欲の置き所はその人の価値観次第
NPO法人ETIC. / 宮地治男
ETIC.の活動を大学2年から始めて、3年、4年とやっている間に忙しくなってしまって、就職活動をする暇が無く、気がついたらそういう時期も過ぎていたという感じですね。
ただ、バイトでマスコミの中に入って働いていたのですが、当時のマスコミの非常に封建的で体育会的な組織風土を嫌と言うほど感じていました。自分として はマスメディアを変える事が目的だったので、就職して1からスタートしたとして、マスメディアを変えられるだけの力や発言力を持つのに10年、20年はか かると知り、これはちょっと得策ではないと判断しました。
一方で、アントレプレナーセンターの福島正伸さんの下でもアルバイトをしていたのですが、あるインフラ系の大企業の現場に行く事があって、私からみると みんな目が死んでいたというか、俯いて仕事をしていて、生き生きもしていないし、楽しそうでもないのを目の当たりして、会社に就職するというのは、こうい う事でもあるんだと知ったのです。
つまり、就職がゴールではなく、どんな生き方をするかとか何をするかが大事だという事を考えると、彼らは幸せなんだろうかと素朴に思ったりして、そうい う事を学生時代にもっと知るべきだし、多くの人に知って欲しいと考えるようになって、結果的によりETIC.の活動にのめり込んでいく事になりました。
もともと、活動の全てが非営利だったという事があります。たとえば「就職ちょっと待ったシンポジウム」というイベントを例にとっても、会場は大学が無料で 貸してくれいましたし、告知は日経新聞が取材してくれて告知記事を書いてくれて、それだけで200人ぐらい集まった。当時、電話が置いたら鳴る、置いたら 鳴るみたいな漫画みたいな反響があって、全国から人が集まってきて取材してくれて新聞やテレビにも出ましたが、それも当然無料。講師としてベンチャーの経 営者がお忙しい中、ボランティアで来てくださり、しかも時間も延長になるぐらい熱く語って下さった。
そこには、自分達が中立的でいる事、ノンプロフィットでいる事で、結果的に大きく人が動き、価値が動くという世界があったのです。こういった事実も踏ま えて、当時の自分が社会に影響力を持つために、非営利でやった方が戦略的にインパクトは大きいと思ったんです。大きな風を巻き起こせる予感がありました。 だから、あえて戦略的にNPOを選択しているという感じですね。
よく、「宮城さんは欲がないのですね」と言われる事があるのですが、欲の置き所というのはその人の価値観次第ですから。できるだけたくさん稼いで贅沢に暮 らしたいという欲求は、確かに私には強くはないかもしれません。ただ、社会に対して価値を提供したいという事には貪欲なのかもしれません。ETIC.を法 人化する際に、株式会社なのか?NPOなのか?という選択肢がありえましたが、より広範囲に影響力を持ち、長期的に信頼される組織を作ると考えた時に、必 然的にNPOになったというだけの話です。
物質的な豊かさがある程度保証されている現代社会で、更に豊かな暮らしを追い求める事は本当に幸せやいきがいに繋がるのか。ETIC.が発信しているメッ セージもそういう事でもあります。「あなたが今追い求めている事は、本当に貴方が大事にしたい事か?」。その事を率直に実践者として体現しているのが、社 会起業家と呼ばれる人だと考えています。
特別苦労したという感覚は余りありませんが、見方を変えれば今も常に苦労していると思います。NPOということもあり、当時も今も先にお金が潤沢にあるわ けではありません。逆に言えば、ないからこそ知恵が働いたというのはあると思いますけどね。変革に挑んでいく事は、経営者として、起業家として、しんどい 事は必ずつきものなので。
当時既にリスクを考えるような暇はありませんでした。起業家の人が応援してくれたり、メディアや行政の人達が応援してくれたり期待してくれたり、イベント や勉強会に参加する学生達が成長していく姿を見ていく中で、これだけの人達がつながり、期待をしてくれるという事は、やめるわけにはいかないと思ったんで す。だから、「ETIC.で僕は食べられるだろうか」みたいな事は考えたことがありません。一言で言うと、使命感ということになりますか。 ただ、インターンシップを事業化したタイミングで、自分以外の人を雇うという事になり、そこは少し思う所はありましたけどね。
特にプレッシャーは感じていませんが、現実に10人、20人と人生をかけてやっている人達の給料を払い続け、事業を運営し続けるというのはいろいろな困難 が伴う事は確かです。メンバーが一番成長でき、力を発揮できる仕事を提供していく事は大事だし、そういう事を考えています。ただ、それがプレッシャーとい う感じではないです。要するに、彼らを俺の力で食わせてやるみたいな思いでやっているわけではなく、同じ方向を向いてお互いに走っている、ところがあるの で、特別私一人が気負いを持ってやっているわけでありません。だから敢えてメンバーに感じるものを挙げるとすれば、それは感謝ですね。