レールを外れる勇気を持とう!
グリンバード新宿 代表 / 乙武 洋匡
まずは、集客方法ですね。「グリンバード新宿」は多世代交流を目的としているので、なかなかターゲットを絞りづらいんです。たとえば、若者であれば、TwitterやFacebookなどのSNSを通して参加を呼びかけるのが最も効果的ですが、それだけだと高齢者は呼び込めません。そこで、町会にお願いして掲示板にポスターを貼らせていただいたり、地域で行われている行事などに積極的に顔を出して参加を呼びかけたりするなど、アナログな手法が必要になってきました。対象者が広範囲に及ぶ分、労力が二倍かかってしまうんですよね。
あとは、やはり資金面。これだけのことをしようと思うと、どうしても運営費がかかってきてしまいます。いまは私の持ち出しで行っていますが、持続可能な活動となるよう、いずれ企業からのスポンサードを募るなど、解決を図っていけたらと考えています。
しかし、苦労と言っても、楽しみながらやっていれば、そこまでしんどさを感じることはありません。「代表だと運営が大変そうですね」という言葉をいただくこともありますが、活動を続けていくうち、趣旨に賛同する仲間が集まり、運営を手伝ってくれるようになってきたんですよ。そうしたよろこびのほうが圧倒的に勝っていますね。
たくさんありますよ。たとえば、大久保地域の清掃で、地元の方々と話をする。「このあたりはアジアの方々も多く、個性豊かな地域ですよね」と言っても、あまりいい表情をしない。よくよく話を聞いてみると、「ゴミ出しや深夜の騒音など、生活上のルールを守ってくれない方が多く困っている」といった事情を抱えていたりするんです。
また、戸山公園のごみ拾いをしていたときには、すれ違った年配の女性が「今度はうちの草むしりもしてくれないかしら」なんて。それは冗談めかして言われた言葉ではあったんですが、たしかに高齢者にとって草むしりはしんどいこと。僕らには、ごみ拾い以外にも貢献できることがあるかもしれないと気づかされました。やはり地域と関わり、地域の人々と会話をすると、「まちが抱える課題」に気づかされることが多いですね。
じつは、「書く」ことに関しては、子供の頃から大の苦手だったんです。読書感想文だって、あとがきを丸写しするようなタイプ(笑)。ところが、大学2年生のとき、出版社から「本を書かないか」と声をかけていただいた。はじめは「無理です」とお断りしていたけれど、最終的には「障害者のなかにも幸せに生きている人間もいる」というメッセージを伝えたい気持ちが上回り、苦手な文章を書くことを決断しました。そのときに私が心がけたのが、「リズム」。大学受験のとき、現代文の小難しい文章をたくさん読まされますよね。ああした文章を読むたび、不可解な思いを抱いていたんですよ。「伝えたいメッセージがあるのなら、筆者はなぜもっとわかりやすく書かないのだろう」と。だから、文章に自信のない私は、とにかくわかりやすい言葉で、リズムのいい文章で書き進めようと意識していたんです。
ただ、「話す」ことに関しては、子供の頃から得意だったんです。とくに緊張もしなかった。よく「どうしたら緊張せずに話せるようになりますか」と聞かれるんですが、こればっかりはよくわからない。でもね、私は緊張してもいいと思っているんです。大切なのは、「何を伝えたいのか」。たとえば、いくら立て板に水が如くスラスラ話せても、何を伝えたいのかよくわからない人もいる。そうかと思うと、あきらかに緊張しているし、たどたどしいんだけど、話しぶりが誠実で、伝えたいメッセージがしっかりと感じられる人もいる。この二人だったら、やはり後者のほうが「話せている」と思うんです。小手先のテクニックを磨くよりも、まずは「何を伝えたいのか」を明確に持つこと。 この「リズム」と「メッセージ」を意識するだけでも、これまでよりは自分の思いを伝えられるようになるのではないかと思います。
一年ごとに、とてもメリハリのある学生生活を送れたように思います。一年生のときは、サークルで出会った友人たちととにかく遊び倒した(笑)。あの一年間の思い出というのは、いまでも自分の支えになっているように思います。二年生のときは、早稲田大学の周辺にある商店会の方々とまちづくり活動。リサイクルやバリアフリー、地域教育というテーマから地域と関わる経験をしました。講演活動を本格的に始めたのも、この頃ですね。三年生のときには、初めての著作となる『五体不満足』を執筆、秋には出版されました。そして、四年生のときには、TBS系『ニュースの森』という夕方のニュース番組で、サブキャスターを」務めさせていただいた。学生という立場で、深く報道と関わることができたのは、本当にいい経験でした。
このように、一年ごとにステージが変わっていったのですが、どちらかと言うと、みずから計画的に進んでいったというよりは、与えていただいたチャンスに対して全力で取り組んでいった結果、という気がします。
とにかくアンテナを張っておくことが大事かなと。「ちょっとでも興味のある人には会いに行く」「行ってみたい場所には足を運んでみる」「読んでみたいと思った本はすぐに読んでみる」――常にアンテナを張って、自分がしたいと思ったことをすぐに行動に移していく。これが、やりたいことを見つける一番の近道だと思います。しかし、この一歩さえ踏み出せないという人も多くいるのが現実です。「やっぱり自分には向いていないんじゃないか」「失敗したらどうしよう」といった不安が先立って、なかなか動き出せずにいるのかな。