シリコンバレーを知らずして起業するべからず
学習院大学経済学部経営学科 教授 / ディミトリ・リティシェフ
シリコンバレーでは投資家がお金のリスクを持つ、起業家は毎日現場で汗をかくと、それぞれの役割が分担されているのです。つまり、ベンチャーが破産して、それによりお金を損した投資家は起業家に対して何も請求できないわけです。しかし日本では個人保証や払い戻しという条件が投資契約に盛り込まれる場合が多いので、起業家個人の財産が取られる可能性があります。そこでシリコンバレーに学び、日本の起業家も自信をもって投資家と交渉して、より対等に付き合うべきだと思います。ただ難しいのは、投資家と起業家が年齢的に離れていることです。アメリカでは、ファーストネームを使ったりするので精神的な距離が比較的近いですが、日本では礼儀を重んじるのでどうしても遠くなってしまいます。また、投資家は経験もお金もあり、若い起業家はどうしても萎縮してしまいがちです。今は資本が余っている時代で、利子はほとんどつかず、株式市場も上下の激しいカジノ状態になっています。投資家はどこに投資すればよいかと常に悩んでいます。足りないのは、資金ではなくビジネスアイディアとそれを実現する起業家です。ゲーム理論で考えると、足りない要素を持っている側の方が交渉力が高いはずです。だから投資家よりも起業家のほうが強く、アメリカでは個人保証とか、起業家にリスクを負わせる条件は論外です。日本の起業家は自分の価値を知って、シリコンバレーの例を挙げながら投資家ともっと堂々と交渉すればいいと思います。
通常は最初にエンジェルと呼ばれる個人投資家が出資します。起業家はピッチ大会やその他のイベントに出て、投資家と出会います。そこで大切なのは投資家選びです。お金はお金だからどこから調達しても関係ないのではなく、その投資家と人として付き合いたいか、学ぶことはあるのか、そういった軸で投資家を選ぶべきですね。お金以外にも付加価値がある投資家と長期間付き合っていくことが大切なのです。ただ、あまりにも助言してくる人、挫折したら悪い態度を取りそうな人は避けるべきですね。頻繁に連絡してどうなった?と聞いてくるような投資家はよくないでしょう。
いいえ。アイディアとそれを実現出来る日本人は実は十分いると思います。私が少ないと言った意味は起業家を支えて、一緒に事業を作っていく社員です。できたばかりのベンチャーでも有能な人材が働きたいと思うような環境がカギです。
その通りです。シリコンバレーには、ベンチャーで働きたいと思う人が多いんですが、日本ではまだまだ少ないのがネックです。
そうですね。大学のキャリアデザインの授業でもっとベンチャーについて教えていくべきだと思います。