波動制御を軸に、イノベーションを連続的に孵卵する
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 / 代表取締役社長COO 村上泰一郎
東京大学工学部マテリアル工学科卒業後同大学院にてバイオマテリアルを専攻。その後、アクセンチュア戦略コンサルティング本部にてR&D戦略/デジタル化戦略/新規事業戦略等を中心にテクノロジーのビジネス化を支援。また、同社在職中にベンチャー技術の評価と大企業への橋渡しを行う新組織(Open Innovation Initiative)、およびイノベーション拠点(Digital Hub)の立上げにも参画。経済産業省:大企業と研究開発型ベンチャーの契約に関するガイドライン策定委員会委員、一般社団法人未踏のエグゼクティブアドバイザーも兼任している。
事業内容の前提として、「社会的意義や意味があるものを連続的に生み出す孵卵器となる」というミッションを掲げて、世の中に意義があるものを連続的に出しています。具体的には、日本で初めての産学連携スキームで得られた技術や、社内で研究開発した技術をもとに、色々な企業とのオープンイノベーションで製品を作っています。
事業内容としては、「波動制御」を軸に据えています。「波動制御」とは、音・光・電波といった「波」として扱えるものを、解析・制御・シミュレーションすることを総称してそう呼んでいます。
プロダクト例に、超音波スカルプケア『SonoRepro』があります。当初は、傷を治すために超音波を使った研究を行っていたのですが、偶然にも毛の生えもよくなるという発見がありました。その研究成果がクリニック向けのデバイスにつながり、さらに小型化した家庭向け製品に至りました。
ほとんどが「創発」です。これまで6プロダクトラインほど形になっているのですが、この裏で50本以上の研究テーマを走らせてきました。つまり、残りの45個、90パーセントはすべて、ある意味失敗しました。
創業期に『いける』と思っていた構想は、軒並みほぼすべて上手くいきませんでした。むしろ『波動制御技術はもっと可能性があるのではないか』と、色々な企業とコラボレーションする中で、 我々が知らない業界の課題やニーズを知り、そこから技術の応用法を発見することから生み出されてきたものが大半です。
そうですね。例えば、建設現場や工場、発電所など、とにかく色々な場所に足を運んで、当事者と直接対話することを意識していました。
繰り返しになりますが、大体机上で考えた構想はほとんど上手くいかないので、現場の課題やニーズを聞きながら、技術をアジャストする方が的確かつスピーディーです。つまり、我々は技術の会社でありながら、シーズドリブンで事業を作ることはしません。「シーズ」が起点になって話が始まるのはいいのですが、事業やプロダクトを組み立てる際には、「課題やニーズ」にドライブされないと、やはりなかなか形にならないという印象があります。
というのも、ある特定の「技術」の周りでピボットすると、だんだんとマーケットが小さくなるのですが、「課題」の周りでピボットしても、マーケットは小さくなりません。要は、「この技術が1番バリューを発揮する場所」を狙っては外すということを繰り返していくうちに、どんどんマーケットが小さくなっていきます。一方、「この課題をどう解決するか」という発想で探していくと、マーケットは小さくなりません。適用可能性が非常に幅広い技術が、この発想を可能にしていると思います。
「打席に多く立つこと」です。打席数以外のことは、ほとんどがアンコントローラブルなのですが、会う人数や現場に行く数というのはコントローラブルです。我々の場合、50本の研究テーマのもと、色々な企業とアライアンスを組んで共同開発を行うために、当然数百本もの提案をしているわけです。
オープンイノベーションの入口に関しては、その圧倒的な打席数が絶対的に重要だろうなと思います。その後は、まさにその課題にフォーカスすることや、課題解決された結果の社会価値を最大化することへの合意なども、鍵になってくると思います。