常日頃から準備
株式会社井之上パブリックリレーションズ代表取締役社長 / 井之上喬
欧米先進国がベースにしているベンサムの「功利主義」という考え方があり、それは「最大多数の為の最大幸福」という考えなんです。ただその中で取り残された人が出てしまうと単なる目的論になってしまうので、もう1つカントの「義務論」を合わせる事で補完されます。
判りやすくいうと、「功利主義」を進めていく中で生じた落ちこぼれを「義務論」の精神で救っていく事が私が正しいと考える倫理観です。欧米先進国はそうした事をかなり意識しているのですが、日本はそういう意識が薄いと思いますね。
アップル・コンピュータの案件ですね。アップルのスティーブ・ジョブズ氏とは直接会ったこともありますし、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏とも話す機会を得られました。弊社は外資系企業によって目覚めた部分がありますね。当時急成長していたヤマハの社長だった川上源一氏も織田信長のような人でともかくスピードが早い(笑)。その人の下で仕事をさせて頂いてかなり鍛えられましたね。だからその後手がけたアメリカ企業との仕事も楽でした。
潮目を見て今やるべき事をやるように心掛けていました。ワールドカップ日本代表だった本田選手が「常日頃から準備、すなわち練習をしておく事でいつ本番を迎えても良い状態に仕上げておく」と仰っていましたが、PRもそれに似ていて常日頃からの準備が必要なんです。どんなに予期せぬ事態が起こっても冷静かつ迅速に対処できるよう心構えをしておきます。
人間の脳は140億個の脳細胞でリアルタイム性を持っているので、並列処理マシンよりも効率よく計算し瞬時に判断できるんですよ。そのときに経験や情報の整理ができていないと迅速な対応ができないですよね。
パブリックリレーションズは民主主義社会でないと生きていけないんです。共産主義や社会主義ではプロパガンダという同じ仕組みを持つ手法がありますが、それには倫理観がありません。方向性が統一されているので自己修正等も一切無い状態です。ただ仕組みは同じ、だから怖いんです。
でも私の著作『パブリック・リレーションズ』の中国語版が昨年中国で発売された際、中国政府の要人が、私のパブリックリレーションズをスタンダードにしてくれると言っていたので中国が少しずつ変わってくれる事に期待しています。ただ昨今の尖閣諸島問題を見ると、まだまだだなと感じますね。日本も切り返せばいいのにできない、それはパブリックリレーションズの機能が無いからです。国連の常任理事国になれないのもこのあたりに起因しているはずなんですよ。
今の日本の立場を変える為にも幼稚園から「絆教育」をおこなうべきだと思います。人間は1人ではない事、親、兄弟、親戚、友達、学校、国家等から支えられている事を教える必要があります。だから「絆教育」の普及が私の夢ですね。日本人1人ひとりに幸せになってもらい、国が強くなり世界に貢献できるようになって頂きたいです。
PRと言うと、「広報」とか「マーケティング」に関連するものだと思っていましたが、実はもっととんでもなく奥が深かった事を今回の取材で学びました。
現代においてPR活動はメディアやパブリシティとの関係だけではなく、経営戦略、コンプライアンス、IRなど広範囲に渡り、企業経営の中枢に直結した業務だとお話されていました。PRは、起業家にとっても切っては切り離せないテーマになってゆきそうです。
担当:新田慶秋