クリエイティブを流通させる
株式会社ロフトワーク 代表取締役 / 諏訪光洋
今、ロフトワークには約100人のメンバー がいます。この中にいわゆる「デザイナー」「クリエイター」はほとんどいません。ロフトワークのミッションは設立時から変わらず「クリエイティブの流通」です。だからクリエイティブは外にあるべきで、中にはその流通の「仕組み」が必要です。 その仕組みのひとつは 「プロジェクトマネジメント」です。
起業して最初の頃、クリエイティブを流通させるために、クラウドソーシング的なWebサービスをつくり提供しました。ですが、企業とクリエイターがオンラインでチャットしていると喧嘩ばかりが起こりプロジェクトがうまく進まなかった。「なぜうまくいかないんだろう?」と考えたとき、企業とクリエイターを媒介する 「プロジェクトマネジメント」が足りていない事がひとつだということが分かりました。
今でこそクリエイティブとプロジェクトマネジメントは密接な関係が当たり前に考えられていますが、2000年初期の頃はそこに気づいている人はほとんどいませんでした。多くのクリエイティブ企業は内製による「根性」「徹夜」でクリエイティブがつくられていました。僕らは内部にいないオープンなコミュニティにクリエイティビティを依存する構造をつくったからこそ、そこにマネジメントが必要である事に気付いたのです。それがその後他の制作会社よりいち早く巨大なプロジェクト、例えば10万ページのサイトリニューアル、というプロジェクトをデザインし、マネジメントできる力をつくるベースになりました。
社会全体として、どの分野においても「クリエイティブ」を重視するような動きになってきていると感じています。他にも大学で言えば、スタンフォード大学に「d.school」というデザインスクールができるなど、理系・文系に関わらず様々な分野において「どうクリエイティブを取り入れていくか」に注力するようになってきていると思います。設立からデザインやクリエイティブの要素を取り入れていたSFCは本当にすごい学部だと思います。一方で僕は経営もしていますが、経営もまた「デザイン」だと思っていますしどの企業にとっても今やビジネスの戦略にはクリエイティブが欠かせません。例えば今オフィスを増床していますが、そこをどんな空間にするか。機能やサービスとしてどう外部のエンジニアやクリエイターとの接点をつくるかがロフトワークのビジネス戦略のデザインになっている。すごく面白い時代になっていると思いますし、デザインする能力は今でもさまざま役に立っています。
今の学生は礼儀正しいし、きちんとしているし、意識も高く素晴らしいと思います。ただちょっと「いい子」が多すぎでもう少し変人や野心家がいても良いのではないかな、とも思います。大きなビジョンや夢を持つ。それを自分が実現してみると信じる。「世界中の子供が使うポストレゴなオモチャと企業をつくる」とか「飛行船を2万機もって世界の流通を変える」とか大きな夢を語るのは照れくさいと思うかもしれませんが、実現できるのは大概は目標の1/50くらい。だから大風呂敷をもうちょっとひこうよと思います。 いつの時代でも大きな夢を持って語れる変人・野心家に異性も人もついていくものです。世界を変える、そういう気持ちを持ってワクワクしながらチャレンジしつづける。そういう環境を選び、つくる。そういう意味では起業は一番ダイナミックな道です。選択肢には持っていていいと思いますよ。