デザインエンジニア-新しいものを生み出す、新しい働き方
takram design engineering代表 / 田川欣也
デザイナーの場合は、「起業」というよりも「独立」というイメージの方が近いかもしれません。資金調達してスタートするベンチャーではなく、ごく、こぢんまりとスタートしますから、特に不安な思いがあったわけではありません。30歳になるまでに上手くいかなければ、その時点であっさりやめて、普通に企業に就職しようと思っていました。
デザイナーだけではなく、会計士や社労士、弁護士などの「プロフェッショナル」と呼ばれる職種の人は、大抵の場合「個人事務所を立ち上げる」という感じで、そんなに会社を大きくするつもりもありません。これが「独立」のイメージです。一方、起業というと、「こういうものが作りたい」「こういうサービスを提供したい」というビジョンがあって、それに共鳴する人を集めて大きなビジネスを作り上げるようなイメージです。
デザインとエンジニアリングの両方をなんとかやれる仕事がしたいとは思っていましたが、「起業」という感じではなかったと思います。現在は「ビジネス・テクノロジー・クリエイティブの3つを兼ね備えた人材(BTC型人材)を育てていく」ということを一つの目標にしています。
先ほど「多軸を持つことで多面的に物事を考える」という話をしました。多面的に物事を考えるのがどんな時に役立つかというと、「前例のない新しいものを作り上げる場面」なんだと思います。新商品を作るプロジェクトでは、過去の経験や勘といったものがあまり役に立ちません。そういったプロジェクトで必要となるのは、ビジネス軸、テクノロジー軸、クリエイティブ軸を縦横無尽に組み合わせながら、新しい仮説やコンセプトを作り出し、それをプロトタイプし、それを検証して、さらに仮説をブラッシュアップする、そんなプロセスです。BTC型のハイブリッド人材は、そのようなプロセスに最適な人材です。takramはBTCのうちのTC型(Technology × Creative)の人材=デザインエンジニアを育てていますが、究極的なゴールとしてはBTC型の人材を集めて育てていくことを目指したいと思っています。
新商品を作る場面では、「これはビジネスの課題なのか」「これはテクノロジーの課題なのか」ということが分からないんです。そもそも、「何を作っているのか?」ということさえ分からないこともある。普通は、その混沌としたモヤモヤとした状態を、無理やり「こっちはビジネスの課題」「こっちはテクノロジーの課題」と分割して、仕事を割り振ります。しかし、そのやり方だと、最終的に割り振った仕事を組み合わせた時にうまく組み上がらないことが多いんです。
「モヤモヤとした状態」からそのまま形を生み出すには、問題を無理やり分解せず、解いていく必要があります。そういった「問題分解の不可能性」を前提に、手探りの中からも、新しいものをハイスピードで作り上げることができるプロフェッショナルというのが、まさにBTC型の人材だというのが、僕たちが持っている仮説です。
takramは何の会社かといったら「人」の会社です。 ですので、やりがいも悩みも、その多くは「人」に関することです。会社を立ち上げてから8、9年ですが、どうやって良いチームを作っていくのかということについては日々、本当に真剣に議論をしています。 メンバーが育っていくのを間近で見られるのは非常に面白く、やりがいを感じます。