どん底を見るのも悪いもんじゃない
料理家・フードコーディネーター / SHIORI
「L’atelier de SHIORI」は、友達の家に招かれたような感覚で料理を学べる、アットホームな雰囲気をコンセプトにしています。
日本の料理教室用のスタジオは、家庭科室の延長のような、無機質なキッチンが多いと思います。私はカフェのような居心地の良さと、リラックスしてもらえる空間を作りたいと思いました。そのため、アトリエのインテリアには木の家具などを使い、温かみのあるものに仕上げました。
22歳から料理本を出し始め、25歳になる時には、発行部数が100万部を超えました。ありがたいことに、私は他の料理家さんよりも色々なことを早く経験させてもらった気がしました。
でも25歳を過ぎると、自分にとって『彼ごはん』が重荷になってきたんです。どこに行っても、「『彼ごはん』のSHIORI」と言われてしまう。もう自分は『彼ごはん』を超えることはできないのだと思いました。その頃から、レシピ本の出版ではない、新たな別のレールを敷きたいと考えたのです。悩みもがいた末に思い立ったのが、思い切って海外の家庭料理を勉強することでした。
不安を抱えながら海外に行ってみると、自分の悩みが物凄くちっぽけなものだったことに気づかされました。料理教室や料理学校では、先生も生徒も境なくアットホームな雰囲気で、料理を楽しんでいました。先生が一方的に料理を教えるのではなく、生徒からもどんどん質問をしたり、レッスン中に味見をしたり…。そこで、「受け身ではない料理教室」というものに初めて出会いました。この経験が鮮烈で、私もこういうことをやってみたいと思うようになったのです。
そうですね。海外でああいった雰囲気の料理教室を体験しなければ、自分の料理教室を開くなんてことは考えもしなかったと思います。日本は、「先生や目上の人を敬いなさい」という文化を持っています。それはとても良いことなのですが、私はその文化のために、料理教室でさえも先生と生徒の間に距離感があると感じていました。そして海外での経験を経る中で、もっとアットホームで積極的参加型の教室をやりたいと強く思うようになったんです。
全然違いますね!アトリエを開くまでは、企業が主催する料理教室に講師として呼ばれる立場でした。そこでは、レシピを考えて、生徒さんに伝えることが私の仕事でした。しかし、自分のアトリエを構えた以上は、全ての責任が自分にあります。例えば、外の料理教室で問題が起こったとしても責任は主催者に問われますが、自分のアトリエで起こったことは、全責任が私にあります。なので、実際にはじめてみると想像を超える不安とプレッシャーがありました。
料理教室は、ブログや本などと違って実際に生徒さんをお迎えするので、その準備や片付けなどを考えると、普段やっている仕事の中で一番大変です。でも、生徒さんの喜ぶ顔が見られて、「おいしい」という声が直に聞けるのは、一番の励みになります。準備で大変だったことも吹っ飛ぶくらい、「やっててよかったなあ」と思えます。責任があって不安があるぶん、やりがいもとても大きいです。