現役東大院生でバイオベンチャー起業 –事業と研究のシナジーを生み出す−
株式会社ジーンクエスト 代表取締役 / 高橋祥子
とんでもないです。怖いどころか人と違うと感じる瞬間が、自分の個体の存在を認識するので面白いし好きなんですよね。その感覚が形成されたのは、幼少期にフランスで2年程過ごした経験が大きいかもしれないですね。現地の人は容姿も言語も文化も違った私のことを苛めるどころか「面白い」って言ってくれたんです。物心ついたときから自分が周りとは違う「外国人」で、その特異性が尊重してもらえる環境にいたので、それ以来「人と違うことはいいことなだ」という感覚を持って、独自の道を歩んでいます。ただ日本は古い風習や教育のせいなのか、「人と同じことがいいことだ」という固定観念があります。日本の小学校に転校したときにそういった同調圧力の存在にストレスを感じたことと覚えていますが、同調圧力があるということを認識した上でなら、人と違っても怖くないのではと思います。
できるかぎりの想像力を駆使して、未来へタイムスリップして今の自分を過去として振り返ってみるといいですよ。おすすめです。行動に移すのに壁を感じているのは、失敗を恐れているからですよね。だから、失敗への恐怖を取り除くことが先決です。私自身「新しいことに挑戦するとき」や「人前で話すとき」など多くの場面で、いつも未来へタイムスリップするようにしています。
といっても、未来へのタイムスリップって何のことだか分からないですよね(笑)小学生のときに弟に大好きなアイスを食べられて以来気づいたのですが、その時は凄い頭に来ても、一週間経てばすっかり忘れますよね。それと一緒で、どんな危機的状況であってもどんなに怖くても、未来の自分からしたら何も大したことないんですよ。未来の自分が「こんなこともあったな。」と笑い飛ばしている場面を想像してみると、心落ち着いて何だってできます。こうやって、未来へタイムスリップして今の自分を客観視するのをマスターすると、何かに挑戦するハードルを低して何でも行動できると思います。
苦労しかないです。正直、社会人経験なく起業するのはやめといたほうがいいと思います(笑)。まず、当たり前かもしれませんが自分で経験しないと学べないということですね。起業も経営も、別に自分が人類で初めてやることではないので先人の知恵を生かそうと、起業や経営に関する本を沢山勉強しました。でも実際起業して現場に携わると、経営戦略、営業、財務、採用、法務、広報もすべて小さな失敗をして初めて先人の知恵を実感として理解できるのだということを改めて学びました。机上の勉強は得意だっただけに、軽く衝撃でした。一気に初体験がたくさん舞い降りてきたので、おもしろいですが大変で、今も手探りの毎日です。
あとは、資金の面ですよね。起業する前にいろんな投資家やベンチャーキャピタルに話しにいきましたが、ほとんどは全く相手にされませんでした。あなた事業経験ないですよね、まだ学生ですよね、億単位のお金扱ったことないですよねって。結局、理解してくださった個人の方々から投資をしていただいて事業をスタートできましたが、実績主義の日本では新規事業立ち上げなど経験しないと難しいのだなぁと痛感しました。ちなみに、バイオベンチャーは基本的にお金がかかり、社会人経験なくいきなり起業するのは本当に大変なのでおすすめしません。もしバイオベンチャーを創業したい学生の方がいれば、少なくとも一度自己資金で起業して失敗して経験してからチャレンジした方がいいと個人的には思います。
一つ目の経験についてのことは、とにかくたくさんの人に会いにいくということを実践しています。本を読んで理解できなくても、実際に経験した方にお会いしてお話を聞くと、よりリアルで説得力があります。お話を聞きたい方々のFacebookをストーカーみたいに調べて、共通の知人に紹介してもらったり、その方々が出現しそうなイベントに参加して偶然を装って話しかける、とかよくやってます。今も、申し訳ないけどいつか恩返しします、と思いながら有り難いことに多くの方に突撃して相談に乗っていただいて助けていただいています。
二つ目の資金の面は今も苦労しているところなので何とも言えないのですが、結局お金って色とかストーリーが必ずあって、決して単純に経済合理性で動くものではないんだなということを実感として学びました。資金を集めるのは利害関係が発生するので、いろんな人が理不尽なことも言われてもう人間が嫌いになりそうになったり、経営側としては逃げたくなるほどのプレッシャーもあるし、夜も眠れないほどつらい思いをたくさんします。もしまた新たに起業する機会があれば絶対に自己資金で創業してやる、と思っていますが、一ついいことは、いろんな人を巻き込んでたくさんの絆や信頼関係が生まれるのは感動するんですよね。生きててよかったな、みたいな。それは、投資していただくときの金銭的なところ以上にすごくありがたいことだなと思って、懲りずにまだ頑張ろうと思ってしまうわけですよね。