自分たちにしか勝てない土俵をつくる 〜Chatworkからkubellへ〜
株式会社kubell / 代表取締役CEO 山本正喜
電気通信大学情報工学科卒業。大学在学中に兄と共に、EC studio(現 株式会社kubell)を2000年に創業。以来、CTOとして多数のサービス開発に携わり、Chatworkを開発。2011年3月にクラウド型ビジネスチャット「Chatwork」の提供開始。2018年6月、代表取締役CEOに就任。
我々、株式会社kubellは、大きくはビジネスチャットのChatwork事業を中心に行っています。電話やメール、ファックスではなく、チャットを用いることで、社内のコミュニケーションを効率化するツールを提供しています。ビジネス向けのものなので、個人向けのメッセージングツールと違って、タスク管理の機能があるのが特徴です。他のビジネスチャットとの大きな違いとしては、メインターゲットが中小企業である点があります。主に、従業員300名以下の中小企業が、我々のメイン顧客なので、そういった方々にとって使いやすいユーザーインターフェースになっています。また、1つのアカウントで社外の何社でも同じIDでやり取りができるというのが、他のビジネスチャットにはない特徴です。
以上が、ビジネスチャットの事業になるのですが、そのビジネスチャットを軸に事業を拡大しようと考えています。それが今回の社名変更のきっかけにもなってはいるのですが、ビジネスチャットのチャット経由でお客様の業務をお預かりして、お預かりした業務の中でDXを進めていく「BPaaS」と呼ばれる事業になります。
そうですね、ユーザー数が一定規模になったというのが大きいかなと思います。
まだビジネスチャットの国内普及率は、19〜20%ぐらいで、8割ぐらい白地のマーケットになっている状況です。もちろん、ここを開拓し続けるというのも、ひとつ選択肢としてあるのですが、今ユーザーさんが700万人ほどいらっしゃるので、その顧客群に対してプラットフォームビジネスができる規模になってきたんですよね。
そこで、実は5. 6年前くらいから、『Chatwork』のお客さんに対して、他のプロダクト・サービスを売ってみるということにチャレンジしていたのですが、かなり苦戦を強いられていました。そんな中、「BPaaS」にだんだん光が見えてきて、社会的意義の大きさとか、AIのトレンドというのも含めて、『ここで勝負しよう』ということになりました。
具体的に説明すると、中小企業で効率よくユーザー獲得できて、かつコミュニケーションチャネルにもなる『Chatwork』を持っていないとできない戦略を採っているんです。同じように、中小企業における「BPaaS」に参入する企業があってもいいとは思うのですが、莫大な顧客獲得コストがかかるので、そういった面では我々に圧倒的な優位性があると思います。
そうですね。スタートアップのような、アセットを持たないゼロベースでの起業は、かなり難易度が高いのですが、1つでも強い事業を作ってしまえば、それなしにはできない事業を派生させることができるので、自分たちしか勝てない土俵を作ることができて、より勝ちやすくなります。
初期の段階から、自分たちの持っているアセットはないと思うのですが、創業メンバーのケーパビリティやキャリアみたいなものも、事業に強く作用すると思います。例えば、お医者さんが医療事業で独立すると、医療のわかっていない人が同じように参入しても負けないという話もあるので、基本的には「勝てる土俵を作って勝負する」というのが、新規事業セオリーになります。我々でいうと、ビジネスチャットの圧倒的なプレイヤーという唯一無二のポジションがあるので、それを持っていないとできない事業をやるというのが本筋です。
「BPaaS」の事業において採用や投資、事業提携でお声掛けをすると、説明コストが高いんですよね。『なんでビジネスチャットの会社がそんなビジネスをやろうとしてるんですか?』といったように、理解されにくいということが多々ありました。要は、「Chatwork」という社名だと、ビジネスチャットのイメージが強すぎるわけです。『Chatwork』1本だった頃は、むしろプロダクト名と社名が一致した方が、広報とマーケティングのコストを一本化できて良かったのですが、事業が多角化していく中で、それが枷になってしまうシーンが増えてきたので、もう少し抽象度の高い社名に変えようと踏み切りました。
あとは、社名変更してまで何をしたいんだっけということを、社内外問わず、皆に思ってもらうきっかけになるんですよ。社名変更は頻繁にできない分、「背水の陣」のようなものなので、その認識を強めるものだと思っています。