死に物狂いで生きて下さい
株式会社Kaien / 鈴木慶太
全くありませんでしたね。むしろ今まで一度も起業をしたいと思った事はありません。今でも起業をした事実に驚いているくらいです。
「息子が自閉症と診断された」 「MBA学生との出会い」 「スペシャリステルネを発見した」という三つの出来事が重なったからです。
MBA留学で渡米する2日前に当時3歳だった息子が自閉症と診断されました。
もの凄くショックを受けて、アメリカ向けフライトまでの数10時間の間に、このまま留学してもよいものかどうか本当に悩みました。最初は留学を取りやめ ようと考えていました。親とも相談して、急いで再就職するよりも2年間きちんと時間を費やしてから就職先を探した方が最終的に子供の為になると結論を出 し、そのままMBAに挑戦する事を決めました。
幸か不幸か自閉症の事を全く知りませんでした。混乱しながらアメリカに向かったという感じです。
正直な所、そもそも障害者の方に対する関心が低かったんです。障害者の方に対する「優しくしていれば良い」という社会のふわふわとしたイメージがあまり 好きでなかったからです。同じ人間なのに線を引いて、「健常者」「障害者」という括りで分けるのはどうなんだ、と。その考えは今も変わっていません。
アメリカでは自閉症の理解がもの凄く進んでいました。自閉症の方の団体が、世の中を啓蒙しているんです。
日本でも同じような事をできるかもしれない、とMBAの最初の一年間は漠然と考えていました。日本はアメリカと比べるとまだまだ自閉症に対する理解が低 いんです。当時は、変な偏見で自分の子供のポテンシャルが下げられてしまうのは嫌だなぁと、心の中でずっと不安を抱えていました。
そんな時に自分の興味・関心にドンピシャのモデルのデンマークの企業の「スペシャリステルネ」を発見しました。
なにより「スペシャリステルネ」が営利団体である事に非常に感激しました。僕自身、資本主義というルールが大好きなのですが、「スペシャリステルネ」は非常にソーシャルである一方でビジネスという土俵で成立していたんです。
ただ、当時はこのモデルを「やりたい」ではなく「知りたい」という気持ちでした。
スペシャリステルネはデンマークのITと自閉症をモデルにしている企業なのですが、当時はそのITと自閉症という二つの知識が全くなかったんです。やりたい人にバトンタッチできれば位の気持ちでひとりでリサーチを始めました。
しかし運良くプランに興味を持ってくれた友人が複数いて、彼らと協力してビジネスモデルを書いてみました。これが今の事業のスタートラインです。
その時感じた事は、ここがアメリカの大好きな所なんですけど、とにかく新しい事をやる人を応援するんですよ。当時書いたビジネスモデルは、今考えたらボ ロボロでしたが、凄く後押しをしてくれるんです。この時にアメリカの起業へのリスペクトを感じました。アメリカはチャレンジを応援する国民的コンセンサス があるだなぁ、と。これは日本では絶対にあり得ないです。
あれよあれよという間に、アメリカのビジコンにチームを組んで出場し。優勝する事ができました。
ビジネススクールに行くためには1500万〜2000万円かかりますから、起業には慎重なスタンスを取っていました。ただ様々な方面から応援をしていただき、数か月分の活動支援金を頂く事ができました。
また、卒業後に就職予定の企業に一年間遅らせるようにケロッグの学長自ら電話して下さったんです。日本で言うと東大の総長から電話が掛かってきた感じですね。
その後、NTTデータだいちさんがお客様としてついてくれる事が決まって、それでKaienをスタートさせました。
現在は主に自閉症の方への職業トレーニングを実施しています。PC関連業務、IT・ソフトウェアテスト業務に関するトレーニングです。修了生には就職先をご紹介しています。 今後は、自閉症の方を直接雇用し、IT企業としてソフトウェアテスト等の業務を行うことがKaienの最終的な目標です。将来的にはぜひ実現したいと考えています。
始めてから3カ月間は非常にフワフワしていました。NTTデータだいちさんと協力して、自閉症スペクトラムの方の雇用環境を改善するプロジェクトを行っていました。
その後の6カ月間は地獄でしたね。 訓練生への職業訓練の準備期間が1-3月、実行期間が4-6月。そして企業への紹介期間が7月以降というスケジュールでした。ところが、1月から3ヵ月か けて準備していた事が、実行に移すと全くダメ。走りながら修正点を加えていきました。その時は本当に混乱していまして、スタッフには信じられないほど迷惑 をかけてしまったと思います。
現在は、自分の精神的にも、会社の運営面でも、ガタガタからようやく立ち直ったという感じです。丁度昨日(8月9日)1期生の3人が卒業しました。最終 的には3名とも上場企業に大変ありがたい雇用条件で採用していただきました。ようやくビジネスとして成立する兆しを感じる事ができました。