「お金をもらわない仕事」をする。
numabooks 代表 / 内沼晋太郎
それは一概には言えません。ただ、学生が出版業界で起業をするのであれば、いきなり「お金がもらえる仕事」を生み出すのはなかなか難しいとは思いますね。
なぜなら、この業界についてちゃんと勉強できていない人が多いと思うからです。出版業界は、身近なようでいて、とても特殊な業界です。「本が好きで起業したい」という学生にはこれまでに何度も会ってきましたが、そういう人も、実際は本がどのように流通しているかも知らなかったり、ありふれたアイディアしか持っていなかったりします。僕は「起業をしたいなら、もっと勉強するべきじゃないか?」と思います。そして、この業界についてきちんと勉強すると、お金を稼ぐのは簡単ではないということが、自ずとわかります。
「勉強する」というのには、ただ本を読むだけではなく、その業界に関わる人の話を聞きに行ったり、実際に潜り込んだりして「一次情報」を集めるということも含まれます。「起業したい」という人はとにかく行動してみて、しっかりと一次情報を身体で感じつつ、そのうえで本を読んだり、ネットで調べたりして補強していくことが重要ですね。これは学生に限らず、どんな人にも言えることです。僕も、色々な業界の方と働く機会があるので、その分色々な分野の勉強をすることを心がけています。
ぼくの場合は大抵、その業界の人と接して実際に一緒に仕事をするということが先に起こりますから、一次情報には触れやすいわけです。なので、まずは徹底して話を聞く。そのうえで、本を読んだりネットで調べたりすることで、その全体像をつかむようにしています。どちらが欠けても駄目で、実際に現場で経験することと、机の上で調べることとを行き来するようにしています。
もちろんです。本に関しては実際にずっとやってきたので、少なくとも全体像をつかんでいるという意味では、他の人にはそうそう負けない自信はありますが、もちろん時代は動いていきますから、特に個別の専門的な領域については、いつも勉強になることばかりです。僕自身、色々な現場で手に入る一次情報を大事にしています。例えば気になる本屋さんがあれば、なるべく実際に見に行って、経営者を直接取材したりします。たまに、その本屋に行ってもいないのに批判をする人がいるのですが、そういう人と僕とでは、持っている情報量が違うから、発言の説得力も違ってきます。直接見たからこそ考えられることがあって、それが頭の中で繋がって、新しいアイディアが生まれることも多い。だから、本のことに限らず、なるべく一次情報に触れることは、いつも心がけていますね。
自分の場合はいわゆる起業をしたかったというより、やっているうちにこうなったという感じなので、参考になるかはわかりませんが、学生のうちから起業を考える人は、少なくとも2つのタイプに分けられると思います。1つは「どんな分野かは決めていないけど、とにかく起業したい」という人で、もう1つは「やりたい分野が決まっていて、それで起業したい」という人。
「どんなビジネスをするか決めていない」という人にオススメしたいのは、「自分が学生である」という強みを活かしたビジネスをやるということです。当たり前の事ですが、起業って、社会経験のある人の方が成功する確率が高いんですよ。社会経験の無い学生が社会人に勝てることって、「学生であること」とか「若いこと」ぐらいしかないわけです。だからたとえば、「学生にしか得られない情報」や「若い人にしかできない経験」そのものを活かしたビジネスをやるほうが、成功しやすいんじゃないかと思います。
その一方で、「やりたい分野が決まっている」人に関しては、「とにかく勉強しろ」と言いたいです。経験豊富な社会人と同じ土俵で戦うわけだから、彼らに負けないくらい勉強しない限り勝てることはありません。学生であろうが、社会に出るなら「不勉強」は失礼ですし、単になめられて損をするだけです。社会人よりも時間はあるし、昔よりはずっと人にも情報にもアクセスしやすくなっているわけですから、徹底して勉強して脇を固めながら起業するべきだと思います。その覚悟の足りない人には、まずはなるべく近しい分野で普通に就職して、社会経験を積みながら、夜や週末の時間に「お金をもらわない仕事」を突き詰めてみる、という形を勧めます。なるべく頭をつかって、がんばってください。
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