起業家らしくないからこそ見えた、起業家に必要なこと
電脳株式会社 / 室井 亨
当時はベンチャーの雄といわれたパソコンメーカーの会社にいました。
そこでは経理の募集をしていたので、私も経理の勉強をして、いずれは税理士になって独立しようと思っていたんですが、人事の人に『いや室井さんはまだコン ピューター業界のことをよく知らないでしょう。だから営業の経験をして業界や市場の勉強して下さい』と言われまして。なくなく営業部に行くことになってし まったんですけど、私はもともと林野庁に入り森林の生態を考えながら木ともに一緒に生きていたかったのに、人に頭を下げ媚を売るなんてなんでそんなことを と(笑)葛藤の連続でした。結果1ヶ月くらいで十二指腸潰瘍と胃潰瘍になっちゃったね。
そうですね、人に気を遣うのが嫌だったんでしょうね。十二指腸はストレスに弱い器官ですからね。
胃も濃い胃酸が出ちゃったりすると数時間で穴あいちゃったりしますし。幸いにも何とか、薬だけで散らすことができて、ちょっと考える時間が取れたんですけ どね。営業っていうのは、みんなに頭下げて、四方八方にいい顔しなきゃいけないもんだって勘違いしてたんだよね。それでこれからどうしようかな、なんて 思っていた時に気がついたんです。そういえば野球の選手だって10球のうち3球でも打てば打率3割でリーディングヒッターになれるんだと。だったら自分は 2割6分8厘くらいでいいや、なんて思えるようになりました(笑)10人の人に気に入られる必要なんてないんだと。
自分が好きな人にだけ気に入ってもらえればいいやなんて納得したら、一変に気が楽になって、まあ残り5ヶ月無難に過ごそうかなんて思っていたらある時ひど い小間使いされましてね。土砂降りの風の強い日『室井君、これ大事な書類だから持っていって!』なんて言うから私もなくしたらいけない、小切手くらいのつ もりで大切に抱えて持っていったんですけど、無事届けてみたら納品書と受領書だけぱらっと出てきて、はんこポンなんて押されて『ご苦労様』なんて言われま してね。
もう屈辱を覚えましたね(笑)見習いとは言えこんな使い方されるのは納得できねぇと。そこで1台や2台の注文を取ったら、さすがにこんな使わ れ方はしないだろうと思って、コンピューター系の雑誌をかたっぱしから全部読んで、マニュアルは大事なところに赤線引いて、それを全部ノートにまとめて、 模造紙にも書いて、九九を覚えるように天井に貼って、トイレにも貼って(笑)そしたら営業に必要な知識は暗記しちゃいまして、それからは沢山の会社に訪問 しました、特に大企業のシステム室へ売り込みに行くようになりました。いつの間にか何でもござれになってましたね。
そしたら当時は安価なスーパーミニコンなんて対抗機種もなかったことも手伝ってガンガン売れちゃいましてね、しまいには32ビット機コンピューター販売売上が全社でトップになり、本社の講堂で表彰されちゃいました。
それから何年か暫くして、ベンンチャー企業にありがちなズサンな財務体質もあり、ある時から会社がちょっとおかしくなってきて、誰でも知って いる大手メーカーに吸収されることになってしまいました。社員には2パターンいたんです。『大手に吸収されたら、親かた日の丸で安泰だ!ここにずっといよ う!』と喜ぶ人と、『俺はベンチャー精神を持つ会社に入ってきたのに、親会社の課長代理くらいの人に取締役になられて威張られても、全然おもしろくもない だろう』と辞めていく人と。
で、私は上司に威張られるくらいなら自分の飯代くらい自分で稼いでやろうと思ってやめちゃいました。
別に志が高かったわけでもなく、ただ納得できない嫌な上司に使われたくなくて独立しただけなんですよね。