アスリートを無限のフィールドへ
一般社団法人アスリートソサエティ / 為末大
自分と同じ三十代の人々で、経営をやっている人と接する機会が多くあるんです。しかし、自分の問題をおろそかにして、経営に向かっても、経営は自分の問題を解決してくれる訳ではないんですね。本当に例えですが、女の子にモテたいと思って、いつかお金持ちになってやるぞ、と思い起業しても、自分のコンプレックスはお金が解決してくれないんです。すごいお金持ちになったら、今の問題がすべて解決されるのかと考えた時、そんなことはないと思います。どこまで行っても、今持っている悩みは解決されず、自分と向き合わなければならないんですね。安易に、どこまで行けば、今の問題が解決されるという概念を持たないことが大切です。自分自身の問題は長く自分が付き合っていく問題です。あとは、やっぱり自分のやりたいような事をのびのびやっていけたらいいと思います。若さは武器ですからね。
お金持ちでも幸せになっていない人に出会い、自分自身の幸せとは何か考えるようになったからだと思います。起業して、お金持ちになり、社会的に成功している人でも、幸福度の観点から言えば、学生の幸福度とあまり変わらないのではないでしょうか。お金持ちになりたいという軸よりか、やりたいことをやっているということが一番幸せなんだと思います。やりたいことをして、失敗することもあるとは思うんですけど、何かちがう目的のために起業しても幸せになれないんですね。やはり、自分自身の問題をお金で一時的に拭うのでなく、真摯に自分と見つめ合いながら人生を進めていくことが大事なんだと思います。
精神力は正直あんまり強くないですよ。そう見えるとは思いますが(笑)だれでも勝負の場に来ると、勝者としての役割を演じることができるんだと思います。しかし、本当に勝負強い選手はふてぶてしいですね。いざ勝負の時となると、もう憎らしい程人を人と思わないんです。自分が一番だと思っているし、人を人としてみていないんです。だから心が折れないんです。
自分が出会ってきた成功成功者は勝負強いし、ふてぶてしいですよね。ある意味楽観的とも言えると思いますが、そういう要素を持っていないと、プレシャーに耐え切れないと思うんです。オリンピックの世界では、1つの勝負に失敗したら、その後の選手人生のリカバーのチャンスはありえない世界なんです。その時だけに集中できるような人間がいて、そういう人間が勝負に勝っていき、勝負強いんです。経営者も似た所があって、あんまり深く考えすぎない、未来を見過ぎない、少し立ち止まって、今の事だけに集中することができる人が、いい経営者、いいアスリートの資質だと思います。
スポーツの世界は皆頑練習に必死になって張っているように見えるのですが、あれはただ夢中なんです。夢中で子供が砂場で10時間一生懸命砂遊びをしていて、「よく努力したね」、なんて言わないじゃないですか。そういう世界なんです。自分たちにとってスポーツとは砂遊びの世界と一緒で、それをただ夢中で時間を忘れてやっているだけなんです。それが素振りか、砂遊びか、僕だったらハードル、その違いだけなんです。外から見て努力に見えるから、沢山練習したら理想の姿になれる、という訳ではなく、本当に夢中でやっていて、本人にとっては、楽しいことをしていて、気づいたら時間が経っていたということなんです。よく努力には鍵があるんじゃないかと言われますが、本人には努力した感じはないんです。それは経営にも当てはまると思います。周りから見たら、あんなプレッシャーを感じていて、大変そうだと見えるかもしれませんが、そんなこと全くないんです。していることが楽しいと思えるのか、思えないのか、大切なのはその事だけだと思います。楽しめる人間が一流の人間になっているのだと思います。