死と直面すると人生が非常に輝いてくる
ホロトロピック・ネットワーク 代表 / 天外伺朗
そのまま「生きるために必要な力」だけどね(笑) 生きるために必要だというのは、状況が色々変わった時に、どういう状況になっても自分の立ち位置をしっかり把握して、歩むべき方向を見つける力ということです。
線路があって、その線路に乗っていけばいいということならば、あまり生きる力は必要ないかもしれません。しかしこれだけ世の中がガラガラ変わって、大災害が起きている。このように状況が変わった時というのは、今までの優等生というのはほとんど役に立たないんです。だから、どんな状況になっても生きていける力が必要なのです。
やはり社会がものすごく大きな変曲点に来ているとは思います。
今までの日本はさきほど言った「戦士の社会」でした。明治では富国強兵、最近であれば「GDP至上主義」という感じになっていたんですよね。 ちょうど大震災のころにホリエモンの裁判の報道がありましたね。彼は年齢は若いけれども、大変古い価値観の上で生きている人でした。つまり自家用ジェット機で、ガールフレンドとリゾートに行くという生活を目指して、それを実現したわけです。そういう生活をする人がたくさんいれば、GDPが上がるわけです。
また、去年の夏は電力が足らなくなって節電しました。そうすると今までいかに無駄に明るくしてたかということに気づいたわけです。ギンギンギラギラ明るくしたほうがGDPが上がるわけです。
要するにGDPを上げようと思ったら、贅沢で無駄なことをたくさんやればいい。現実に高度成長というのはそういうことです。日本の高度成長のころは土地を筆頭にあらゆるところがバブルになっていきました。そういう時というのは汚職がすごいんです。なぜかというと、多くのお金が流れるから、そのお金が欲しくて、行政とか色んなところに賄賂がいくからです。僕らも実業界にいて、多くの官僚が腐っているのはよく見てきました。今で言えば中国がそうですよね。ものすごい汚職だらけ。
そこで考えなければならないのは、古今東西の賢者がそういう生き方がいいとは言ってないということです。もっと慎ましく質素に謙虚に生きるのが人間としていい生き方だと言ってるわけです。そのような生き方をしていると物を買わないですから、GDPはガタ落ちです。つまり国民がみんな人間的な成長を遂げると、その国のGDPはすごい落ちてくるということです。
今は、その端境期に来ています。
若い人が東北にボランティア行って、瓦礫と格闘してきたわけです。彼らの中にはジェット機に乗ってガールフレンドとリゾート行くという人生よりも、瓦礫と格闘する人生の方が価値があると感じた人がたくさんいたわけです。その証拠にGDP至上主義という雰囲気はだんだん減ってきてるし、若い世代ほど小さくなってきています。
僕は前に「GNHへ」という本を書きました。Gross National Happiness(国民総幸福量)です。ブータンは前の国王の時に、GDPが上がっても人々が幸福にならないと気付き、この国はみんなが幸福になることを目指すということでGNHと言っています。
この本は震災の前に書いてる本だけれども、震災後に社会がどうなるかということを基本的に全部書いてあります。
例えば、GDPからGHNへの転換。本では2008年のデータで少し古いけれども、GDPは日本が2位、ブータンは158位でした。ところがイギリスのレスター大学の幸福度調査によると、世界178国の中でブータンが8位、日本が90位なんです。要するに国民の幸福ということだと、日本ははるかに後ろの方にいるのです。評価の指標をGDPからGNHにすると逆転するわけです。これから世の中はそういう具合に変わっていく、というのがこの本の基本です。また、そのために社会がどうしなければいけないか、ということを全部書きました。
このようなことは今の僕達のようなおじさんおばさんたちの世代よりも、君たちの世代の方が納得しやすいのでないでしょうか。というのは、僕らはやはり高度成長を担ってきた世代で、それで突っ走ってきたわけです。それが若い人達はそういう具合(GHN)にかわりつつあると思うからです。
皆さんそのような変化を肌で感じていると思います。しかし、下手するとおじさんおばさんたちのGDP至上主義に染まってしまいます。つまり「これが社会だよ」「こうしなきゃいけないんだよ」ということが上の世代から来ますから、それに染まってしまうかもしれません。これはもったいないねということです。せっかくその若い感性があるのに。