どんな状況からでも次に行ける、そんな社会に
一般社団法人GrowAsPeople代表理事/角間惇一郎
1983年生まれ。一般社団法人GrowAsPeople代表理事。
夜の世界に関わる女性のセカンドキャリアに関わる課題をデザイン的に解決する試みを行っている。
夜の世界、特に性風俗産業に関わっている、若しくは過去に関わっていた方のセカンドキャリアをデザインする試みを行っていますが、NPOなどは今何やっているか?よりも理念(ミッション)が重要だと思っています。僕らの理念は、「どんな状況からでも次に行ける社会を作る」ということです。いまの日本社会は減点方式による評価が標準となっています。失敗に対して不寛容で、ミス無く生きることがよいとされてます。しかし、何かに失敗したり躓いたりしない人間なんて存在しません。人は人生の中で大なり小なり何らかの失敗に直面します。場合によっては、自分では失敗と思っていなくても、失敗扱いされる状況に巻き込まれたりします。本当は失敗というものはすごい価値があることです。歴史的にも失敗の中から社会を前進させるしくみがデザインされています。しかし、こうした失敗しないことを評価する社会の悪癖が「次に行きたい」という人の思いまで窮屈にしてしまっている場合があります。夜の世界に関わっている方が正にそうなのです。
現在国内で性風俗産業に関わっている女性の数は推計で30万人を超えると言われています。誤解がないよう強調しますが、僕らは夜の業界に関わっていることを失敗だとは思っていません。しかしながら、社会側は夜の世界に関わっていることを失敗扱いし、分断された“あちら側の出来事”という認識を持っていることは事実です。このため、夜の世界に関わっている人が次にいこうとするときにも窮屈さを感じる瞬間が多いのです。僕らはこの課題を解決するしくみをデザインし組織の理念を果たしたいと考えています。
学生時代って、自分という存在が社会の中でふわっとしていることが不安で、“何者か”にならなければと焦ったりしますよね。そんな時、若者が飛びつく対象って周囲の賛同が得やすい“社会貢献”だったりします。僕もそうでした(笑)。大学1年の頃、青年海外協力隊のポスターを見て、安易に飛びついています。しかし、いざコトを起こすにも、自分には何のスキルもないことにすぐに気がつきます。人が誰かの役に立つためには当たり前ですが、何らかのスキルが必要です。
できるだけ早くなんらかのスキルを身につけたいと思い、目をつけたのが“建築”のスキルを身につけることでした。勢いで大学中退し夜間の専門学校に通い出します。昼間はデザイン事務所でアルバイト、夜は専門学校といった感じでした。スキルを身につけ「卒業したら途上国支援に行く」と周囲に宣言していました。まあ、社会貢献を公言することで不安定な自分をかたちづくっていたのです。夜間の専門学校というところは社会人の方が多く通っており、コネであっさりと建築関係の会社に就職することができました。前述のとおり浮ついた考えを持っているもので、働くことに集中するのではなく、仕事と並行し地元埼玉でまちづくりNPOなんかを作ってしまいます。この時期は行動がブレまくっている極めて浅はかな時期なのですが幸運なことに、これが有るきっかけをもたらします。
2010年7月まちづくりのイベントを主催しました。イベント終了後、ある男性から話しかけられます。そしてその彼から「自分は風俗店のオーナーをしているのだ」と打ち明けられます。今までNPOが主催するイベントに顔を出してくる方っていわゆる「優しそうな方」ばかり。当時の僕の交友関係も「途上国支援をしたい」と周囲に公言するような人ばかりです。風俗に関わっている方との交流などありませんでした。正直風俗をやっていると聞いただけでビビりました。しかし、なぜ彼がこんなイベントに来てくれたのか気になって尋ねました。すると彼は「もう5年以上、風俗に関わる女性たちの話を聴き続けていると、今の社会に危機感を感じずにはいられない。だから今日来ました。」と語ったのです。ものすごい衝撃でした。頭のなかで、どこかアチラ側扱いしていた世界の中の人が、今の社会に存在する課題に危機感を抱いていたわけですから。その数日後、大阪二児遺棄事件という事件が発生します。母親が夜の世界に深く関わっていたこともあり、どこかゴシップ扱いされた事件となります。当時の自分を含め、社会貢献に関心を持つ方は多く存在していました。しかし、所謂アングラと呼ばれる領域については直視することを避けている。何か事件が起きたとしても夜の世界の出来事だからと処理してしまう。
一方で、夜の世界の中に社会に対して危機感を抱いている方が存在している。とてつもない違和感を感じました。
「気づいたヒトの責任」という言葉がNPO界にはあります。この違和感は放置できないと考え、会社を辞め現場を知るための活動を始めました。これが経緯です。