自己理解が導くインサイトで、大企業に勝つべくして勝つ
株式会社ココナラ / 創業者 現・取締役 南章行
当時意識していた会社は『クックパッド』です。世界観がすごく好きで、会社の有りようとして、部分部分参考にしていました。
通常、レシピ事業を立ち上げようと思ったら、有名なシェフや管理栄養士のレシピを掲載しようとします。これは、確かに素晴らしいものだったり、正解っぽいものではありますが、私たちのものではありません。つまり、BtoC的な世界観がそこにはあります。しかし、クックパットでは一般の主婦の人たちが自身のレシピをあげているので、利用者は簡単にレシピを調べることができます。これがクックパッドの価値じゃないですか。ココナラでも、『困ったときにココナラ(ここなら)解決できる』という買い手側の思想を取り入れています。
クックパッドで私が1番素晴らしいなと思ったのは、「主婦の承認欲求」に光を当てた点です。専業主婦の方々は働いていたときと比べて、褒められる機会が圧倒的に減ってしまいます。料理を美味しく作っても家族にしか褒められません。そんなときに、クックパッドにレシピを載せることで、自分の料理が人から参考にされたり、褒められたりします。この喜びがあるから、みんなレシピをあげるし、そのレシピに自然とコメントが集まります。その結果、ユーザーが『クックパッドは私たちのサイト』だとまで思う、そんなサイトが出来上がっています。このレシピをあげる主婦の気持ちを、構造的にココナラでも踏襲しました。
ひとつは、「有名人に頼ることの禁止」です。クックパッドに例えると、もし創業期に有名シェフのレシピがフィーチャーされていたら、そこに「お家で作れる簡単ハンバーグ」はあげられないですよね。つまり、有名人のスキルシェアで集客を企んだ時点でサイトは終わりなんです。我々は創業前からそれを見抜いていました。
何が揃っているとこのビジネスで勝てるのかという「インサイト」を、最初から持っているかどうかが、やはり起業する上で非常に重要です。実は、スキルマーケットを立ち上げたのはココナラだけではなくて、同時期に色々な大企業が参入してきました。それでもココナラだけが残ったのは、こうした本質的なインサイトを持っていたからです。
その通りです。大企業に勝つという意味では、「500円均一」という戦略がとても重要でした。
大前提、モノやサービスの価値は一定ではありません。たとえ、外からはサービスの質の違いがわからなくとも、そこには確実に差があるので、クオリティの高い人は高い値段で売ろうとします。しかし、このマーケットメカニズムの”当たり前”に従った企業がみな失敗しています。
我々は、「レビュー」なしに、このマーケットメカニズムは働かないという本質を見抜いていました。『この人のスキルを買ってよかった』『こんなとこがすごかった』というレビューの数と質が、その人の価値を最も代弁するので、それが溜まっていってやっと、いいレビューの付いた人ほど高く売れるメカニズムが働くんです。
そして、レビューを溜めるためには、トランザクションを起こさなければならなかったので、「500円均一」という戦略にでました。もし仮に、同じ題目で5万円のものと5000円のもの、500円のものが並んでいたとしても、顧客はどれがいいのかわからないので、結論買わないんですよ。安いものがいいともなりません。実際、値段を自由にした競合では、まったく売買が生まれず失敗に終わりました。
加えて、大企業はこの戦略を採ることはできません。なぜならば、まったく”儲からない”から。そして、5年間赤字の事業をよしとしないから。実は、ここがスタートアップの方が強いところで、正直、大企業の上司よりもVCを説得する方が簡単だと私は思います。
実は、頭で考えてインサイトを見つけられるほどセンスのある人はほぼいません。というのも、とりあえず突き進んでみて、必死にもがいた先にしかインサイトは見えてこないんです。まったく事業が立ち上がらなくても、這いつくばってやっているときに、「実はこんなペインがあったのか」であったり、「この角度のソリューションがあったのか」というインサイトが見えてきます。つまり、インサイトは行動からしか生まれません。
私と共同創業者の新明の場合、2人ともNPOをやっていたことが、ココナラを運営するうえでの強力なインサイトに繋がっています。我々は、四苦八苦しながらNPOを立ち上げる中で、給与のために働くのではなく、自分の得意なことで人の役に立ちたいと考える人たちを間近で見ていました。これが、単にインターネットの文脈で『これからスキルが売れるかも』と参入した人たちにはない、そこで働くであろう人たちについての強いインサイトを生み出しています。
突然降ってきたようなものは、おそらく1万人が思いついていることだと思います。しかし、その中でもがいてやり切れる人は、1人か2人しかいません。そして、インサイトはその人たちだけに降ってくるものです。