デザインエンジニア-新しいものを生み出す、新しい働き方
takram design engineering代表 / 田川欣也
ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「NS4」のUI設計、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS -地域経済分析システム-」のプロトタイピングのディレクション、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。グッドデザインアワード、コクヨデザインアワード、 ダイソンデザインアワード、英国D&AD Awardsなどの審査員を歴任。日本語入力機器「tagtype」はニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されている。東京大学機械情報工学科卒業。英国Royal College of Art, Industrial Design Engineering修了。LEADING EDGE DESIGNを経て現職。2014年より英国Royal College of Art, Innovation Design Engineering客員教授。
takram design engineering
http://www.takram.com/ja/
小さい頃から、おもちゃをもらったらすぐに分解してしまうような子供でした。そんな感じでしたので中学の頃から「将来は何かものづくりをする仕事につくんだろうな」と漠然と思っていていました。そして、ごく自然な感じで高校・大学と理系の道を進みました。
デザインに興味を持ち始めたのは大学3年の頃です。建築学科に通っていた友人の影響で、本を読んだり、映画を観たり、展覧会に行ったり…友人との会話の中で建築やプロダクトデザインの分野に少しずつ興味を持つようになりました。
工学部に所属していた僕は、大学3年の夏休みに、自分が使っている製品はどうやって作られているのか、ということに興味を持って、ある電機メーカーでインターンとして働く経験を持ちました。僕はエンジニアとして設計部門に配属されたのですが、そこでの仕事に大きなショックを受けたんです。
まず一つ目は、製品の生み出される過程が想像以上に分業的だったということ。企画、マーケティング、エンジニア、デザイナーといった職種の人たちがそれぞれに動いていました。当時の僕はナイーブに「世の中に製品を出すための全ての仕事は、エンジニアによってなされている」と勝手に思い込んでいて、文系や芸術系の人がどんな仕事をしているのかということを全く知らなかったんです。実際の現場に入ってみて分かったのは、企画やマーケティングなどについては、文系の人が中心になって仕事をしていて、エンジニアはその人たちが決めた内容に従って具現化に取り組んでいるということでした。そして二つ目のショックが、僕がやりたいと思っていたプロダクトの形状や使い勝手を決める仕事を、エンジニアではなくデザイナーがやっていたということです。当時の僕は、製品のデザインもエンジニアが決めていると思っていたのですが、実際には、それはデザイナーの仕事だったのです。そのメーカーのエンジニアの皆さんは素晴らしく優秀で人間的にも魅力的な方々だったのですが、純粋に組織として分業化が進んでいたんだと思います。
僕がやりたかったのは、「何を作るか?」「どうやって作るか?」ということを考えて、それをちゃんと形にして世の中に届けるという、0から1を生み出すプロセスの全てに関わっていくような仕事でした。しかし、このままエンジニアとして企業に就職してしまうと、自分のやりたい仕事の1/3くらいしかできないのではないかと感じました。そして徐々に「自分でデザインもやれるようにならないとまずいのではないか」と思うようになったんです。それがきっかけで、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)という美術系大学院に留学することにしました。RCAでデザインを学んだ後に帰国し、プロダクトデザイナーの山中俊治さんが率いるリーディング・エッジ・デザインに就職しました。そこで幅広い経験を積めたことが僕の今の仕事の基礎をかたち作っています。その後、2006年にtakramがスタートすることになります。
それはそうかもしれませんが、教育という意味では、大学での教育もたかだか数年です。少し時間をかける気になれば、専門性を2つ持っていても、3つ持っていても、ぜんぜん特殊じゃないと思います。新しいことを身につけるのは誰にとっても大変なことですが、ちゃんと取り組める人には様々な可能性が広がっている時代だと思います。
思考の仕方が変わるということはあるかもしれません。これは、二つの言語が話せるという感覚に近いかもしれないです。例えば、日本語と英語がしゃべれる人は、英語を話すときには英語モードの脳になって、日本語で話すときには日本語モードの脳になると思います。それと同じように、エンジニアとして思考している瞬間と、デザイナーとして思考している瞬間が、個別に存在していて、その両方を持つことによって、複数の軸で物事を多面的に物事を考えることができるようになる、ということかなと思います。