『成功するまで、失敗し続ける“信念”はあるか?』
株式会社ispace / 代表取締役CEO&Founder 袴田武史
撮影:2023年9月14日 ispace本社にて
子供の頃に観たスターウォーズに魅了され、宇宙開発を志す。ジョージア工科大学で修士号(航空宇宙工学)を取得。大学院時代は次世代航空宇宙システムの概念設計に携わる。外資系経営コンサルティングファーム勤務を経て2010年より史上初の民間月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参加する日本チーム「HAKUTO」を率いた。同時に、運営母体の組織を株式会社ispaceに変更する。現在は史上初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を主導しながら月面輸送を主とした民間宇宙ビジネスを推進中。宇宙資源を利用可能にすることで、人類が宇宙に生活圏を築き、地球と月の間に持続可能なエコシステムの構築を目指し挑戦を続けている。
我われispaceは宇宙スタートアップ企業として「Expand our planet. Expand our future. ~人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ~」をビジョンに掲げ、月面資源開発に取り組んでいます。日本、ルクセンブルク、アメリカの3拠点で活動し、月への高頻度かつ低コストの輸送サービスを提供することを目的としたランダー(月着陸船)と、月探査用のローバー(月面探査車)を開発しており、民間企業が月でビジネスを行うためのゲートウェイとなることを目指し、月市場への参入をサポートするための月データビジネスコンセプトの立ち上げも行っています。
中長期的には、月の水や資源の利用ができるような産業を作っていきたいと考えていて、地球と月の間の経済圏、エコシステムをつくることで、人間が宇宙の生活圏を築いていく世界が実現できるのではないかと考えています。
Google Lunar XPRIZEという民間による最初の月面無人探査を競う国際レースに出るために法人を作ったのがきっかけです。法人を作るにあたって、合同会社で登記しました。4人のボランティアメンバーを中心に、忙しい中、週末の時間を使っていました。そこで、登記の書類を作っていた時に、社長を決める必要が出てきて、誰がやるんだとなりました。
その時、自分も別にリーダーシップを発揮していたわけではなく、4人で仲良くやっていたので 誰も手を挙げませんでした。自分も忙しかったのですが、当時勤めていたのが小規模なコンサルティング会社だったので「 週3日コンサルティング会社で働き、週2日は時間を使うことができる」と考え、「勤務先の社長に相談して合意が取れたら、社長をやってもいいよ」と手を上げたのが経緯です。なので、自分でスタートアップをやるぞと意気込んで始めたわけではないです。
国際レース自体の話が来たのは2009年なのですが、レースそのものは2007年から始まっていることは知っていました。 Google Lunar XPRIZEは、 Googleがスポンサーで、Xプライズ財団が運営しているんです。 彼らにとってこのレースは初めてではなく、過去に開催していたAnsari XPRIZEという国際レースに一番影響されています。「民間の資本のみで人間が宇宙旅行できるような機体を開発したら賞金1000万ドル」、今でいう15億円ぐらいを獲得できるレースでした。
そのレースに成功した会社が2004年に現れたんです。スケールド・コンポジッツ社という、アメリカの宇宙ベンチャー企業です。機体が完成し、民間人が初めて宇宙空間に到達しました。
当時、私はアメリカの大学院に通っていたのですが、その機体のテストパイロットが講義に来て、ワクワクする話をしてくれました。そのとき、これから民間で事業として大きくなっていきそうだと“夜明け”を感じました。宇宙開発がこれから商業化されていくのがあり得ると考え、そのためには技術はもちろん、技術だけではなく「経営と資本」が必要であると感じました。自分はどちらかというと技術開発ではなく、技術開発ができる商業的な場を作っていくことに関心があり、コンサルティング会社に入りました。
その後、Google Lunar XPRIZEが始まったことを知りました。ただ、いきなり参画できるとはイメージしていませんでした。どれだけ頑張ったとしても、最低50億円以上かかります。 「そんなお金、到底集められない」「規模が大きすぎて自分には難しい」と直感的に思っていました。ただ、声がかかったのでやってみることにしました。