている人がゲーム業界に入ってきて、自分よりゲームに詳しい人がゴロゴロいるような中に入ったときに、自分のアイデンティティーが崩壊しちゃうと思うんですよ。それに耐えられると思ってるんだったら、好きなことを仕事にしてもいいと思います。
自分の中のアイデンティティーの保険をもう一個作っておいたほうがいいと思います。別にそれは趣味じゃなくて、家庭でもいい。お嫁さんと子供がいれば、いくらアイデンティティーが崩壊しても、辞めたいと思っても、食わさなきゃいけないからどうにか頑張るでしょう。趣味だったら、ゲームも好きだけど、小説もすげぇ好きっていう保険があれば、ゲームに否定されたときに、小説をゲームにアプローチさせる戦い方ができると思うんだよね。1本しかアイデンティティーしかない人間っていうのは、それがものすごく強かったら最強なんだけど、壊れた瞬間に戦い方が分からなくなる。だから、もう一個くらい軸を持っておいたほうがいいですよ。
それと、これは個人的な考え方だけど、僕はゲームばっかりやっていて、ゲーム業界で働きたい人を信用してないんですよ。だって、本当にゲームが好きだったら、ゲームに関わるいろんなものに興味を持つと思うんです。例えば、原作があるゲームだったら、小説だって絶対読むだろうし、ゲームで流れている音楽のコンポーザーから、その人のゲームサントラ以外の作品も調べるだろうし。知識を本当に広げる気があるんだったら、ゲームを元にして既に他に軸があるはずです。