5年で独立する
株式会社ネクスト / 井上高志
変えたい世界があって、解決策としてビジネスモデルがあります。そして最後に手段を探します。 私にとって、変えたい世界とは、「不動産業界における情報の非対称性」でした。これを解消して嘘やごかましのない業界にしたい。誰もに選択の自由がある状態で、人生で一番高い買い物である「住まい」を満足して買っていただける世界を作りたい。その為に、必要なのは情報量豊富なデータベースでした。次に必要だったのは、新鮮な情報が全国津々浦々から集まるネットワーク。そして、そのネットワークで集まった情報が格納されたデータベースをお客さまが見られるメディアが必要です。
つまり、「データーベース」「ネットワーク」「メディア」。この三本軸を絶対構築するというコンセプトを掲げました。
私は1995年に独立してネクストの前身の個人会社をつくり、9月にHOME’Sの原型のWEBサイトを開設しました。ウィンドウズ95が出たのはその年の11月、yahooは翌年96年に日本に登場しましたので、当時は世界でもWEBサイトは少なく、日本語のものはほとんどありませんでした。検索してヒットすると言ったら、アメリカのホワイトハウスなど数える程しかなかったんですよ。
独立前、私はインターネットの存在を知りませんでした。海外の事案など調べながら、国内で何が使えるか考えました。出た答えは、ケーブルTVを使うか、衛星通信を使うか、専用線を使うぐらいしか無かったんです。私が目指すものを実現するには、初期投資は少なくとも100億円かかるなと感じました。26歳の若者が100億なんていきなり作れないじゃないですか。しかし、ビジネスモデルもコンセプトも正しいと確信していましたので、なんとかしてデータベースとネットワークとメディアのパズルのピースをはめようと、無我夢中でした。そして「インターネット」の存在を知ったんです。その時、これだ〜〜!!と思いました。コストを100分の1、いや、1000分の1に抑える事ができる! そこからすべてが始まりました。
HOME’Sの営業活動の対象は街の不動産会社で、年配でアナログな方が多かったんです。 ですから、営業をする前段階でインターネットの事を説明しなければいけません。インターネットとは〜〜で、といった調子で話しますと2〜3時間かかります。結局、分かったのか、分からないのかよく分からない感じになってしまうんですね。インターネットの説明をした後、「社長・・・、そろそろうちのHOME’Sの商品説明をしても宜しいでしょうか?」って感じで始まるんです。(笑) 「いくらするの?」「物件情報を載せ放題で月1万5千円です。」「載せ放題なの?100件でも200件でも〜〜?」「はい、1,000件でも2,000件でもです。」こんな会話が繰り広げられ、最終的には「そんなに安いならもっと早く言えよ〜。」と落ち着きます。
ベンチャーというのは、世の中に無いまったく新しい市場を切り拓いて、まだ誰も知らない商品やサービスをつくりますよね。ですから、説明するだけでも一苦労なんです。新しい価値を伝えるエバンジェリスト(伝道師)として根気よく語っていかなければならない。それが大変ですよね。
起業したばかりの頃はやることが山のようにあるんです。ですから私はだいたい毎日20時間働いていました。サイトの更新、営業など、すべてひとりでやっていると、気づいたら朝になってしまうんですね。でも手を抜くわけにいかないんです、止められないんです。ですから休みもないですし、お給料もありませんでした。給料なんてとったらすぐ赤字になっちゃいますからね。食事の時間すら惜しいので。食べながら仕事が出来るメロンパンが私の主食でした。くわえたままキーボードをたたき、最後に牛乳でガッと流し込めばご飯の時間なんて1分なんです。そのペースの1日20時間労働を1年間休む事無く続け、仕事に打ち込みました。