起業で人工物である世の中に変化を
クラスター株式会社 / 代表取締役CEO 加藤直人
京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にVR技術を駆使したスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。現在はイベントだけでなく、好きなアバターで友達と集まったりオンラインゲームを投稿して遊ぶことのできるメタバースプラットフォームへと進化している。2018年経済誌『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。同じく2022年、2023年には「日本の起業家ランキング」のTOP20に2年連続で選出。著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社/2022年)。
クラスター株式会社は、メタバース空間の開発と運営をしております。
その事業は大きく2つのモデルがあって、ひとつは法人様向けです。様々な会社がメタバースのテクノロジーを使って何かやりたいというときに、弊社のオールインワンなメタバースシステムを提供しています。例えば、国内の自動車会社12社とコラボして、バーチャル上で車をカスタマイズして乗ることができるメタバースゲームを開発・提供したり、G7サミットのような国際会議で弊社のサービスを使っていただいたりしています。
もうひとつは、個人にもメタバースサービスを解放しています。ユーザーが自らバーチャル空間自体を作って、例えば、カフェを作って運営していたり、ゲームを作って遊んでいたり、音楽コンサートを開いたり、多くの人々が色々な活動をしています。住んでいる、と言っても良いと思います。そのなかに、アクセサリーといったデジタルアイテムを売買する機能があり、その手数料をいただく形の事業もあります。
今では、我々の領域に「メタバース」という名前が付くようになりましたが、そもそも私は「コンピューターの未来」を考えていました。コンピューターがどんどん進化する過程の中で、いつか空間自体がコンピューターになる時代が来るはずだと確信していたので、『その時代におけるテクノロジーを開発しよう』というのが発端にありました。つまり、最初からこのテクノロジー自体を、あまねく人々やインダストリーに提供したいという想いがあったんです。
ただ、初期の2017~19年の間は、その中でもエンターテイメントイベントに特化することにしました。ちょうどそのタイミングで、バーチャルYouTuberが出てきたので、彼らの音楽コンサートのための機能を拡充していったのですが、2020年頃、コロナによる緊急事態宣言が出たタイミングで、一気にこのサービスが色々な場所で使われるようになったので、それに合わせて事業も広げていきました。
そうですね。
親和性の高さもありますし、『すべてに使えます』という風に言うのは、裏を返せば『何にも使えない』と思っていて、サービスを作るうえで強烈なユースケースを作ることが非常に重要だと考えていました。
『VRのデバイスやゲームエンジンの技術をゲーム作り以外のことに使おう』というコンセプトのもと、クラスターというサービスは2017年にできましたが、最終的には、『全人類・全産業に使ってもらおう』というビジョンを描いていたのですが、とにかく最初は人が集まるコンサートの実施を選択しました。
やはり、「アニメやゲームとのIPコラボ」は強いです。初めてポケモンさんのテーマパークを作ったときに、大きな反響もありましたし、メタバースの期待値の高さや広がりを実感しました。。日本は、それが最終的な砦だとすら言えるくらい、ゲームやアニメのカルチャーがすごく強い国じゃないですか。COOL JAPANという言葉があるくらいですから、そういったIPとのコラボが、やはり相性いいんだなと実感しました。
もうひとつ、特徴だと思っているのが「教育」です。clusterが幅広くが使われるようになったタイミングで、多くの学校さんから『授業はもちろん、卒業式や入学式、文化祭でもこれを使いたい』と問い合わせをいただいて、実際に今も使っていただいています。特に、小学生や中学生にクラスターを使っていただく中で、バーチャル空間のシステムの説明なしに、いきなり使いこなすのをみて、驚きを覚えました。物心ついたときからバーチャル空間に触れているデジタルネイティブの子どもたちが、これから生まれていくんだろうなというのをすごく感じるようになったのが、強烈な体験でしたね。