絶望から成長は始まる
株式会社CyberZ 代表取締役社長・株式会社サイバーエージェント取締役 / 山内隆裕
はい、その両極端の感覚を持ちながらも、いつも平常心を保たなければなりません。どちらに行き過ぎてもダメです。冷静すぎると何もやらなくなってしまうし、逆に大胆すぎるとすぐに失敗してしまいます。だから、この二つのバランスが重要だと思います。
2010年の年末、「倒産を目の前にした」ことがきっかけです。現在代表を務めるCyberZは、当時フィーチャーフォンの広告事業を行っていたのですが、その事業がうまくいかず倒産しかけたことがありました。その時私は、人生のどん底まで落ちた気分で、「もし倒産してしまったら、社員たちにどう説明すればいいのか。」「社長をやりたいと手を挙げて、せっかくチャンスをもらったのに、それを生かすことができなかった。」「何で俺はこんなことをやっているのだろう?」と鬱々としていました。
しかしその時、自分がこの事業を始めた原点は「会社をNO.1にするため」だったということを思い出したのです。それにも関わらず今の自分は、会社を潰さないために、赤字を黒字にするために経営をしていました。それに気づいた時、「どうせやるのだったらチャレンジしよう」と心に決めました。そして、親会社から融資を取り付け、「3ヶ月で結果が出なかったら会社をたたむ」と覚悟を決めました。その後、フィーチャーフォンの広告事業からスマホの広告事業へと業態変更し、市場NO.1まで登りつめることができました。
その時の経験から、自分の中でバランスをとる「軸」が作られたと感じています。「冷静さ」と「大胆さ」のバランスをとることができるようになったのです。
起業をするのが一番いいのではないでしょうか。社長業は「逆境の境地」だと私は思っています。全ての責任を負い、後ろ盾の無い場所で、清濁併せ呑んで経営する。そういった仕事をしてこそ、人は磨かれ、成長するのではないでしょうか。
最近はネット上で「起業の仕方」といった内容の記事がありますが、そのようなものは一個も当たっていません。起業というのは、ネット上で学べるような理路整然としたものではなくて、生き残りをかけたサバイバルなのです。それを何かで学ぶというのは無理があります。もし起業をしない場合でも、目の前の仕事に責任感をもって取組み、決断経験を増やしていくことが重要だと思います。
「相手の立場に立って考える」ということ、それが全てですね。コミュニケーションというのは、話し手ではなく受け手が成立させるものです。だから、とにかく相手の気持ちになって考える必要があると思います。社員に対してデリカシーの無い人間が、ユーザーに対していいサービスが作れるわけがないからです。また、「相手の立場に立つ」というのは、ただ相手に優しくするだけではなく、時にはあえて厳しくするというのも大事なことです。仕事でそれができる人というのは、間違いなくトップになれる資質を持ち合わせていると思います。
「獅子の子落とし」という言い伝えがあります。獅子は我が子を崖から落とし、這い上がることが出来た強い子だけを育てるというものです。
学生の皆さんには、逆境や絶望からも、這い上がることのできる強さを持った存在になって欲しいです。ビジネスにおいて、リスクを負わずしてリターンを得ることはできません。崖から落ちるかもしれないという大きなリスクを負い、それでも「自分ならできる」と高い志を持って、何事にも本気で取り組み、垂直成長を志していただきたいです。