経営には10人の壁、50人の壁、100人の壁があると言われます。これは、従業員が増えるに従って、経営者が壁にぶつかることを例えたものです。では、起業して数年経ち、ちょうど経営に慣れてきた頃になって、以下のようなことを感じている経営者はいないでしょうか。

「メンバー数は増えているのに業績の伸びが鈍い」

「メンバーは業務に慣れてきているはずなのに、なんだか元気がない」

「会社が静かなように感じる」

もし該当するなら、組織風土を改善すべきというサインかもしれません。

本記事では組織風土とは何なのか、その重要性や意義、良い組織風土を築くためのポイントについて解説します。会社のさらなる拡大や課題解決に向けて、ぜひ参考にご覧ください。

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組織風土とは?

組織風土とは字のごとく「特定の組織における風土」であり、従業員の思考や行動に影響を与える環境すべてを指します。とはいえ、いまいちイメージが持ちにくいという方も多いでしょう。

「風土」という言葉を辞書で引くと、以下のような説明が書かれています。

  • その土地の気候・地味・地勢などのありさま
  • 人間の文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境

つまり風土とは、組織における土台となるようなもの全般を指すわけです。土台ですから、一朝一夕に作られるわけではありません。組織ができた当初からの慣習、組織長が変わってもなお受け継がれているやり方や考え方など、すべてを指しています。逆に考えると、土台だからこそ組織の行く末、あるいは目標を達成できるかどうか、顧客満足度をどれだけ高められるかといったことにも、大きな影響を及ぼしていると言えるでしょう。

風土は長い時間をかけて培われるものでありながら、経年によって変化することもあります。そのため、経営者であれば会社という組織の風土を、あるいは部長であれば部内の組織風土を常に気にかけておきたいところです。

では、具体的にどのような点を気にかければ良いのでしょうか。以下でハード面、ソフト面、そしてメンタル面の3タイプに分けて、組織風土の構成要素を具体的にご説明します。

1.ハード面

組織の理念や方針、構造や人材配置など、明文化されているものをハード面と呼びます。組織風土を「氷山」に例えて解説することがありますが、この場合、海上に出た部分がハード面です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

<ハード面の例>

  • 理念やビジョン
  • 就業規則
  • 人事評価制度
  • KGIやKPIポイント
  • 組織の構造
  • 事業内容や商品
  • 業務内容やツール
  • 会議における資料

ハード面は3タイプの中で、経営サイドがもっとも関与しやすいものかもしれません。そのため、組織風土を改善しようと考えた場合、まず着手しがちなのはハード面なのではないでしょうか。

2.ソフト面

ソフト面とは氷山で言えば海中部分、つまり見えないもの全てを指します。具体的には、以下のようなものです。

<ソフト面の例>

  • 組織におけるローカルルール
  • チームワーク力
  • メンバー同士、組織長とメンバー間の人間関係
  • 各人のモチベーション

例えば、ちょっとしたミスを起こしたときに部下が上司に対面で報告に来るか、メールやチャットツールで知らせるのか、あるいは各人で対処して特に共有しないのか。こうした報連相のルールも、具体的に明文化している企業は少ないものです。しかし、こうしたソフト面は組織の雰囲気、あるいは成果や結果を大きく左右します。

ソフト面はハード面の比でないほど膨大です。そして、表から見えないからこそ手を加えにくい部分かもしれませんが、経営において非常に重要な要素となります。

3.メンタル面

ソフト面の中でも、心理的なものをメンタル面と呼びます。具体的な内容は、以下の通りです。

<メンタル面の例>

  • 柔軟性があるか
  • 年齢やポジション、在籍年数に関わらず意見を述べる姿勢があるか
  • メンバー同士で相談したり助け合ったりしているか
  • 自分の業務範囲を超えてでも最適解を見つけようとしているか

昨今、多くの経営者が抱えがちな悩みのひとつに、「社員が自走してくれない」というものがあります。これもソフト面に含まれ、とりわけメンタル面との相関が大きいと言えるでしょう。

例えば、社員が指示された業務だけこなそうというメンタルなら、いくら完璧に対応しても100%の成果しか出せません。しかし、自ら考えて行動したなら、現場だからこそわかる視点や経験を生かし、経営サイドの想定以上の高いパフォーマンスを発揮するかもしれません。

なぜ組織風土の改革が求められているのか

組織風土は古くから学問として存在し、研究者の間では1960年の終盤から1980年代にかけて注目されました。しかし、一般にここまで浸透したのは2010年以降でしょう。特に2020年代に突入すると、コロナ禍によるパンデミックやChatGPTをはじめとしたAI勃興、加えてロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争などによって短期間で世界が大きく変化しました。このことから、本格的にVUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)時代に突入したと感じている人は多いはずです。そして、時代が大きく変わるときだからこそ、組織風土も時代に合わせてチューニングする必要に迫られています。

また、働き方改革関連法が2020年から施行されたことも、組織風土の改革が求められている大きな要因と言えるでしょう。2024年4月の改定では労働者を守る側面が強化され、長時間労働の是正や有給休暇の取得促進がポイントとなっています。しかし、そのしわ寄せが企業あるいは組織に及んでいることは明らかです。

労働時間が減っても同等以上の成果を上げ続けるには効率化が欠かせませんが、結果としてコミュニケーションが希薄化している組織が多く見られます。コミュニケーションの質や量が減れば、組織風土は少なくとも良い方向へ向くことはないでしょう。

ダイバーシティの取り組みが活発化していることも、組織風土の改革が求められる要因として考えられます。例えば男女ともに育児するとなれば、「会議が延びたら育児中の女性は帰って良いが、男性は最後まで残る」といった風潮も変えなければなりません。これは、会議に残留するかどうかの話に留まりません。さまざまな観点で見直す必要があり、「改革」が求められている企業が多いのです。

注目されるウェルビーイング経営とは

組織風土を改革するうえで、昨今は「ウェルビーイング(well-being)経営」が注目されています。ウェルビーイング経営が目指すのは、従業員が肉体的にも精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態です。社員の幸福度が高まるほど業績が向上するという考え方で、働きやすさや働きがいを高めるための施策が重要だと言われています。

働きやすければ不必要に緊張することなく、高いパフォーマンスを発揮できるでしょう。周囲に相談しやすいため、課題克服のトリガーを見つけやすくなります。また、働きがいがあればモチベーションは上がり、エンゲージメントの向上にもつながります。そのため、離職率は下がり、知識や経験が組織内に蓄積されていくでしょう。

アステリア株式会社の発表した調査結果によれば、2023年にウェルビーイングに取り組む企業は約5割だったとのこと。合わせて、ウェルビーイングに積極的な企業は3年前と比べて、売上高や営業利益が上昇しているとも示されています。

改革のカギは組織内の円滑なコミュニケーション

社員が自ら考えて行動するには、組織のミッションや目標に対して「当事者意識」を持ち、「自分軸」で考えるという前提が必要です。この「当事者意識」と「自分軸」を養うためにも、組織内のコミュニケーションが大切と考える経営者は少なくありません。実際、株式会社コーチ・エィが2023年に発表したアンケート調査では、組織が「継続的に業績を向上させる」ために最も必要な組織風土について『活発な意見交換』であるとの結果が出ています。

では、どうすればコミュニケーションを活性化できるのでしょうか。米国のAmazon社は2025年1月からリモートワークを廃止し、原則として週5日の出社を義務づけると発表しました。このほか、地方で社員研修を行う企業も増えています。

組織の状況は異なりますし、組織あるいは組織風土も常に変わり続けるものです。そのため、改善に寄与しそうだと思われるものから着手し、検証を続けながら常にPDCAを回すしかありません。

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組織風土を改革するメリット

では、組織風土を改善すると、具体的にどういったメリットがあるのでしょう。ここでは、改革後に着目してご説明します。

企業の方針やビジョンを全社で共有できる

特にハード面が上手く組織内に浸透するよう改革できると、各メンバーが組織について正確に理解できるようになります。その中には、企業の方針やビジョンも含まれるでしょう。企業全体でハード面の理解が進めば、全社で共通認識を持つことができ、目指す先へ向かうスピードが高まります。また、各人の認識のズレが矯正されるため、スタッフ間やスタッフ・マネージャー間の対話がスムーズになる点もメリットです。

社員の人間関係が良好になる

例えば、「失敗を非難する風潮」が「失敗が共有されたら全員で予防策を議論する風潮」に変わる。あるいは「効率重視でパソコン作業に没頭し、目を合わせず挨拶する風潮」が「相手の目を見てにこやかに挨拶する風潮」に変わったら、社員同士の人間関係は良好になるはずです。人間関係が良くなれば、仲間や上司、あるいは部下への信頼も高まります

仕事に対するモチベーションが高まる

組織が何を目指しているのか理解でき、良好な人間関係が築けていれば、自分の意見を述べやすくなります。また、コミュニケーションを通じて気づきや学びがあれば自己効力感を得られやすく、仕事に対するモチベーションが高まるはずです。

会社に対する満足度が向上する

仕事に対するモチベーションが高まって充実感を覚えると、会社に対して満足度が上がるものです。そして、満足度が上がるほど、さらに仕事へのモチベーションが高まる好循環が始まります。

生産性および売上拡大につながる

上述したようなメリットを得られると、先に取り上げた「当事者意識」と「自分軸」が自然と養われます。社員が自ら考えて行動できるようになるため、経営やマネジメント層の想像を上回るパフォーマンスが期待できるでしょう。生産性が上がり、売上高や営業利益の拡大にもつながります。また、社員一人ひとりのメンタルが安定しているため、思考が整理されやすく、結果的に業務効率も上がります。

企業風土、組織文化、社風とは何が違う?

組織風土と類似した言葉に「企業風土」「組織文化」「社風」があります。似た意味ではありますが、組織風土の改善に取り組むのであれば、それぞれの違いは正確に理解しておきましょう。

企業風土との違い

組織風土と企業風土は、どちらもメンバーに影響を与える環境であることに違いありません。しかし、影響要因となるものの範囲が異なります。

組織風土は部署や部門、チームなどを含む、さまざまな形態の組織が対象です。その時々で言及する対象が変化し、例えば従業員が独自に立ち上げた有志チームなども、風土について語るときは「組織風土」と呼ぶのが一般的です。

一方、企業風土は会社全体の風土を意味します。社員が数名だったり部署やチームがなかったりする会社では、組織風土と企業風土が同義になることもあるでしょう。

組織文化との違い

組織風土と組織文化の違いは「作られるプロセスが違う」「組織風土はプラスにもマイナスにも傾くが組織文化はプラスにしか傾かない」など、さまざまに議論されるところです。しかし、どれも分かりにくく、どうすれば良いか見えないというのが本音かもしれません。これについては、「風土」「文化」という言葉の関係性に着目すると、分かりやすくなります。

「 □□な気候(風土)だから、△△の文化が育まれた」

これは、因果が成立しているのが理解できるでしょう。

しかし、逆だと以下のようになり違和感があります。

「 △△な文化があるから、□□な気候(風土)になった」

つまり、組織風土の上に作られるのが組織文化なのです。そのため、組織風土をもともとの性格、組織文化を成長とともに獲得した価値観に例える人もいます。

組織風土を改革したい場合、課題に対する原因を1〜2階層さらに踏み込んで考えると、「組織文化」ではなく「組織風土」にアプローチでき、より良い改革が実現できます。

例えば、メンバー間におけるコミュニケーションの希薄さが課題だからと言って、ただコミュニケーションの場を新設するのは早計かもしれません。対策を考える前に、まずはコミュニケーションが少ない原因が何なのか深掘りしましょう。もしかしたら、上司の圧力が強いため、萎縮しているのかもしれません。あるいは、目標設定と各人の実力とに大きな差があり、目の前のことで精一杯な状態に陥っている可能性もあるでしょう。原因によって、取るべき対処法はまったく違います。

社風との違い

組織風土や企業風土が土台である一方、社風は会社の雰囲気や空気感など表層的、あるいはもっとも感覚的な部分を指します。例えば、以下のようなものが社風です。

  • みんな生き生きしている
  • 意見しやすい
  • 遅い時間まで働かなければならない雰囲気 など

社風にはポジティブなものだけでなく、ネガティブなものもあります。

組織風土改革の4ステップ

実際に組織風土の改革へ着手する際には、以下のようなステップに従って進めていくと良いでしょう。

  1. 現状分析と課題抽出
  2. 具体的な行動指針・計画の策定
  3. 改革の必要性や方針の周知
  4. 改革の推進

各ステップについて、詳しく解説します。

1.現状分析と課題抽出

まずは、現在の組織風土がどのような状況なのか把握します。そのための手段として、社員へのインタビューやアンケート等による調査が有効です。また、複数名の社員が集まり、自由に意見を述べられるディスカッションの場と設けるなども良いでしょう。

現状が把握できたら、どのような組織風土が理想なのかイメージを明確化し、改善すべき課題点を抽出します。

2.具体的な行動指針・計画の策定

改革に向けて、何をすべきかの行動指針を明確にします。その際、後述するようなフレームワークの活用が有効です。課題に応じて、例えば以下のような内容が考えられるでしょう。

  • 経営理念、ビジョン等の浸透化
  • コミュニケーションの強化
  • 部署間の関係性、信頼性の強化
  • 人事評価制度の変革

行動指針が定まったら、実際の行動計画を策定します。先にご紹介した「ハード面」「ソフト面」「メンタル面」のどこに着手するのか、具体的な手段や期日と共に明確化することが大切です。

【ポイント】リーダーシップの改善から始める

行動計画を策定するうえでは、リーダーシップの改善から着手することをおすすめます。なぜなら、ただ仕事の成果のみを求めるのではなく、メンバーとの人間関係や信頼性を重視するリーダーの方がメンバーのモチベーションを高め、結果的に良い組織風土を生み出しやすいと考えられるからです。リーダーが良い方向に変わる姿を目にすれば、メンバーの改革に対する好感も高まるでしょう。

3.改革の必要性や方針の周知

なぜ組織風土の改革に取り組むのか、その必要性を社員が十分に理解できるよう説明の機会を設けましょう。改革を成功させるには、リーダーだけでなく社員全員が同じ方向を向き、高いモチベーションを持って取り組むことが重要です。そこに納得感がなければ、改革は思うように進みません。同時に、どのような方針に沿って改革するのかも周知させてください。

4.改革の推進

策定した行動指針・計画を実行します。このとき、適宜状況を確認しながら、必要に応じて軌道修正することが大切です。

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組織風土の改革に役立つフレームワーク3

組織風土の改革に初めて着手する際には、どういった思考のステップを経るべきか迷うかもしれません。そうした場合は、以下のようなフレームワークを活用すると良いでしょう。

7S

「7S」は、マッキンゼー・アンド・カンパニーのウォーターマン氏とピーターズ氏が開発したフレームワークです。ハード面に当たる3つの経営資源「戦略(Strategy)」「組織構造(Structure)」「システム(System)」と、ソフト面に当たる4つの経営資源「共通の価値観(Shared Value)」「スキル(Skill)」「人材(Staff)」「組織風土(Style)」に着目し、現状と理想の状態とのギャップを診断します。課題の大小、あるいは達成率が明確になるため、施策の優先順位を付けたいときにも有用です。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)

「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」は、以下の3つを言語化するためのフレームワークです。

  • Mission:組織の存在意義や使命
  • Vision:組織が目指す姿
  • Value:提供する価値や行動指針

人が少ないうちは、経営者やマネージャー自身が思いを直接語ることでメンバーにこれらを浸透させられます。しかし、人数が増えると、明文化しなければなかなか全員で同じ方向は向けません。組織の方向性を明文化して示すことで、大きな組織も前進しやすくなります。

OKR(Objectives and Key Results)

「OKR(Objectives and Key Results)」は、インテルの元会長兼CEOであるアンディ・グローブ氏が提唱したフレームワークです。「Objectives and Key Results」の略で、それぞれ以下のような意味を持ちます。

  • Objectives:目標
  • Key Results:主要な成果

まずは企業の「目標」と、目標を達成するためのマイルストーンとなる「主要な成果」を設定します。そして、部署のOKR、チームのOKR、個人のOKRと順に設定していくことで、組織と個人の方向性が統一されるとともに、スピーディーな目標達成を可能にします。達成度の進捗確認とOKRの再設定を繰り返すことで、目標をブラさずにPDCAを回し続けられる点も魅力です。

組織風土の改革で留意すべきポイント

組織風土の改革に取り掛かる際、事前に把握しておくべきポイントについて解説します。

時間がかかる

組織風土は組織文化や社風の土台に当たる部分であり、長い時間をかけて培われます。そのため、一朝一夕で変革できるようなものではありません。時間をかけて繰り返し改革を行い、組織の雰囲気の変化を感じたりメンバーの様子を見たり、ときにアンケートや聞き取りなどで意見を集めながら試行錯誤して進めます。ある程度の時間をかけ、少しずつ改善されていくものだと心得ておきましょう。

悪い組織風土が定着しないよう注意する

良い組織風土があれば、悪い組織風土もあります。そのため、改革の結果がマイナスに働く可能性がある点に注意してください。

例えば、コミュニケーションを活性化させようと考え、若手が指揮を取る勉強会を企画したとしましょう。若手の頑張りが中堅以上のメンバーに認められ、社員同士の会話が増えれば、良い組織風土の醸成につながったと言えます。しかし、仕切りが悪いなどの意見が出て若手が落ち込んでしまったら、コミュニケーションはそれまで以上に減るかもしれません。これでは、むしろ逆効果です。

どんなときでも良い方向にだけ向かう手法はありません。改革を施したことで満足せず、結果をしっかり振り返りましょう。悪い組織風土は定着しやすく、一度定着すると払拭しにくいものです。マイナスの状況が生まれそうなら、すぐ取りやめてください。

定期的な評価と見直しを行う

組織風土の改革が良い作用を生んでいても、ずっと同じやり方で通用し続けるとは限りません。例えばメンバーが変わったり、取引先で変化があったりすれば、どうしても影響を受けでしまいます。あるいは、社内の他組織との兼ね合いで変容する部分もあるでしょう。

そのため、組織風土の改革では定期的に確認と評価を行ってください。必要であれば、方針を見直しましょう。

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組織風土改革の成功事例

組織風土の重要性が世の中に浸透するにつれて、すでに多くの企業が組織風土の改革に着手しています。ここで、具体的に3つの成功事例をご紹介しましょう。

キリンビール株式会社

2015年、業績不振だったキリンビール株式会社の社長に就任し、「布施改革」と称して組織風土改革を主導したのが布施孝之氏です。現場を含めた社内で変革のスイッチについて議論した後、2017年10月の全社集会で会社の変革を宣言しました。その後、全国の支店や工場を行脚して「お客様のことを一生懸命考える風土にしよう」「とにかくお客様を判断基準にする会社になっていこう」と伝え続けた結果、2020年にビール類市場で11年ぶりのシェアトップの奪還に成功しています。

カインズ株式会社

カインズ株式会社は2021年、経営環境と求人市場の変化を課題とし、従業員が主体的に行動しキャリア面で自律する組織風土にするべく改革を開始しました。「DIY CareerPath®︎」「DIY Learning®︎」「DIY Communication®︎」「DIY Workstyle®︎」「DIY Well-Being®︎」という5つの柱は、自分でつくる楽しさが実感できる「DIY」の良さを、組織文化にも取り入れようという目的で設置されたものです。自律したキャリアパスを実現するために社内公募制度を導入し、自分らしい働き方を叶えてほしいという考えから、社内副業制度や兼業制度を取り入れました。。従業員が自ら考えて動き、発信するようになり、企業へのエンゲージメントスコアもアップしました。その結果、ビジネスにも好作用を生み出しています。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社は2001年に「人材育成元年」を宣言し、全社教育の見直しに取り組み始めました。以降、ポストフラット化の人事組織改革の実施や、人材育成や人事制度の刷新、職場体制の見直しにも着手。さまざまな人材が個性を発揮できるよう、「教え、教えられる職場風土」の再構築を目指して小さい集団にこだわった組織作りも実施。10〜20名程度のグループをいくつかの小集団へゆるやかに分け、先輩・後輩間の教育を強化しました。あくまで「ゆるやか」な区分けとすることで、意思決定のスピードを下げることなく組織風土の改善を実現した事例です。なお、この変革は現在も続いています。

まとめ

組織風土とは、従業員の思考や行動に影響を与える環境すべてを指すものです。企業理念など明文化されているハード面と、コミュニケーションやモチベーションといった目には見えにくいソフト面に分類されます。いずれも長年にわたって培われてきたものでもあり、すぐに変革できるものではありません。

しかし、組織風土に良い変革をもたらすことができれば、メンバーの目線が揃ってモチベーションが高まります。また、組織へのエンゲージメントも高まるため、業績の向上にも大きく寄与するでしょう。

ただし、変革を遂行しただけで満足せず、結果をしっかり注視しなければなりません。悪い作用をもたらしている場合は、一刻も早く取りやめることが重要です。たとえ良い作用が見られても、定期的に再評価し、適宜チューニングする必要があります。

良い組織風土であることは、規模の大小を問わず、企業や組織が健全な状態を保つための必須条件です。課題解決やさらなる躍進に向けて、まずは組織風土の見直しから始めて見てはいかがでしょうか。

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リーダーズアカデミー学長 嶋津良智
監修 / 嶋津 良智
日本リーダーズ学会
代表理事

28歳で独立・起業し代表取締役に就任。M&Aを経て2004年52億の会社まで育て株式上場(IPO)を果たし、2005年『リーダーズアカデミー 』を設立。組織づくりに特化した、日本一のビジネススクールに成長。
2007年シンガポールへ拠点を移し、講演・企業研修・コンサルティングを行う傍ら、顧問・社外役員として経営に参画。業績向上のための独自プログラム『上司学』が好評を博し、世界15都市でビジネスセミナーを開催延べ53,000人以上のリーダー育成に携わる
2013年 日本へ拠点を戻し、「上司学」をさらに進化させた新メソッド「組織づくりの12分野」を開発。世界で活躍するための日本人的グローバルリーダーの育成に取り組む。

主な著書としてシリーズ100万部を突破しベストセラーにもなった『 怒らない技術 』をはじめ『 あたりまえだけどなかなかできない 上司のルール 』、『 だから、部下がついてこない!』などがあり、累計150万部を超える

ビジネスバンク 取締役 黒田訓英
著者 / 黒田 訓英
株式会社ビジネスバンク
取締役

中小企業診断士

早稲田大学商学部の講師として「ビジネス・アイデア・デザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL」の授業にて教鞭を執っている。社長の学校「プレジデントアカデミー」の講師・コンサルタントとして、毎週配信の経営のヒント動画に登壇。新サービス開発にも従事。経営体験型ボードゲーム研修「マネジメントゲーム」で戦略会計・財務基礎を伝えるマネジメント・カレッジ講師でもある。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。日本ディープラーニング協会認定AIジェネラリスト・AIエンジニア資格保有者。経済産業大臣登録 中小企業診断士。