死と直面すると人生が非常に輝いてくる
ホロトロピック・ネットワーク 代表 / 天外伺朗
CD(コンパクトディスク)、犬型ロボットAIBO、皆さんご存知だと思います。
今回のインタビューは元ソニー上席常務で上記の開発部長であった天外伺朗さんです。
作家としても活躍し、ソニー勤務のかたわら39冊を出版。
今回はソニー上席常務を退任された後に行われている「改革」についてお伺いしました。
3つあります。「医療改革」と「教育改革」と「企業の経営改革」です。 組織としても3つあります。1つがホロトロピック・ネットワークという会員制の組織です。主として医療改革と教育改革に対応した組織ですが、基本的には会員さんが自分を見つめ、人間的な成長をするということを勉強するという組織です。
残りの2つが経営関係です。片方がoffice JKという株式会社です。これは「天外塾」という経営者向けのセミナーをやっています。 もう一つがフロー・インスティテュートという組織ですが、これは私が作った組織ではなく、若手経営者が自主的に「フロー経営」を勉強するために集まった組織です。たまたま僕が代表となっています。だから彼らが自主的に動いていて、そこに僕が乗っているという形です。
いえ、そういうことではなくごく自然な流れの中でこのような活動に至ったのです。
現在の活動に至る経緯としては、まず初めに「どうせ死ぬなら少しでもましな死に方をしよう」という、「マハーサマディー研究会」という会からです。これがホロトロピック・ネットワークの前身となっています。
マハーサマディーとは瞑想しながら死ぬことを言います。出発は個人的なところからで、父親が亡くなった時のことでした。父は自ら覚悟を決めて、葬式の写真を選んで、入院しました。家族にも見舞い客にも御礼を言って、見事に演出していたのです。しかし、具合が悪くなって集中治療室に入ります。モルヒネを打たれて、意識が朦朧とする中で治療の管を抜こうとしてしまうので、両手を縛られて、結局家族が見ていないところで亡くなってしまったんです。 この時に、もう少しまともな死に方は出来ないものかということを、松原泰道というお坊さんと話しました。すると仏教では坐亡という言葉がありますよと。
要するに座禅をしながら自ら意識して亡くなっていくという方法論がありますと言うんですね。 考えてみたら読んだ本に、オーストラリアのアボリジニは皆そういうふうに亡くなると書いてあったことを思い出しました。彼らはすごく見事なんです。「これから逝きます」と言って、テントから出ると、数分後には亡くなっていくと。葬式も無ければ悲しみも無くて、彼らはその死体をそのままにしておく。それを砂漠の動物が食べてエネルギーの循環になっていくというわけです。 それからヒンズー教のお坊さん、僧院のヘッドになるような人はみんなそういう死に方をするのだそうです。
それをみんなで見つけましょうと会を作ったのが最初です。
ただこれは「死に方研究会」という非常に不吉な会なわけですよ。果たして人が集まるだろうかと思っていたら、800人くらい集まってきたんです。
はい。というのも活動の中で、これはただの「死に方」研究会ではないということに気づいてきたんです。
文明人は、死から目をそらして生きています。これはとても不自然なことです。また、死と直面すると人生が非常に輝いてくるということがわかってきたんです。これは古今東西あらゆる賢人が言っています。西洋哲学であれば「メメント・モリ(死を想え)」という言葉がありますね。
ですから、死とちゃんと直面すると生きている一分一秒が輝いてくるということは、はるか二千年前から人類の間でよく知られていることなんですね。すると、マハーサマディーで瞑想しながら死にましょうというこの活動は死と直面することになるんですね。結構これは役に立つ。
そうこうするうちに、病気になった人が意識の変容を起こすということがわかってきました。経営者でも大病した人が立派な経営者になるケースがたくさん見られます。
なぜ病気になると意識の変容が起こるかというと、そこで死と直面出来るからなんですね。それまで死から目をそらして生きていても、病気になると直面せざるを得ない。
だから意識の変容というのを原理的にごく簡単に言うと、人間として外見が変わるわけではないけれども、精神的にはさなぎが蝶になるような変化を遂げるということです。その過程でサナギは一旦死ぬわけです。そうすると文明人は死の恐怖がわきあがってくる。だから変容にブレーキをかけてしまうんですよね。
人間は人間として生まれてきたら、変容を繰り返してどんどん大きなところに行きたいという非常に強い動機を持っています。しかし文明人は死が怖いから、そこで急ブレーキを踏む。だから文明人を深層心理的に観察すると、いっぱいアクセル踏んで、いっぱいブレーキを踏んで生きているんです。
今は病気というのは大変困ったこと、病気を回復して元の生活に戻りたいというのが一般常識です。しかし病気になると意識の変容のチャンスが生まれます。 しかしそういう考え方は、今の医療の中に入っていません。では私達がやりましょう、ということで医療改革が始まりました。