伝統産業を守り、長く愛される会社をつくる
株式会社 伝統デザイン工房設立 / 高橋 万太郎
キーエンスを退社した3日後が今の妻との結婚式だったんですが、それ以前に妻も仕事を辞めていたんです。ですから普通の新婚夫婦なら100万円くらいかけて1週間豪華に新婚旅行にいくところを、3ヶ月かけて国内を貧乏旅行しながら様々な地域に触れ自分たちが出来る事を探す事にしました。
旅行中色々な産業に触れてそれに従事する方々の話を聞いてみると、共通していたのは「良いものを作っているがなかなか売れない」という主張でした。大手企業による大量生産物や海外輸入の安価な品に価格競争で負けてしまうという事を聞き、ここに自分の立ち位置がありそうだと思ったんです。
そして具体的に何に携わるか決める為に今度は商材ごとにリストアップしたら400〜500アイテムになりました。その中から「日本人に欠かせないもの」「購入単価の安いもの」という2つの基準で絞り込んだところ醤油、味噌、日本酒などが残ったんです。
はい。そんなとき母がインターネット通販で醤油を購入していた事をふと思い出して。当時は、今ほどインターネットが普及していない2002年頃の事。機械が不得意な母がインターネットを使ってまで購入した醤油には、きっと何らかの魅力があると思ったんです。
そこで取り敢えず30軒のお醤油屋さんを訪問してみる事にしたんです。30軒回り終えたらそこそこの知識が付いたと思い、大型食料品店に行って様々な醤油を品定めしたんです。
結果的にどれが良い醤油なのか全くわからない(笑)。僕自身がこんな状態なら一般の方は絶対に厳選できていないなと思いました。でも厳選する為に大きいボトルを何本も買うのは嫌じゃないですか?その為には100mlほどの小さいサイズのものが必要だと思い、各業者さんに小サイズの製作をお願いしました。ただ業者側としては1.8リットルや一升瓶サイズのものが主流で500mlでもかなり小さくしたという認識であったので、100mlをお願いしたときはかなり面食らっていましたね(笑)。
自然とできたんだと思います。ノンアポで訪問して蔵を見学をさせて頂いて醤油についてお話するだけなんです。中には断る方もいらっしゃるんですが何回か訪問して仲良くなれれば承諾してくれますね。やっぱりもの作りを愛している方々なのでその話になると盛り上がりますし、僕自身のやりたい事を話しても親身に聞いてくれるんです。
キーエンスを辞めて約半年後に法人登記をしたんですが、半年間は起業の準備をしていました。設立そのものは簡単な書類の手続きだけで驚きましたよ(笑)。そして「伝統デザイン工房」が出来上がったんですが、今の形態のサイトが完成したのは1年後でした。設立当初は素人丸出しのショボショボサイトでしたよ(笑)。また当初の販売先はサイトを通じてのみでしたが現在はそれと共に事務所兼店舗でも販売していて、全国各地の雑貨屋さんでも取り扱って頂いています。その雑貨屋さんでは100mlのものだけ置いて頂いていて、もっと大きいサイズが欲しい方は業者さんに直接連絡して頂くというシステムを取っています。
最初は利益の大本になると思い、大きいサイズもサイトから購入できるようにしていたんです。しかしそれをやめたんですよ。何故かと言うと、こだわったもの作りをしている業者さんは直販の比率を上げて利益を大きくしなくてはならないからです。それに今お付き合いさせて頂いている業者さんの多くは100年200年の長い歴史を持っているところばかり。だから僕もその業者さんたちと関わる以上は50年100年の長いお付き合いが出来る立ち位置でなければならないと思ってるんです。
「こだわったものづくりをしている「作り手」は直販の比率を上げるべきだ」という考えを持ちながら、ネットを介して業者さんの商品を売り、中間マージンを得ている自分の立ち位置に疑問を感じたんです。 ですから僕はお客様の最初のステップとして100mlというサイズを提供する役割に専念し、大きいサイズは業者さんとお客様で直接売買して頂いた方が良いと感じました。それ以来大きいサイズの取り扱いは辞めて100mlの売買に専念しています。「そこが安定的な収益源になるのにバカだなぁ〜。」と言ってくれる友人もいましたが、今となっては僕にとってもメリットが大きかったと思っているんです。